[PR]

■甲子園観戦記 西川きよしさん

 何人くらいいるんですか? 4万6千。すごい視界です。これは素晴らしい舞台です。71歳にして初めての甲子園球場です。始球式をしたことはありますが、野球を生観戦するのも初めてです。

 おお、でかい。一回、日本文理の川村君が打った。人生で初めて見たホームランです。75歳の大井監督は同世代。お元気ですね。この大会を最後に引退されるんですか。あれ、今度は笠原君がホームラン。監督さんの花道を飾ろうと、心を一つに序盤から飛ばしています。

 僕には高校時代がないんです。家が貧しかった上、父が病気になり、中学卒業の翌日から自動車修理工場で働いた。そこで大やけどを負って入院した時に、立ち止まって人生について考えることが出来た。そして、お笑いの世界へ進もうと決めたんです。

 コンビを組んだ横山やすしさんも僕も野球は素人。ボークと言えば、豚肉? そんなレベルです。夏になると、劇場の楽屋で他の芸人たちが高校野球のテレビ中継を見て、大騒ぎしている。素人の我々にはよく分からないけど、全国の人たちはこれだけ熱く盛り上がっている。よし、これをネタにしようと「ああ! 高校野球」という漫才を作りました。盗塁といえば、ベースを抱えて走る。そんなネタがよく受けました。

 鳴門渦潮が反撃開始。鳴門の渦が巻いてきました。日本で一番おいしい魚をご存じですか? そう、鳴門のタイです。

 十代の頃の下積みはしんどかったけど、振り返ればいい修業になった。コンビの頃もネタは500本くらいつくった。意見が食い違い、つかみ合いのケンカをしたこともある。我々の世界は華やかに見えるかもしれませんが、陰で努力を重ねないと人様を喜ばせることは出来ません。

 こうして初めて高校野球を観戦していても、やっぱり「小さなことからコツコツと」が大事なんだと思うんです。努力を重ねたからこそ、彼らはいまこの素晴らしい球場でプレーが出来ている。たとえ甲子園には出られなくても、これまでの努力は社会に出て必ず生きます。

 八回、2点を追加され鳴門渦潮は厳しくなった。負けるかもしれないと思っても、最後まで一生懸命です。心が洗われます。高校野球は、見る人の心の浄水器だとも思うのです。だから、5万にも近い人がここにいるんでしょう。勝利監督インタビュー。大井監督はうれしそうです。花道は続きます。素晴らしい一日になりました。ええもんを見させて頂きました。(構成・竹田竜世)

     ◇

 〈にしかわ・きよし〉 1946年、高知県出身。63年、喜劇俳優の石井均に入門。66年に漫才コンビ「横山やすし・西川きよし」を結成し、上方漫才大賞などを受賞。86年から参議院議員を3期18年務めた。

こんなニュースも