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 宮城県名取市閖上を通る県道の五差路に、水色の歩道橋がかかっていた。海から1・8キロ。震災の日、50人以上が駆け上がり、間一髪で津波を免れた。周辺のかさ上げ工事が進み、歩道橋は近く撤去される。

 閖上1丁目に住んでいた針生(はりう)留美子さん(66)も、助かった一人だ。

 午後2時46分の地震から少したっていた。町内を避難の呼びかけに回り、自宅に戻った消防団員の夫(68)から「なんでまだいる」と怒鳴られた。避難所の中学校に向かおうと、通りに出た時だ。どこかの子が「おかあさーん」と叫ぶ声が聞こえた。人がどんどん走って来る。ちゃぷちゃぷ水が足元に近づく。遠くに水煙を上げる茶色の壁が見えた。

 「ここで死ねない」。とっさに思った。

 駆けだした。振り返れば足がすくんだだろう。床屋の奥さんが自転車で家に向かうのに行き会う。「あんた戻れないよ!」。中学校舎の裏側にも波が押し寄せていた。「歩道橋しかないっ」。2人で踊り場まで上り、男性に腕をつかまれ、ぐいと引き上げられた。

 次の瞬間、さっきまでいた所が水の流れに沈んだ。走ったのは2、300メートルほど。その間だけ時間が止まってくれたのかと思う。夫も消防車で歩道橋の先の小学校に逃げ、無事だった。

 閖上の漁師、小斎力男さん(7…

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