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 1954年、長崎市に生まれ、現在ロンドン在住。日本名は石黒一雄。5歳の時に父の仕事の都合で一家でイギリスに移住し、83年に英国籍を取得した。大学院で創作を学んだが、音楽家になりたかったという。

 82年の長編デビュー作「遠い山なみの光」で、王立文学協会賞を受賞。2作目の「浮世の画家」(86年)でも英国内の賞を受けて注目された。

 この2作は、戦後の混乱期の日本を舞台に、日本人を主人公に描いた。だが、英国に移住後は日本にはあまり戻らず、日本語もほとんど話せない。ただ、映画好きで、小津安二郎の影響を受けたとインタビューに答えている。「浮世の画家」の主人公の老画家は、小津映画の名優・笠智衆を浮かべて執筆したという。

 イシグロの名前を世界に広めたのは、英国で最も権威ある文学賞のブッカー賞を受けた「日の名残(なご)り」(89年)だ。荒涼とした英国の自然を背景に、英国貴族につかえる老執事の人生をつづり、英国を代表する作家となった。映画化もされ、アカデミー賞の8部門にノミネートされた。

 カフカ的不条理に放り込まれたピアニストが主人公の「充(み)たされざる者」(95年)、日中戦争下の上海を舞台にしたミステリー仕立ての「わたしたちが孤児だったころ」(00年)と、一作ごとに新境地を開拓した。

 一貫しているのは、思い通りにならない人生を受け入れ、生き抜く主人公たちの強さだ。

 2005年に発表した「私を離さないで」は、臓器を提供するためにクローン技術で生まれた若者たちの苦悩を描き、大きな反響を呼んだ。「人間の本質とは何かを描きたかった」という。日本でもベストセラーになり、映画・ドラマ・舞台化された。

 09年、初の短編集「夜想曲集 音楽と夕暮れをめぐる五つの物語」を発表。音楽家を目指したこともあるイシグロが、人生や愛の終わりとかなわぬ夢を描いた。

 15年の「忘れられた巨人」は、伝説の英雄アーサー王が亡くなった後のイングランドで、竜が吐く霧のせいで記憶を失った老夫婦が旅をする。人種差別や戦争の記憶など、さまざまな記憶を想起させる作品。同年に朝日新聞のインタビューに答え、「これは夫婦の記憶の話であると同時に、社会の記憶の物語でもある」と語った。