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介護と医療の足元で:6(マンスリーコラム)

 家に入るなり、焦げたにおいに母が気づいた。キッチンの鍋のふたを開けるとおしるこが焦げていた。

 「どうしたの?」「火をつけている間、見ていなかったの?」「高い鍋なのに……」

 矢継ぎ早に問いかける母に、一人で留守番をしていた父は黙り込んでしまった。

 その場にいた私の口から出てきた言葉は「火事になっちゃったら、行き先がないんだよ」「もう火は使わないで」だった。ちょっと強く言い過ぎたと反省しているが、住宅街の一軒家で、火災は怖い。

 私はこの日、埼玉県にある実家に帰り、母の気晴らしも兼ねて午前中から畑に行って野菜の収穫や手入れをしていた。自家消費だけでなく、子ども食堂などにも野菜を寄付しているため、畑はそれなりに広く、自宅に戻るのが午後3時近くになってしまった。

 父はたぶん、おもちをガスレンジで焼いて、温めた鍋のおしるこに入れて食べようとしていたのだろう。ただ、足腰の衰えがひどく、脳梗塞(こうそく)の後遺症で左半身にまひが残ることから、長く立っていられず、その場をちょっと外したと思われる。

 「これまでは自分が外出していても、お父さんは何とか大丈夫だと思っていたけど、心配になってきた」と、母も反省していた。

 「やかんを火にかけたらずっと待っていなくちゃいけないから、今度からお湯はポットに入れておくことにしよう」「私が外出する時は、ご飯やチャーハンや焼きそばを電子レンジで温めて食べてもらう」と母。

 2週間後、私が実家に行くと、リビングに毎シーズンあった石油ファンヒーターの代わりに電気ストーブがあった。リスクヘッジしようとすると、生活の彩りがどんどん消えていく。

一人でお風呂「一番怖い」

 そんな父も不安を抱えている。私が尋ねると、一番気になるのはお風呂だと答えた。浴槽が深く、体を洗う場所はタイル張りだ。

 「背中を洗っている時、いつ転ぶか分からない。風呂に入っている時が一番怖い。でも一人で入らなくちゃいけないと思ってがまんしている」

 一方、母の口癖は「何とかお風…

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