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 脳死と判定された人から臓器が提供できるようになった臓器移植法の施行から、10月16日で20年になります。どのような法律で、何が課題になっているのでしょうか。

 Q 臓器移植ってどんな医療ですか。

 A ほかの治療では治らない重い病気などで心臓や肝臓などの臓器が機能しなくなった人に、代わりに他の人の健康な臓器を移植して、機能を回復させる医療です。臓器を提供してくれる人(ドナー)がいないとできない特殊な医療と言われます。

 Q どれぐらい前から行われていますか。

 A 日本では、1964年の腎臓や肝臓移植が、初の本格的な臓器移植といわれています。一方で当時は、人工呼吸器など医療機器の発達で「脳死」の状態が発生するようになってきました。

 Q 脳死とはどんな状態ですか。

 A 脳死といわゆる「植物状態」には違いがあります。植物状態は、呼吸といった生きるために必要な働きをする「脳幹」の機能が残っており、回復することもあります。脳死は脳幹を含めた全ての脳の機能が失われた状態で、人工呼吸器などがなければ、いずれ心臓がとまってしまいます。

 脳死とみられる状態に陥る原因は、交通事故や脳血管障害などで、急変することがほとんどです。心臓は動いていて、体温があり、家族が「死」を受け止めるのは難しい状況です。

 Q どんな歴史があるのですか?

 A 世界初の心臓移植は、1967年、南アフリカの心臓がとまった患者からの摘出でした。脳死下では、68年1月、アメリカで心臓移植が行われました。

 日本では、68年に札幌医科大で心臓移植が行われました。ですが、移植された患者が亡くなり、「密室での移植だった」「脳死判定や移植される患者の選択は正しかったか」といった批判が集まりました。執刀医が告訴され、最終的には不起訴処分となりましたが、脳死や臓器移植への不信感を生み、日本の移植医療が進まなかった一因ともいわれています。

 Q 法律が施行されたのはなぜですか。

 A 移植を待ちながら亡くなっていく患者らの声や、健康なドナーの体にメスを入れる生体移植に頼る現状の是非についての議論があり、90年に脳死臨調ができ、日本でも脳死の定義について議論が始まりました。「竹内基準」と呼ばれる基準が定まり、国会での議論を経て、97年10月に臓器移植法が施行しました。

 Q 臓器移植数は増えましたか。

 A この法律では、本人が生前、臓器提供の意思を書面で示す必要があり、提供できるのは15歳以上と定めました。こうした厳しい規定から、「臓器移植禁止法」だと揶揄(やゆ)されるほどでした。

 99年、高知県で初の脳死下臓器提供が行われましたが、その後も、年間の臓器提供は数例にとどまっていました。そのため、移植が必要な患者は、生体移植や海外で移植を受ける「渡航移植」に頼らざるをえませんでした。

 Q 改正法が施行されたのですよね。

 A 2008年、国際移植学会が、自国の臓器提供で救える命は自国で救うよう求める「イスタンブール宣言」を出します。この宣言によって、渡航移植が受けられない国が増えてきました。こうした背景から、2009年7月からの国会審議を経て、10年7月に、改正法が全面施行されました。

 改正法では、本人の意思が分からない場合でも、家族の承諾で臓器提供ができるようになり、15歳未満からでも提供が可能になりました。免許証・保険証の裏に意思表示欄ができたのも、改正法からです。

 Q 臓器提供数は増えたのですか。

 A 改正法施行後から、脳死下の臓器提供数は増加傾向にあります。それでも、2015年時点で、日本のドナー数は0・7人で、韓国の10人、米国の28・5人と比べても、とても少ないと言えます。特に子どもの臓器提供では、いまだに募金を集めて海外で移植を受けざるをえない現状があります。

 脳死下の臓器提供は、昨年は64件、今年9月末で49件ありました。ですが、心臓停止下の腎臓提供は減っていて、全体では増えているとはいえません。

 Q どうして増えないのでしょうか。

 A 脳死下で臓器が提供できる施設は、救急救命センターや大学病院など896施設に限られています。ですが、普段の診療に加えて、脳死下の提供提供をするには、脳死判定する医師の確保や脳波をはかる部屋の準備などの負担が重くのしかかります。厚生労働省の調査では、半数の施設で「提供できる体制が整っていない」と答えています。

 Q 移植までどのくらい待っているのですか。

 A 日本臓器移植ネットワークへの移植希望登録者は増加傾向にあり、今年8月末で約1万4千人が移植を待っています。移植までの待機期間は、心臓で平均約3年、腎臓で平均約10年となっています。登録者数が増えていることなどから、待機期間は長くなっている傾向があります。

 一方で、社会の理解は徐々に広まっています。朝日新聞が9月に行った世論調査では「自分が脳死と判定されたら臓器を提供したいですか」という質問に58%が「提供したい」と答えています。その意思を生かす仕組み作りが求められています。

 

<アピタル:マンスリー特集・移植>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/monthly/(水野梓)