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 医療・福祉の現場では、「身体拘束」が今も行われています。拘束を受けるのが自分や、自分の身近な人だったら――身を守るため、周囲の人たちの安全を守るためにはやむを得ないのだと言われたら――。身内が身体拘束を受けたという、一人の記者の提案から、今回も難しい問題をみなさんとともに考えます。

安全優先でもショック

 自分や家族が身体拘束された体験が、アンケートに寄せられています。

     

●「父が熱中症で倒れ、原因不明の寝たきりになったとき、どうしても自分でトイレを済ませたかった父は1人でしびんを使おうとして失敗し何度もベッドを汚したため、拘束服を着せる同意を求められた。拒否をしていいとは思えず同意してしまったが一日も早く連れて帰りたかった(検査を続けるため退院出来なかった)」(神奈川県・40代女性)

     

●「最近、父が療養型施設に入所し、母から電話で聞きました。時々暴れて点滴受けない場合にその間だけ行う、と。点滴出来ないと衰弱するし、点滴するための医療行為の一環、と言われると、仕方ない面もあり、大変悩ましいです。基準や行う理由が明確で家族も納得していることが重要だと思います」(千葉県・50代女性)

     

●「父が骨折で入院したとき、夜中にたんが絡むとのことで看護師さんを何度も呼んだそうです。次の日、手足を縛られ、ティッシュにも看護師さんを呼ぶベルにも手が届かず、たんを出すことも寝返りすることも出来ず、次の日の朝、父は仕方なく口からたんやつばを流し、耳までぬれていました。枕を汚したと言って看護師さんに怒られていました。そんなことがもとで誤嚥性(ごえんせい)肺炎になり命を落としました。人権も何もあったものじゃない。つらい思いをして命を落とした父を思うと涙が止まりません」(愛知県・50代女性)

     

●「措置入院になったときに拘束されたが、ゆるめとはいえ、ものすごく苦しかった。おしめや排尿装具を着けられたことも、記憶のない乳児以来で心理的なショックが大きかった。とにかく人権侵害だと思うのに、まわりが精神科医も含め理解してくれなかったのがつらかった」(千葉県・50代男性)

     

●「精神科で身体拘束を体験しました。何度か経験しましたが、きちんと説明を受けたことはほとんどないです。形式的な身体拘束についての紙を壁に貼られたりするくらいです。拘束イコールオムツになる考えも納得できません。相部屋でカーテンもないところでのオムツ交換は苦痛です。しかもそのオムツ交換をするのが男性の方の場合もあります。苦痛を通り越し屈辱です。拘束が1週間続き軽い褥瘡(じょくそう)と歩行困難になったこともあります。拘束中でも短時間の解放時間があるところもありましたが長いと1カ月くらい拘束が続きました。拘束の理由に倒れられたら困る、夜勤で人が少ないからなどと正当な理由として認められないものもありました」(埼玉県・30代女性)

     

●「自身が自殺未遂を起こし、身体拘束を受けたことがある。4日ほど両手両足を拘束されたが病院側としては新たな自殺行為を防ぐため、やむを得ない措置であることは理解する。全ての身体拘束を人権侵害だというつもりは毛頭なく、仕方のない拘束もあるのだと思う」(富山県・30代男性)

     

●「父が亡くなる前、点滴を抜いてしまうので、ミトンをされて、食いちぎって口のなかが繊維だらけになりました。末期だったので、点滴をやめることもできると思います。でも入院前にされてもやむを得ないと書類にサインしました。在宅は困難といわれ、他の選択肢がありませんでした。今でも悔やんでいます」(栃木県・50代女性)

     

●「両親どちらも受けているところを見たことがあります。見ていてとてもつらかったです。何年経ってもあの姿は脳裏に焼き付いています。しかし、暴れている本人は冷静ではないので力の限り暴れます。本人と周りの安全を守るべきだと思います。誰かをけがさせて、正気に戻った時、本人もショックを受けると思います」(兵庫県・30代女性)

     

●「自殺未遂で病院に強制入院、身体拘束を受けました。オムツをはかされトイレに行きたい時は看護師を呼ぶよう言われましたが、いざ呼ぶと誰も来ませんでした。オムツに用を足した時のどうしようもなく情けない気持ちは今も忘れません。初めて主治医が診察に来て拘束を外したのは1週間後のことです。患者に寄り添う医療がしたくても出来ない事情は知っています。目に見えない尊厳より目の前にある命を優先したい家族の気持ちもよくわかります。それでも私は、あんな思いはしたくなかった」(千葉県・20代女性)

     

●「実父が寝たきりになったさい、点滴を抜こうとした、などとして、ベッド上に身体拘束されました。そのような患者には、見守りを増やし、モニターを活用するなど、可能な限り身体拘束を避けるべきと思いましたが、自分たちにはできない完全看護をしていただいている立場上、病院には何も言えず、ただ、自分が側にいる時だけ身体拘束を解かせてもらうのが精いっぱいでした。しかし、身体拘束は家族の同意が有ろうと無かろうと、『安全』を人質に取った虐待であり、人権侵害です。法律で、あるいは、厚労省によるガイドラインで、他の人に危害を及ぼすことが確認された場合のみ、厳密な審査において行われてしかるべき最終手段と思われます」(神奈川県・50代女性)

     

●「自分自身が身体拘束されていたことがあります。ICUでベッドから落ちて頭にケガをしました。両親は医者から謝られても文句なんて言いませんでした。ベルトで縛ってもらって過ごしてました。意識も正常ではなく幻覚を見ていたので私は誰かに引き留められていると思っていました。私をずっと見ているだけに人が必要なんて無理です、両親にそうさせてなくて良かった」(東京都・30代女性)

24時間見守りは不可能

 身体拘束をしている事情に触れた声も届いています。

     

●「介護の業界で働いていたので、身体拘束には反対な立場でしたが、主人が59歳で亡くなる前、せん妄でなのかおむつ交換時には蹴られ、食事時急に私の手をつかみあざになるほどで、息子には自宅介護は無理、お父さんはもういつものお父さんではなくなったと言われ、病院で拘束してもらいみとってもらいました。必要な時もあります」(神奈川県・50代女性)

     

●「看護師です。現在も、身体拘束はあります。みる方からはしなくては安全が保てない。もちろんその方についておく必要がでるため、業務に支障もでます。だが、身内にはしてほしくない。それが、率直な意見です」(大阪府・30代女性)

     

●「中程度の認知症だった祖母が夜間に家を飛び出して何時間も帰らず、捜索願を出したことがありました。近所の里山で崖から落ち、やぶに引っ掛かっていたところを発見され、命に別条はなかったものの数カ月の入院を要する大ケガを負いました。その結果、入院生活でさらに認知症が進行し、今では完全に寝たきりになってしまっています。『あのとき拘束していれば』という後悔がやはりあります。高齢者が増え続ける中で24時間見守るのは物理的にも経済的にも不可能です。これ以上不幸を生まないためにも身体拘束は必要だと考えます」(愛知県・20代男性)

     

●「施設勤務者です。可能な限り拘束しないように支援しています。就職希望者がいない、就職してもキツイと言って退職。現場は火の車です。100人の利用者を日中は7人、夜間は3人で支援しています。車道に飛び出す、他者の家に入り込む、暴れて他者をけがさせる、物を壊す、自分の体を傷つける。ひどいと指でほじって骨が見えるほどに……やむを得ない時があります。拘束しないように皆努力しています。1週間でもいい。人の命を預かる経験をして欲しい。どうしようもない時があるのです。国も現場を見て考えて欲しい」(埼玉県・40代男性)

     

●「大阪の病院で勤める整形外科医師です。身体拘束をしないことによる本人の病状の悪化や合併症の出現、また、看護師を含めた職員や家族への危害、毎日のように起こります。それに伴って、他の患者の異変に気付くのが遅れるケースもあります。本人の尊厳は守られるべきですが、認知症などの十分な理解を得られない患者などには臨機応変に対応すべきです。他人だけでなく、自分を守るために社会にルールがある、犯罪や事故などを未然に防ぐ法律や手段がある、身体拘束とは、それらと同様、やむを得ない手段の一つであると言えると思います」(大阪府・40代男性)

原則禁止、緊急時など3要件

 「身体拘束」は、本人の人権を守るため法令などで限定的な運用が求められていますが、実際には介護や医療の現場で広く行われています。

 主に高齢者を対象にした介護保険法の適用を受ける施設では、身体拘束が禁止されています。ただし、「緊急やむを得ない場合」は認められています。

 ▽本人や周囲の人が危険にさらされる「切迫性」

 ▽ほかに手段がない「非代替性」

 ▽必要とされる最も短い時間である「一時性」――の3要件を満たせば、身体拘束は行えます。

 NPO法人「全国抑制廃止研究会」が厚生労働省の補助を受け、全国の病院や介護施設を2015年に調査したところ、特別養護老人ホームの約3割、介護療養型医療施設の約7割で身体拘束がありました。

 障害者施設でも同様に法令で身体拘束が禁じられていますが、「緊急やむを得ない場合」、3要件を満たすと身体拘束が認められます。

 3要件を満たさない身体拘束は高齢者や障害者への虐待になります。厚労省の15年度調査では、介護スタッフから虐待を受けた人のうち約3割が身体拘束をされていました。

 統合失調症や認知症の人らが入院する精神科病院の場合は、一定の知識や技能を持つ精神保健指定医が認めれば身体拘束が行われます。自殺を企てたり落ち着かなかったりする患者が対象です。厚労省と国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所の調査では、この10年で身体拘束は2倍に。15年6月末現在では、1万人以上が拘束されていました。

 身体拘束が限定的な運用を求められているのは、人権擁護の観点はもちろん、精神的苦痛をもたらしたり、筋力の低下によって寝たきりになるおそれがあったりするからです。家族の精神的ショックや現場スタッフの士気低下にもつながるとされています。(高橋健次郎)

手足縛られた祖父 母の気持ちもわかるが

…… きっかけは愛知県にいる母(65)からの突然の電話でした。「おじいちゃんが入院先の病院でベッドに縛られているんだけど、こんなこと許せる? 普通のこと? 調べてよ」と興奮した様子です。90代の祖父は脳の手術を受け、病院で夜間、手首をベッドに縛られました。動かせるのはわずか数センチ。点滴のチューブを抜いたり傷口を触ったりしてはいけないとの説明を受けて家族が同意しました。しかし、点滴が終わり、自力で歩けるようになり、拘束はやめてほしいと伝えても、退院するまで続きました。祖父は認知症ではないものの、ぼんやりしています。

 見ていて耐えられないという母の気持ちもわかりますが、祖父にどんな危険があっても拘束を解いてもらう覚悟があるかというと、私には答えが出せません。身体拘束がおこなわれている現状にどう向き合うべきなのか。みなさんと一緒に考えていきたいです。

<アピタル:オピニオン・メイン記事>

http://www.asahi.com/apital/forum/opinion/(三輪さち子)