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 タックスヘイブン(租税回避地)と各国の要人や大企業との関わりを明らかにしたパラダイス文書について、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ、本部・米ワシントン)は17日午前(日本時間で同日夜)、文書に登場する法人や、その株主らの名前などをネット上で公開する。守秘性が高いタックスヘイブン法人の持ち主が明かされる。

 パラダイス文書は、英領バミューダ諸島などに拠点を置く法律事務所「アップルビー」から流出した内部文書や、バハマやマルタなど19の国・地域の登記情報などからなる。

 このうち17日に公開されるのはアップルビーの顧客データに含まれる約2万5千の法人や組合の情報。法人名や所在地、株主と役員の名前、住所などをICIJは公益性の観点から公開する。今後、アップルビー以外のデータからも約10万の法人などの情報を公開する方針だ。

 アップルビーのデータに関するICIJの集計によると、17日の公開対象でバミューダに登記されている法人などは約9500(38%)、英領ケイマン諸島が約8800(35%)。英領バージン諸島は2300(9%)、英王室属領マン島は1500(6%)、英王室属領ジャージー島は900(3%)。役員は全部で8万9千人にのぼる。

 アップルビーのデータから地名をもとに調べると、日本の個人や法人は1千超あった。昨年のパナマ文書を同様の方法で調べると400余で、今回は日本関連の情報が多い。世界の国・地域で最も多かったのは米国の3万1180、次いで英国の1万4434。

 タックスヘイブン法人に関する大量の漏洩(ろうえい)文書に基づくICIJの報道プロジェクトでは、昨年のパナマ文書も含めて同じデータベース(https://offshoreleaks.icij.org/別ウインドウで開きます)で公開されており、今回もこれに加える。

 パラダイス文書は南ドイツ新聞が入手し、ICIJを通じて朝日新聞など各国の報道機関が共有し、分析と取材を進めてきた。タックスヘイブン法人を介してウィルバー・ロス米商務長官の関連会社がロシアのプーチン大統領に近いガス会社との取引で利益を得ていたことなどを伝えた。(編集委員・奥山俊宏

各国で追及強まる

 パラダイス文書の報道を受けて、追及の動きが各国で広がっている。

 南米アルゼンチンでは、カプト金融相とアラングレン・エネルギー鉱業相が野党から刑事告発を受けた。

 カプト氏は2015年に政権の要職に就くまで、ケイマン諸島などの投資ファンドの幹部を務めていたことが文書から判明。法律で定められた申告もしていなかった。アラングレン氏は、自らが経営に関わるバルバドスの石油関連会社が国との契約で利益を得ていた疑惑が発覚した。政府の不正防止機関は、両氏に明確な説明を求めている。

 米国のロス商務長官は、ロシアのプーチン大統領と近い同国企業との利害関係が明らかになった。野党民主党側は商務省監察官や政府監査院に調査を要請した。米議会では、ロス氏の取引にとどまらず、タックスヘイブンの規制強化に向けた法整備を求める声も出ている。

 多くの海外領や王室属領がタックスヘイブンとなっている英国。野党労働党は議会で、そうした土地の金融取引の透明性を向上するよう迫った。特に今回、エリザベス女王の個人財産の投資の実態が明らかになったことから、王室の投資の透明化を求めている。

 腹心がタックスヘイブンを通じて脱税した疑いが浮上したカナダのトルドー首相は、「違法行為はない」と説明を受けたとして「納得した」と語った。だが首相自身が「公正な税負担」を主張してきただけに、野党側は「国民は納得していない」と反発。徹底的な調査を求めている。

 アジズ元首相の資産隠しの疑いが浮上したパキスタンでは、連邦歳入庁がアジズ氏らパラダイス文書に名前があった同国民約140人の資産の管理状況などについて調査を開始した。

 国際NGO「税公正ネットワーク」は国連に対し、税逃れや金融犯罪の防止に向けた首脳会議を開くよう求めた。(サンパウロ=田村剛、イスラマバード=乗京真知

進む税逃れ対策 抜け穴も

 経済協力開発機構(OECD)や主要20カ国・地域(G20)が主導し、対策は年々強化されてきている。

 今年6月には、約70カ国が課税逃れを防ぐための多国間条約に署名。5カ国以上の批准で発効し、日本は来年の国会承認をめざす。発効すれば、軽減税率を受けるためだけにペーパーカンパニーをつくることを防いだり、課税対象となる企業の施設をより幅広く認定したりできるようになる。たとえば、海外企業のネット通販用の倉庫などが課税対象になる見込みだ。

 また、今年から多国籍企業が事業を行う国別の収入や従業員数などを税務当局に報告する仕組みも始まった。報告書を60カ国以上で共有して多国籍企業の経済活動を把握。租税回避の実態を明らかにする狙いだ。

 18年には日本も含め102カ国・地域の税務当局間で個人や企業の口座情報の自動交換が行われ、富裕層の海外の隠し財産などがわかるようになる。

 課題は、こうした枠組みに参加していない国が「抜け穴」になる恐れがあることだ。とくに、多国籍企業が多数在籍する米国の不参加が大きい。米国は二国間での租税条約の方が自国に有利とみて、多国間条約や自動情報交換の枠組みに入っていない。

 タックスヘイブンを活用した税逃れの仕組みも巧妙化しており、多国籍企業の税逃れで失われた税収は全世界で年間1千億~2400億ドルに及ぶ(OECD調べ)。財務省幹部は「対策の網を広げ、各国に参加を呼びかけるしかない」と話す。

 日本の国税当局も監視を強める。国税庁は昨年10月、海外取引がある企業や富裕層に対する税務調査の方針を示した。海外との送受金などの情報を収集・活用し、外国当局との協力を強化することが柱だ。

 1998年以降、100万円を超える海外との送受金は金融機関が税務署に情報提供している。14年には5千万円を超える国外財産の保有者は、その内容を記した「国外財産調書」の提出が義務づけられた。

 ただ、送受金の情報は年間数百万件あり、すべてに目を光らせるのは難しい。国外財産調書を偽ったり、正当な理由なく提出しなかったりすると罰則があるが、適用例はないという。

 このため東京国税局は今年7月、富裕層の税逃れを監視する専門職員を倍増。東京、大阪、名古屋の3国税局だけに置かれていた富裕層対策のプロジェクトチームも全国に拡大した。

 パナマ文書をめぐっては、名前があった日本関連の個人・法人の税務調査で今年6月までに総額31億円の申告漏れが判明。国税庁はパラダイス文書の分析も進めるとみられる。(栗林史子、花野雄太)