[PR]

 甘柿、博多万能ねぎ、紅タデ……。様々な農産物の有力産地として知られる福岡県朝倉市。九州北部を襲った豪雨で果樹が押し流され、畑が土砂に覆われる被害が各地で出ている。惨状を前に途方に暮れる農家。道路の寸断で、地元農協では被害の全容を把握できない状態が続いている。

 「ゼロからやり直さなければ。10年以上かかる」。朝倉市山田の関屋純男さん(58)の柿畑では、木が流されたり、根元が土砂で覆われたりした。畑に向かう道路が壊れ、害虫や伝染病を防ぐ農薬散布などができない場所もある。

 朝倉市杷木志波の木原功さん(73)の柿畑には、祖父の代から引き継いできた樹齢100年以上の柿が数百本ある。だが、畑に向かう道路が5日の土砂崩れで寸断され、被害状況すら確認できない。「早く道路が通り、農薬をまかないと。損害はえらいことになる」。不安と焦りが募る。

 JA筑前あさくらによると、朝倉市は国内有数の甘柿の産地で、2015年度の生産量は4100トン余にのぼる。甘柿は日当たりの良い南向きの山の斜面で栽培する。今年は晴れが多く、例年より甘くなるという期待が高まるなかで、豪雨に襲われた。

 道路の復旧が進まず、JA筑前あさくらでは被害の全容が把握できていない。浜崎俊充総務課長は「損失は相当膨らむだろう。『桃栗三年、柿八年』はあくまで例え。柿の幹が太くなり、よく実がなるまでに20~30年はかかる。高齢化が進む中、やめる農家が出ないように復旧の支援をしていきたい」と語る。

 市内ではブドウや桃、梨など他の果樹も被害を受け、影響は観光農園にも及ぶ。朝倉市黒川にある8カ所の梨園は、8月ごろから予定していた梨狩りを相次いで中止した。あさくら観光協会の担当者は「梨狩りには毎年多くの観光客が訪れる。あと少しだったのですが」と落胆する。

 被害は野菜にも広がる。朝倉市が唯一の生産地とされる博多万能ねぎのハウスが倒壊したり、土砂に覆われたりした。

 白水民子さん(72)はハウス約30棟(計1・2ヘクタール)に土砂が入り込み、ネギが全滅した。ハウスへの浸水で地下水をくみ上げるポンプも壊れた。「泥が乾いた後で何度も薬をまいて、土を耕さないと」

 刺し身のツマに使われる紅タデ。生産地は全国で数カ所に限られる。JA筑前あさくらによると、朝倉市内のハウスは一部が倒壊したり、土砂が流れ込んだりしたという。(伊藤繭莉、窪小谷菜月、浅野秋生)

■東峰村、農家の9割が被災

 九州北部の豪雨で、福岡県東峰村では基幹産業のコメが大きな打撃を受けた。農家の9割が被災し、収穫は元々の想定よりも7割ほど減る見通しだ。

 特に被害が大きい東峰村宝珠山。14日、谷あいに広がる棚田には流木が折り重なっていた。

 「夢つくし」を生産する井上和是さん(68)の田んぼには人の頭ほどの石や土砂が大量に流れ込んでいた。約3反(30アール)の水田は3分の1がイネの葉先を残して埋まった。別の場所の1反は完全に埋まったという。

 秋に少しでも多く収穫できるように、井上さんは田んぼの木くずを取り除き、水路を確保する作業を続ける。だが、「田んぼの土と川の砂は全然違う。残ったイネも順調に育つかどうか」と心配は尽きない。

 県と村の調査によると、コメ農家301戸の約9割の267戸、作付面積では104ヘクタールのうち75ヘクタールで何らかの被害が確認された。村全体の収穫は豪雨被害前の想定よりも約7割減る見込みで、被害額の推計は約8300万円。村によると、水路や排水設備などの復旧費も加えると被害額はさらに膨らむ見通しという。(井上怜)

■地すべり学会「壮齢樹も流され被害拡大」

 日本地すべり学会は16日、大分県日田市で記者会見し、九州北部の豪雨による土砂崩れの現地調査に関する概要を発表した。樹齢40年以上の木も流され、被害が広がったとの見方を示した。

 学会は14日から、福岡県の朝倉市と東峰村、大分県の日田市と中津市でおきた土砂崩れの現場6カ所を調査。その結果、山林の地表を大量の雨が流れた跡が残っていた。また、通常の大雨の場合は十分に根を張っていない若い木が流されるのに、今回は「壮齢樹」と呼ばれる樹齢40年以上の木も流されていたという。

 学会は、地中に吸収できる量をはるかに上回る雨水が地表を流れ、その勢いで壮齢樹も押し流したため、土砂崩れによる被害が膨らんだとの見解を示した。

 今回の調査結果を詳細に分析し、「降雨への耐性を向上させる森林作り」を提言する考えも示した。(近藤康太郎)