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磯崎憲一郎(小説家)

 今から十年後、早ければ五年後にも日本の純文学を牽引(けんいん)しているであろう、二人の若い才能の紹介に、今回は徹することにしたい。

 二〇一四年に文芸賞を受賞しデビューした金子薫は、どこか手工芸品めいた感触のある、独特の物語世界を作り上げてきた。三作目となる『双子は驢馬(ろば)に跨(また)がって』は、「君子危うきに近寄らず」と「君子」という奇妙な名前を付けられた父子が、理由も分からぬままに幽閉されている場面から始まるのだが、そんな奇妙さなど気に掛けていられぬほど、物語は一気に離陸する。父子はいつか驢馬に乗った双子が自分たちを救出しに来てくれると信じている、するとその確信によって、双子は小説中に産み落とされる。双子の誕生する日、街を往(ゆ)く人々はなぜだか皆その事を知っていて、歓喜に満ちた表情をしている。双子の父親となる男に一人の浮浪者が近寄ってきて、こう告げる。「二人は今日という日に生まれ、すくすく育っていったかと思えば、あっという間に旅に出てしまうことでしょう」、聖書をさえも連想させるこの予言の場面の何と素晴らしいことか! 現実に対する想像力の圧倒的勝利を目の当たりにしているかのような興奮を覚える。だが事実、幽閉された父子が「理念もなし、確固たる意志もなし、すべてくだらぬ落書きでしかない」と罵倒されながら、ただ自らの想像力だけを頼りに部屋の壁一面に描き続けた地図に導かれて、ついに双子は目的地に到達するのだから、この作品は小説に内在する力を信じた作者の勝利の記録であるとも言える。

 乗代雄介は二〇一五年の群像新…

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