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 京都、大阪、兵庫で起きた連続不審死事件で、殺人などの罪に問われた筧(かけひ)千佐子被告(70)=京都府向日市=の京都地裁での裁判員裁判は11日、弁護側が最終弁論で、被告が被害者を殺害した証拠はないなどとして、起訴された4事件すべてで無罪を主張した。6月26日以来続いていた裁判は結審した。判決は11月7日に言い渡される見通し。

 中川綾子裁判長に最終陳述を促されると、筧被告は「すべて弁護士に任せてあり、私から言うことはありません」と、手にしたA4判の紙を読み上げた。

 筧被告は夫と3人の交際相手を殺害、あるいは殺害しようとした罪に問われ、検察側は10日の最終論告で死刑を求刑した。弁護側は、被告が被害者を殺害した証拠はなく、病死した可能性もあると指摘。法廷で被告の発言が二転三転したことも挙げ、「認知症で訴訟能力もない」と無罪を主張した。

 検察側が死刑を求刑した10日、入廷した被告のシャツに目を見張った。明るい黄緑色。6月26日の初公判以降、黒やグレーの地味な装いがほとんどだった。極刑が予想された求刑を前に、服選びに気が回らないほど余裕を失っていたのだろうか。

 30分にわたった最終論告を、被告は机に両ひじを突き聴き入った。だが、「自らの命をもって償わせるほかはない」と検察官の声が響くと、両手をスッとひざの上にそろえた。

 一連の事件は何だったのか。初公判から108日、37回の公判をすべて傍聴した。

 高校の同窓会で「吉本新喜劇の人みたいね」と言われたという被告。法廷での姿は、どこにでもいる気さくなおばちゃんという印象だ。弁護側が昼食に何を食べたか尋ねたときは「別に記憶に残るようなもの食べてませんよ」と即答。人を食ったような言葉を連発し、傍聴席から笑いが漏れる場面もあった。

 そんなところに、独り暮らしの高齢男性がひかれたのだろうか。結婚相談所で被告と知り合った3人の男性は法廷で「一緒になりたかった」と証言。夫の勇夫さんが結婚後「本当に楽しい日々」と被告に送ったメールも法廷で紹介された。

 検察側は、勇夫さんら被害者が亡くなった直後、被告が遺産を取得し、借金返済などに充てていたと指摘した。被告も「私が殺(あや)めた」「毒を飲ませた」と犯行を認め、「一日も早く死刑に」と訴えた。だが、認知症の影響があるとはいえ、繰り返すのは他人事のような発言ばかり。被害者への謝罪や悔悟の気持ちが語られることはなかった。

 非情な犯行と明るい性格。そのギャップが、傍聴を通して気になっていた。

 ずっと審理を見ていた裁判員も、似た思いを抱いたのかもしれない。「反省していますか」「遺族への思いは」。9月末の最後の被告人質問で繰り返し尋ねた。被告は「少女ドラマのようなことを聞かないで」と感情をあらわにした。

 公判の終盤、遺族らが意見陳述に。死刑を求めただけでなく、「(被害者に)手を合わせて欲しい」「謝罪して」と訴えた。その様子を、被告は表情を変えずに眺めていた。

 法廷では、被害者が倒れた際に、被告が自ら救急車を呼ぶ音声記録が流された。このとき、どんな気持ちで被害者を見つめていたのだろう。(安倍龍太郎)