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 2016年度の関西スクエア賞を受賞した、ゴリラなどの野生動物の腸内細菌を研究する京都府立大学大学院特任講師の土田さやかさん(34)の記念講演が先月、大阪市内であった。野生動物を追い続ける研究の魅力を、ゴリラ研究者で京都大学総長の山極寿一さん(65)と語り合った。

 山極 動物は基本的に食べるものによって分類されると思うんです。でも、人間っていろんな環境で暮らし、食べるものも全然違う。地域によって腸内細菌の種類も違うのかな。

 土田 (狩猟採集民の)ピグミーや、ビーガン(完全菜食主義者)のような極端な食事をしている人の腸内細菌はよく調べられています。菌種自体は肉食、菜食で違ったりしますが、持っている分解能や酵素は、だいたいどれも同じです。

 山極 アフリカでアフリカの物を食べると、最初は「もたれるな」と思っても、2、3週間したらおいしく感じられて、腸内も安定してくる。あれは、腸内細菌が変わるんですか。

 土田 腸内細菌は変わらないと思います。中身が変わるというより、(食べ物が変わると)それに適応した酵素を出したりするんだと思います。

 ――腸内も賢く働いているということですね。

 土田 菌は賢いんです。

 ――山極さん、ゴリラに仲間と認めてもらった瞬間はありましたか。

 山極 ゴリラに怒られた時ですね。私を敵と感じているときは、逃げたり、攻撃したりするだけです。とがめるということは、私の行動を直せということ。直すと、「うう~ん」と納得してくれる。そういう瞬間があるんです。研究者にとって、ゴリラの群れの中に入っていくということは、ゴリラに自分をペットに感じてもらうということ。そばにいても許してもらえるという感覚なんですね。

 ――ゴリラを見て、人間が学ぶべき知恵はありますか。

 山極 自然というのはあっさりしたものです。ゴリラ同士は信頼し合っているけど、あまり相手に期待しないし、あっさりと別れていく。我々はあまりにも仲のいい関係にこだわり過ぎるんじゃないか。だから人間関係をなかなか解消できず、傷ついたり、「こんなはずじゃない」と思ったり。もっとあっさりした関係を築けないかというのが学んだことです。

 ――土田さんはどのような研究をしていきたいですか。

 土田 よく目にする動物の系統樹(進化や別れた道筋を枝のように示した図)は、枝の長さが何万年だということが分かっています。細菌は化石が残らないので、系統樹に時の概念が組み込まれていません。ある菌を中心に考えたとき、目的の菌はどのような分岐の先にあるのかという分岐図でしかありません。細菌に関して時という概念を与えて、時間軸のある「曼荼羅(まんだら)図」を見たいなと思っています。

 それにはいろんな動物で研究していくしか方法がありません。それが分かってくれば、何を条件にこの菌が宿主とともに共進化してきたかが見えて、なぜ健康でいられるのかという不思議にも迫れるのかなと、私自身は考えています。(司会=石田勲・大阪本社科学医療部長)

野生動物特有の細菌、動物保全に生かす

〈土田さん記念講演〉我々のおなかには、500兆~1千兆個ほどの腸内細菌がすみ、その量はおよそ1キログラムです。食べ物の消化吸収を助けてくれます。我々という存在は腸内細菌抜きには考えられません。動物は種ごとに自らを特徴づける腸内細菌を持っていると考えられますが、研究対象のほとんどは飼育動物です。飼育下では腸内細菌の構成が変わり、本来の姿は分かりません。そこで、野生動物の腸内細菌のハンティングを始めました。

 アフリカでは、ゴリラとチンパンジーのうんちから新種のビフィズス菌を発見できました。ビフィズス菌は酸素を嫌うので分離が難しいと予測していました。顕微鏡でビフィズス菌に特徴的なYの形が見えた時はほっとしました。

 この菌が属するグループの菌をゴリラは1種、チンパンジーは2種、ヒトは5種持っています。共通祖先から枝分かれする過程で、菌側も宿主に適応して種分化したのではないかと考えています。

 希少動物の保全に役に立つ研究も進めています。野生のニホンライチョウから、飼育下のライチョウが持っていない、病原菌と闘う乳酸菌を見つけました。飼育下の個体を野生でも生きられるようにするには、腸内細菌も非常に重要になると考えています。

自然が見せる予想外、自分を変える

〈山極さん講演〉私の師匠の伊谷純一郎さん(故人)は、自然を知るには自然の中に入らなければならない。そのためにはチームは小さい方がいいという考えでした。それを我々は「捨て駒精神」と呼びます。学生をアフリカに連れていき、1人でほっぽり出します。「一から十まで一人でやりなさい。それによって、将来、指導者になれる」ということです。

 私もほっぽり出された学生でした。現地の言葉や文化を覚え、冠婚葬祭に参加し、現地の人たちに協力を仰ぎながら、ひたすらゴリラを追いかけました。

 土田さんとの共通点は、フンが一番頼りだったということです。足跡がゴリラのものだと確認するには、フンを目の当たりにしなければなりません。フンを拾って洗い、「こんな物を食べているのか」と調べるのが、最初の仕事でした。

 自然に肌をさらし、自然の中に入っていくと、いつか自然は予想もしなかったことを見せてくれる。それを見た途端に自分の世界は変わります。

 土田さんのビフィズス菌の発見も同じような経験だったと思います。どう役立つか、その時にはわからなくとも、その発見によって新しい道が開けてくる。扉を自分が開けたんだという喜びと自負が、研究者の背中を押してくれます。

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 関西スクエアは、さまざまなテーマについての問題提起や情報発信を目指す会員組織です。1998年に発足。朝日新聞大阪本社に事務局があります。政治学者で京都精華大学専任講師の白井聡(さとし)さんがホスト役を務める対談・対論イベント「中之島クロストーク」、関西ゆかりの作家が著作について語る「中之島どくしょ会」などを開いています。

 関西スクエア賞は関西スクエア発足10年を記念し、2008年度に設けました。関西を足場に活躍する才能ある若い人材を応援するねらいです。対象は学術、経済、スポーツ、芸術、芸能、市民運動など幅広い分野です。関西スクエア会員と朝日新聞社でつくる選考委員会で受賞者を決めています。(構成・阿部彰芳、写真・槌谷綾二)