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 エスカレーターは急ぐ人のために片側を空ける――。こんな都市部の暗黙の「マナー」に、大変な思いをしている人たちもいる。障害があって左側のベルトをつかめない。子どもと手をつないで並んで立ちたい。そんな思いを知ってもらい、誰もが安心して歩ける街にしようという呼びかけが始まっている。

 埼玉県の会社員の女性(46)は10年前に脊髄腫瘍(せきずいしゅよう)の手術をし、首から下にまひがある。エスカレーターでは右側に立った方が安定するが、「迷惑をかけるから」と左側に寄っていたという。杖をついて乗ろうとすると、またいで追い抜く人も。「荷物がぶつかって落ちそうになることもあり、ヒヤヒヤです」

 こうした声を聞き、「気兼ねなく右側に止まって乗れる雰囲気を作ろう」と動き出したのが、東京都理学療法士協会だ。6月中旬、東京都内の駅でチラシなどを配り、「止まって乗りたい人もいる。立ち止まる勇気を広げよう」と訴えた。

 日本エレベーター協会の5年ごとの調査によると、2013~14年のエスカレーターの事故は1475件と、08~09年の1・2倍。交通機関の関連施設での発生が約半数を占める。エスカレーターは歩くように設計されておらず、段差が大きいため転倒しやすい。追い抜く際に接触して事故につながる可能性もある。

 日本エレベーター協会では、立ち止まって手すりのベルトをつかんで乗るよう呼びかけてきたが、浸透はまだまだ。首都圏では右側、大阪などでは左側を空けるのが一般的で、調査に「エスカレーターを歩行してしまうことがある」と答えた人の割合も毎年8割を超える。

 都理学療法士協会の森島健会長は「大変な思いをしている人がいることは、まだまだ知られていない。一人で習慣を変えるのは難しいが、東京五輪・パラリンピックに向けて理解を広げていきたい」と話す。(仲村和代)