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 有名ブランドのスーツに身を包み、頭にハット、首に蝶(ちょう)ネクタイ、足元は黒の革靴――。操るのは稲刈り機だ。

 山形県川西町の米農家斎藤聖人(きよと)さん(29)は、いつもの「正装」で稲刈りを進めている。「格好良くない、おもしろそうに見えない農業のイメージを、自分が楽しみながら変えたい」

 高校卒業後、田舎が嫌で東京や神戸で建築関係の仕事をした。だが、仕事に追われて職場と家を往復するだけの日々に疲れ、また、将来の子育ての環境を考え、4年前、350年以上続く家業を継ぐ決心をした。スーツ姿で作業をしたのは、その年の田植え初日のことだった。

 初めはおしゃれなつなぎなどを試したものの、仙台市でアパレル関係の仕事につく兄の「もし自分が就農するならスーツできめきめの格好をする。だっせぇ格好は嫌だ」という笑い話が心に残っていた。節目だけのつもりだったが、毎日着ることにした。「若い人が農業を選ぶのが当たり前になってほしいし、今農業をしている人には『自由にやっていいんだ』と思ってほしい。自分の姿がそのきっかけになれば」と話す。

 メディアで取り上げてもらい「見に来てくれる人をがっかりさせたくない」という「使命感」も出てきた。暑い日はジャケットのかわりにベストを着る徹底ぶりだ。

 父の善一さん(63)は次男の姿に「若いうちでないとできない。聖人のやり方、自己主張なんだべ」と理解を示す。

 周りの人から「結婚式あんのか」と尋ねられたり、「農業なめてんのか」と詰め寄られたりすることもあったが、気にしない。

 昨年には子どもが生まれた。作付けした15ヘクタールは夏場の低温や日照不足で例年より刈り取り時期が遅れたが、今年もきれいな黄金色に染まった。(福留庸友)