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 臓器提供を巡る家族の葛藤や、移植を受ける側の迷いを描いたフランス映画「あさがくるまえに」が公開中だ。カテル・キレベレ監督と、心臓外科医として、ドイツで長年心臓移植に携わってきた南和友・北関東循環器病院長が、映画の見どころや臓器移植をめぐる家族の思いなどについて語り合った。

 映画は、フランスのベストセラー「ザ・ハート」が原作。サーフィン好きの青年シモンが脳死と判定され、家族は突然の出来事を受け止められない中、臓器提供をするかしないかという決断を迫られる。一方、50歳にさしかかる音楽家のクレールは、心臓移植しか助かる方法がない。しかし、自分が誰かの心臓を移植されてまで生きるべきなのか、自問自答している。

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 南さん すばらしい映画作って下さってとてもうれしいです。ドイツのプロダクションと臓器提供の映画を作ろうとしたことがありますが、非常に難しくてできませんでした。監督は、どんな苦労がありましたか。

 カテル監督 臓器提供については、小説の中にすでに緻密(ちみつ)に書かれていましたが、映像は、よりいっそう詳細を描かなければなりません。病院の関係者の近くで、彼らの使う言葉や、所作を間近で見せてもらいました。役者も、医療スタッフの所作を観察して、演技に生かしてもらいました。

 南さん とくに映画の中で重要視したシーンはありますか。

 監督 心臓移植のシーンですね。心臓や人体は作り物ですが、いかに本物のように見せるか、特殊効果のスタッフと意見交換して出来上がったシーンです。死と生が移動していく現実を、どう再現できるか、神経を使いました。

 (ゴム素材の)ラテックスで作られた心臓はすごくコストがかかるので、練習用1個、本番用1個しか準備できません。外科医役は、まっすぐにメスが入らないとダメになるので、緊張したそうです。

 ――脳死と判定された後、その経緯を知らず、家族の前でシモンに話しかけた看護師が、医師に叱られるシーンがありました

 監督 あのシーンでは、「脳死」とは死が見えない形だ、というのがハッキリすると思います。医師が家族に脳死と伝えようとしていたところに、看護師がシモンに話しかけてしまった。家族はシモンが生きていると思ってしまい、死を受け入れにくくなってしまいます。

 ――監督から南さんに聞きたいことが

 監督 映画に関わったドクターの中には、自分が「死」を判定していいのか、迷ったケースがあったと言います。先生にはありましたか。

 南さん 移植医は、自分で脳死判定はできません。でも、脳のスペシャリストが判断しているので、それを100%信じます。自分では判断すべきではない。それを受け入れます。

 ドイツに、日本の7歳の患者が移植のためにやって来たことがあります。3日目に脳死になってしまいました。日本人の両親は、その場で死を宣告され、臓器を提供する側に回りました。脳死というものを、なかなか認めない人もいます。難しい問題です。

 ――心臓を摘出する手術の前に、シモンと臓器移植のコーディネーターが向かい合うシーンが印象的でした

 南さん 死への尊厳というか、ドナーへの感謝の気持ちを感じました。

 監督 手術後には、遺体をきれいにして家族のもとへお返しします。感謝の思い、それを表したシーンです。

 ――日本の人口100万人あたりのドナー数は0・7人。フランスは28・1人で、大きな差があります。

 南さん 日本でなぜ臓器提供が進まないのか、どう思いますか。

 監督 フランスではオプトアウトといって、生前に「臓器提供はしない」と宣言しない限り、臓器が摘出できるので、NOと言わない人は基本的に潜在的なドナー候補となります。だから、「臓器提供についてどう思いますか」と聞いても分からない人が多いと思います。日本のように、本人や家族から「提供したい」という意思がなければできないなら、フランスも難しいと思います。

 ――よく日本と海外では宗教観が違うと言われますが、フランスのようにキリスト教の国でも、迷いがあるのですね

 監督 実際にその状況に直面したときにどうするかは、家族がどう考えるか、ということだと思います。教育の中で、臓器提供の意味を取り入れることで、認識は変わるのではないですか。

 南 学校での教育は本当に大切ですね。死はどういうものか、海外では教会で教えていますが、日本は死をタブー視しがちです。この映画を見て、臓器提供に関心を持ってもらいたいですね。

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 「あさがくるまえに」は、9月16日から、ヒューマントラストシネマ渋谷、109シネマズ川崎、シネ・リーブル梅田、名古屋センチュリーシネマなどで、全国縦断ロードショー。上映館はホームページ(https://www.reallylikefilms.com/asakuru-theaters別ウインドウで開きます)で確認できる。(水野梓)

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 《カテル・キレベレ監督》 コートジボワール生まれ。この映画が日本デビュー作となる。

 《南和友医師》 1974年、京都府立医科大卒業。約30年間にわたりドイツで心臓移植に携わった。

<アピタル:マンスリー特集・移植>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/monthly/