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 高齢化と医療技術の進歩で増え続ける医療費をどう抑えるのか。8月に3回にわたって朝刊に掲載した「医療とコスト」の企画に、読者から多くの反響が寄せられました。その声の一部とともに、医療経済の専門家、医療経済研究機構所長の西村周三さん(71)の見方も紹介します。

「タダだから」安易に

 寄せられた意見からは、増え続ける医療費を前に、「無駄遣い」を続けることへの危機感が浮かび上がります。

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●5年前、末期がんの父が延命治療を拒否し、私はそれを受け入れました。「ない袖は振れない」というのが私の基本的な考えです。たとえ自分や自分の身内であっても、ベッドの上で闘病生活を続ける時間を少しだけ延ばすために、高額の血税を投じて欲しいと要求する権利はないと思っています。ただし、それでは新薬の開発意欲が低下する、といった反作用はあるかもしれません。それに対しては、血税を投入しても、大学などの研究をもっと手厚く援助するべきだと思います。(大阪府・50代女性)

●私が問題だと思うのは、自治体によって違いますが、子ども医療費の無料化です。病院に行くと、少し鼻水が出た、少し湿疹が出た、など本当に病院に行く必要があるかわからない子どもが大勢います。子どもはすぐに病気になり、医療費が大変ということはわかりますが、無料ということで安易に病院にかかる親が多いのも事実です。医療費を1割でも0.5割でも負担することにして、少しでも出費があれば、不要な受診は控えると思います。今後ますます高齢化が進む中、互いに痛み分けをして少しでも長くこの医療制度が保てたらよいと思います。(岡山県・40代女性)

●費用対効果と言われても、それが命にかかわる場合、やはり割り切れないことも多い。本来受けられる治療を、自分なら断れるけど、それが親なら、子どもならと思うと複雑です。まずは無駄に使われているコストを削減するために、特に高齢者が、必要な薬を本当に飲んでいるか、効果はどうか、と一括管理してもらえる仕組みがあればいい。「保険診療で自己負担は多くないから、出された薬は何でももらう」という意識の改革も、高齢者を別の病気から救うことにもなると思います。(兵庫県・50代女性)

●入院中に同じ部屋だった60代の女性は生活保護の受給者で、がんとうつ病を患っていました。自分の死を穏やかに受け止めているすてきな方でしたが、時々、「飲んでないうつ病の薬がどんどんたまってしまうから捨てている。でも、生活保護で薬代がタダだからいいの」と話していました。記事では、生活保護を受給している人の医療費が無料であることが記載されていません。生活保護受給者を差別することが本意ではありませんが、医療費を押し上げる要因の一つであること、その受給者が増加している実態についても取り上げていただきたいと思います。(神奈川県・40代女性)

薬を減らすどころか

 医療現場からも声が寄せられました。

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●私は開業医ですが、症状に合った最良の選択をし、それが高かろうが安かろうが、全く意識にありません。患者のコスト意識には、かつて実施されていた高齢者医療費無料化も影響しているのではないでしょうか。今頃になってコスト意識が低いと言われても、政府の責任転嫁としか思えません。簡単に「風邪薬を保険から外す」と言いますが、風邪と肺炎を誰が判断するのですか。市販薬を飲んでいて肺炎の発見が遅れ重症化したら、政治家が責任を持ってくれるのですか。(茨城県・60代男性)

●調剤薬局の事務をしています。いったん生活習慣病で薬を処方すると、大抵の医者は薬を減らす努力を患者と共にしていないと感じます。内科受診のついでに湿布70枚を毎月出し続けているというのも多数あります。日本の医療制度は本当に素晴らしいと思いますが、今いちどその制度が国民に支えられて出来ていることに気付いてほしいと思います。本当に病気で困っている人のために医療制度が崩壊しないよう、国民一人一人が自覚してほしいです。(神奈川県・50代女性)

●私が勤める整形外科のクリニックでは、内科や皮膚科、耳鼻科などの薬でも、患者が希望すればした分だけ処方します。患者が希望しなくても、太った人には「痩せるから」と漢方薬を出したり、中性脂肪値を下げる薬を「高級サプリメントだよ」と言って処方したりします。誠実な医師もいますが、患者をお金としか思っていないような医師もいます。患者の側も、医師に言われるがまま検査を受け、診療明細書も見ないのでは、他人任せすぎると感じます。(神奈川県・30代女性)

医師と患者、コスト話し合って 西村周三・医療経済研究機構所長

 欧米では「シェアード・ディシジョン・メイキング(shared decision making=共有意思決定)」という取り組みが広がっています。医師と患者が診察の場で、お金のことも含めて相談する。「これお金がかかるけど、どうする? 我慢する?」といった感じです。

 一方、日本では医師からの一方的な説明になりがちで、反論できる患者はあまりいない。医師がコスト意識を高め、もっと患者と話し合うべきです。例えば、腎臓病を治療する透析を受ける患者は30万人以上いて、1人あたり年500万円程度かかる。糖尿病も原因の一つですが、医師が「予備軍」の患者に透析の費用を伝えると、健康管理をする人が増えたという話もあります。

 抗がん剤など高額な薬も問題になっていますが、(薬の効果を調べる)治験の対象は現役世代が多く、75歳以上に本当に効くのか十分にわかっていません。抗がん剤を投与するより、緩和ケアなど精神面も含めたケアを受けながら生きる方が、高齢患者にとってより良い生活を送れる可能性があります。その結果、医療費が減るかもしれません。

 ただ、現役世代の人に対しては、高額な薬でも保険で使える状態を維持しておくべきです。公的保険の意義は、患者の負担が過度に大きくなるのを抑えること。だから、例えば風邪で診察を受ける場合は、逆に自己負担率を今より高めてもいい。

 財源としては、働けない高齢者にも負担を求める消費税の税率をある程度上げざるをえません。高齢者は資産を持っている人も多いので、資産課税の強化も必要になってくると思います。(聞き手・生田大介)

西日本、医療費多い傾向

 医療費には地域差があります。

 年齢構成の違いを調整した1人あたりの医療費を都道府県別に見ると、2015年度に最も多かった福岡県は64.1万円。最も少ない新潟県(46.6万円)の1.4倍近くになりました。

 厚生労働省の分析では、西日本は多く、東日本は少ない傾向があります。5位の北海道を除き、九州、四国、中国地方がトップ10を占めました。

 医療費の多い地域は医療機関のベッド(病床)数が多く、平均的な入院日数も長くなります。在宅での死亡率は低い傾向にあります。例えば医療費が全国2位の高知県は、10万人あたりの病床数が約2700と全国平均の約2倍、最も少ない神奈川県の約3倍にのぼりました。厚労省は、都道府県ごとの病床数を適正な水準に抑える施策を進めています。

 高齢者の医療費が多い地域は介護費も多いという分析もあり、食事や運動など生活習慣の改善が重要だと指摘されています。そのため厚労省は、特定健診の実施や糖尿病の重症化予防などを進めた自治体に対する財政支援を手厚くする制度を18年度から本格的に始める予定です。

都道府県別の医療費ランキング(2015年度、1人あたりの年額)

【多い順】

1位 福岡県 64.1万円

2位 高知県 63.7万円

3位 佐賀県 62.7万円

4位 長崎県 62.0万円

5位 北海道 61.1万円

【少ない順】

1位 新潟県 46.6万円

2位 千葉県 47.7万円

3位 静岡県 47.8万円

4位 岩手県 47.9万円

5位 栃木県 48.2万円

※厚生労働省の資料から。国民健康保険と後期高齢者医療制度の合算。年齢構成の違いは調整している。全国平均は53.7万円

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 日本では効果があればどんな薬でも保険適用される――。予算上、使える薬に制約がある英国で、患者団体の代表にそう話すと「天国のように思えるけど、みんなの負担を考えると……」と困惑しました。一方、日本では負担に関する意識が薄いと感じます。読者からも医師や患者のコスト意識の低さを指摘する声が多く寄せられました。私の家にも、子どもが無料でもらって使い切らないままの薬が多くあります。自らのこともかえりみながら、医療とコストについて今後も考えていきます。(生田大介)

◆ほかに伊藤綾が担当しました。

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