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 ラグビーのトップリーグやオートバイレースで活躍するヤマハ発動機が、ボブスレー日本代表を支援し、2018年平昌五輪で初のメダル獲得を狙う。ヤマハは15年からそりの高速化に取り組んできた。17年世界選手権の女子2人乗りで7位に入った押切麻李亜(まりあ、ぷらう)は、ラグビー部コーチの指導を取り入れて、スタートの走りを磨く。(忠鉢信一

 始まりは15年、ボブスレー日本代表のスタッフが東京モーターショーで仕掛けた「飛び込み営業」。大型バイクなどを展示していたヤマハのブースで「ボブスレーを作ってもらえませんか」と頼み込んだ。応対したのは、人力飛行機に取り組んだことがある開発部長。同社には、就業時間の5%は本業以外の自由な研究に充てられる制度がある。ほどなく「ボブスレー研究会」が立ち上がった。

 ソチ五輪の男子2人乗りで使われたラトビア製のそりを買い取り、高速化を図った。研究会に集まったメンバーの一人、増田智義さんはオートバイのモトクロス世界選手権を走ったこともあるプロライダー。そりの部品一つひとつの役割を教えてもらいながら、まずは整備を進めていった。

 オートバイと比べると大雑把なところが見つかった。たとえば、ハンドルは左右のバランスが狂ったままで、手元の操作で補っていた。機体の振動に影響する部品の調整も、ボブスレーの選手は手の感覚だけで調整していた。増田さんは測定機器を使って精密に調整するようにした。

 高速化のポイントは振動を減らすこと。オートバイの走行中の状態を再現する装置にそりを乗せ、テスト走行で得たデータをもとに滑走中のそりの状態を再現。改良とテストを何度も繰り返した。振動を減らすだけでなく、人間が負担に感じない揺れ方に変えていく工夫もした。そのノウハウは企業秘密。増田さんは「オートバイやスノーモービルのレースで培った経験が生きた」と語る。

 1シーズン目の15年12月、ヤマハが改良したラトビア製のそりは、全日本選手権女子2人乗りをコースレコードで優勝した。

 2年目にはラトビア製の2号機を新たに購入し、さらに高速化していった。16年12月には、ワールドカップの1ランク下にあたるヨーロッパカップの第4戦ケニクゼー大会で優勝。日本初の快挙を遂げた。

 日本ボブスレー・リュージュ・スケルトン連盟は、平昌五輪の女子2人乗りに2チームを出場させようとしている。昨年の世界選手権はスイスチームから借りたそりに押切と君嶋愛梨沙(日体大)が乗って7位。連盟は初のメダル獲得を狙うため、ヤマハが高速化した2台に加えて、オーストリア製の新しいそり1台を購入。3台のうち最速のマシンを平昌五輪に出場する1番手のチームに与える方針だ。

「清宮ラグビー」で選手強化も

 そりの開発は、選手強化の「コラボ」にも発展。ボブスレー日本代表からの打診にヤマハ発動機ラグビー部の清宮克幸監督は「ボールを使わない練習を一緒にやってみては」と応じた。

 7月4日、世界選手権で7位になった押切が、静岡県磐田市にあるヤマハ発動機ラグビー部の施設を訪れた。筋力トレーニングやスタートダッシュの指導を受けた。ラグビー部の体力強化を担当する井野川基知コーチが「ラグビー選手が走ったり押したりする力を高めるための練習」を伝授した。

 バーベルを床から胸まで持ち上げる練習で、井野川コーチは押切に「ボブスレーに当てはめたら、どういう動きに効果がありそう?」と問いかけた。地面をけった両足が感じる反発力への意識の向け方や、体の合理的な動かし方を教えた。押切は「細かい動きまで意識して、うまく体を動かせるようになった。これで筋トレがダッシュ力につながる」と実感していた。

 続いてラグビー場に向かい、芝生の上を走ってスタートの動きを改善した。今後は、井野川コーチと連絡を取り合いながら個人練習を続けたいという。

 ボブスレー日本代表の大石博暁強化部長は、ボブスレーで長野、ソルトレーク両冬季五輪に出た後、バレーボール男子日本代表の体力強化担当として、北京五輪出場を勝ち取った。井野川コーチもプロボクシングなど多様な指導経験がある。異なる競技のノウハウの融合について、大石強化部長は「これさえやっておけばいいという練習はどの競技にもない。ラグビーの視点で、どういう発想からトレーニングが生まれるのか興味深い」。井野川コーチは「まだまだ伸ばしていける」と確信していた。