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 タイの首都バンコクに、日本語が響くコールセンターがある。「お電話ありがとうございます。○○社です。ご注文ですか」。電話を受けるのは、タイに移住した日本人たちだ。

 なぜ海を渡ってまで、コールセンターで働くのか。開高健ノンフィクション賞を受賞した作家の水谷竹秀さん(42)は、5年ほどかけて取材。『だから、居場所が欲しかった。』(集英社)にまとめた。登場するのは人間関係や借金に苦しむ人たち。彼らが「日本社会のきしみを投影している気がする」という水谷さんに、話を聞いた。

「今、妊娠しているんです」

 最初に取材した30代半ばの女性に、水谷さんは衝撃を受けたという。「実は私、今、妊娠しているんです」と打ち明けられたからだ。父親は、東南アジアのある国から出稼ぎにきた買春相手だった。「どうするんだろう、と彼女と別れてホテルに帰ってからも頭から離れませんでした」

 女性は大学卒業後、職を転々とした。東京での暮らしに物足りなさを感じたころ、旅先のバンコクで日本人向けの求人があると聞いた。インターネットで検索すると、コールセンターのオペレーター募集が見つかった。採用され、移住を決めたという。

 実際、ネットで「タイ」「コールセンター」と検索すれば、求人情報は簡単に出てくる。「経験ゼロ、語学ゼロから海外でチャレンジできる環境」などとうたわれ、応募のハードルは低い。水谷さんが取材したフロアには80人ほどの日本人が並び、通信販売の受注やクレーム処理にあたっていたという。ただ移住が気軽な反面、環境は厳しい。日本の大手企業から派遣される駐在員の年収は、1千万円を超えることもざらだ。現地採用はその半分から5分の1。コールセンターは更に安い。ネット上では「底辺」とやゆされる。

 「給料は月9万円か10万円ぐらい。大手企業の現地駐在員とは、同じ海外にいくのでも訳がちがう。格差があるんですよね。コールセンターで働く人は、後ろ向きというか、ネガティブな空気感を持っていることが多かったと感じます」

 女性はコールセンターについて、作中で水谷さんにこう説明している。《日本社会に適応して、出世するとか、家庭を持つとか、そういうレールに何の疑問も持たず、すいすい世の中を渡っていける人はここにはいないなって感じがしますね》(「プロローグ」から)

貞淑を求める圧力

 女性は日本では交際相手に恵まれなかった。暴力を振るわれることもあったという。彼女を癒やしたのが、男を連れ出せる「ゴーゴーボーイ」だった。友人に誘われて通い続けるうちに、はまっていった。最初は勇気がでなかったものの、《通っているうちに気に入った男の子が見つかったので、買ってみました》(第四章「男にハマる女たち」から)と語っている。

 水谷さんは、タイのコールセン…

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