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 身体拘束を受けるとどのような思いを抱くのか、体験した人たちに尋ねました。「自分がされたこともないのに、患者の家族に説明できない」と、自ら拘束された介護福祉士にも話を聞きました。アンケートに寄せられた意見からは、医療・福祉の現場での葛藤や、身体拘束にまつわる難しい問題が浮かび上がってきます。

 アンケートには、様々な視点からの意見や提言が寄せられています。

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 権利を擁護をする人が必要

 「精神保健指定医が認めさえすれば拘束を行えるのは、受けうる側には恐ろしいことです。拘束の頻発を防ぐと同時に、最低限、拘束を受ける間/解けた後の本人の権利を擁護する人が必要だと思います。拘束が解けた後の権利擁護も必要なのは、拘束中には実感のなかった苦痛や屈辱感、怒りが、解放後にトラウマのように現れることがあるためです。現状では福祉士等が権利擁護にあたるようですが、病院の被雇用者のためか、やはり病院の立場寄りになっているように感じました。拘束を受ける側は、家族と不仲なこともあるため、病院とはもちろん、家族とも利害関係のない、その人の尊厳を守ることに専念できる人が権利擁護者として妥当だと思います」(愛知県・40代その他)

 葛藤のない職員いないはず

 「精神科の認知病棟で働いていました。異食行為(便やオムツパットを食べようとする患者様もいた)や夜間徘徊(はいかい)による転倒防止のために夜間はほぼ全員を拘束しなければならず、色々な葛藤と闘いながら働いていました。介護はいわゆる3K(きつい・汚い・危険)職場です。スタッフも頑張ってはいますが、やはり限界はあるものです。ご本人や周りの安全を確保するために、最低限の拘束はやむを得ないと考えてしまいます。ただ何の葛藤もない介護職はいないのではないでしょうか」(茨城県・50代女性)

 見逃される言葉による拘束

 「介護現場で働いていました。身体拘束というとひもで椅子に縛りつける、部屋に鍵をかけるなどを想定しがちですが、『それは食べないで!』『立ち上がらないで!』など言葉での拘束(スピーチロック)も拘束になります。物理的な拘束は私の職場では見かけませんでしたが、言葉の拘束は見逃されていました。最近はサービス向上のため、スピーチロックをしないための研修が行われているそうです。いわゆる危険行為も、少しの言葉掛け、介護者の対応などで改善されることが多い。体感したこともあります。しかし職員不足が叫ばれる現状、そこまで手が回らないのも事実です。本人の安全をとるか、尊厳をとるか、いまだに悩み続けますし、答えは出ません」(神奈川県・20代女性)

 病院と施設では見解が違う

 「身体拘束は、病院と施設では見解が違っている。病院は安全、施設では尊厳である。自分自身、正解が見つけられないのが現状です。これから先も、安全か尊厳か、答えが見つからないのが身体拘束だと思います」(埼玉県・40代男性)

 現場経験してから反対して

 「身体拘束を行うのは、マンパワー、その他色々な状況の中、本人の安全のため、やむを得ない場合に行っているので、それを反対するのは、現実の大変さを知らない人だと思う。何でそれを行わなければならないのか、実際に経験してほしいと思う」(新潟県・50代女性)

 高齢者医療もっと考えないと

 「医療関係です、私が新人だった20年前はほとんど拘束なんてありませんでしたが、最近はどの病棟でも拘束されている方がいます。理由は色々あります。転倒転落を防ぐため、院内で転倒転落したら全て看護師の責任です。点滴、大事な管を抜かれないように、抜かれたら全て看護師の責任です。殴られたり暴れたりしても、患者の家族は知らん顔です。家族がずっとそばにいても、正直すぐ看護師を呼びます。24時間休まずそばになんていれません。高齢者医療をもっと国がちゃんと考えないと、身体拘束はなくならないと思います」(東京都・40代女性)

 延命治療が拘束増加の一因

 「いまは、不用意な身体拘束は減ってはきてますが、それでもどうしても治療上ルートや、チューブ類の維持のため必要となることが多々あります。増えてしまう一因には、増えていく延命治療に影響されてると思います。点滴を限界まで続ける、胃瘻(いろう)、回復見込みのない人工呼吸……転倒など事故による責任問題……。死なれたら年金、手当、保護費が入らなくなるから困る……と最後まで延命させる親のすねかじりさん……。人権無視したひどいものは論外ですが、たくさんの問題をかかえる繊細な問題です。また職員割合は、国の決めてる制度のせいもありますが…。その欺瞞(ぎまん)に振り回されている現場が疲弊しきっていることもまた正しく公平に考察すべき」(愛媛県・30代女性)

「みんな敵に見える」 24時間の拘束体験した介護福祉士

 病院の精神科で身体拘束を目の当たりにした仙台市の介護福祉士で介護教員の軍司大輔さん(39)は、「自分がされたらどう思うのか」と疑問を持ち、24時間の拘束を受けてみました。その体験を、ネット上でつづりました。人手不足といった現状があっても「『しょうがない』という言葉で終わりにしないで、介護や医療の関係者以外も巻き込んで考えてほしい」と話します。

 体験をしたのは15年ほど前。働き始めたばかりで、当然のように患者の体を縛る状況に言葉をなくしたといいます。ベテラン職員は「人手が足りない」「本人が危険だから」と言いますが、やはり「自分がされたこともないのに、患者の家族に説明できない」と考えました。同僚の協力を得て、24時間、自分が身体拘束を受けてみることにしました。

 体験は、両手足を縛り、仰向けの状態で胴体をおさえつける、かなり厳しいものとしました。

 体を自由に動かせないつらさ。曲げられる関節がほとんどなく、体がこわばり、のど元あたりに気持ち悪さがあったと言います。

 自らすすんで拘束されているはずなのに、だんだんと「なぜ縛られなければならないのか」と混乱してきます。布オムツに排泄(はいせつ)するしかない不快さ。時間感覚もなくなっていきました。

 協力してくれた同僚がやってきて24時間経ったと告げられた時は、「やっと解放された」と思ったそうです。でも、2~3時間は誰とも話す気分になれませんでした。「縛られている方からは、みんな敵に見えるんだ、と思いました」

 この経験から一層、「できるだけ身体拘束をしないように」と考えるようになりました。現在運営に携わる小規模多機能ホーム「福ちゃんの家」(仙台市若林区)では、認知症があったり体が不自由だったりしても、縛ったり鍵をかけたりしません。車いすから立ち上がって転ぶといったリスクがあることは、家族に事前に説明して納得してもらいます。

 リビングは色とりどりのあたたかい雰囲気で「家のようにくつろいでほしい」とデザインや設計にこだわったそうです。軍司さんは「工学やテクノロジー、デザインや設計のプロを巻き込みながら、『どうしたらなくせるか』を自分事として考えていきませんか」と提案しています。(水野梓

「患者が納得するまで説明を」 拘束を受けたNPO共同代表ら

 ベッドで両手足とおなかを縛られた女性が叫びます。「看護師さーん これとってー 動かないよー」。漫画「エリコの失敗日記」の一場面です。作者は千葉県の小林絵理子さん(40)。認定NPO法人地域精神保健福祉機構(コンボ)で働きながら、精神科病院に入院した自身の経験を会報誌や無料漫画配信サービス「スキマ」で公表しています。

 冒頭場面は3年前、2度目の身体拘束時のこと。「説明もなく1週間近く縛られ、尿取りパッドをつけられました。すごく嫌で早くはずしてほしかった。体は押さえ込まれておとなしくなっても、心はもっと暴れているんです」。多くの人に病院の実態を知ってもらい、患者を置き去りにしない治療をしてほしいと言います。

 コンボの共同代表の宇田川健さん(46)は2008年、精神科病院に入院し、施錠された保護室に入れられたと言います。6畳もない部屋には拘束バンドが取り付けられたベッドや監視カメラなど。4~5日たっても風呂に入れないため、手洗いでタオルに水をふくませ体をふきました。

 翌日、10人以上の医療従事者が部屋に来て、医師から「部屋を汚したので拘束します」と告げられ、2週間ほど両手足を縛られたといいます。納得できませんでしたが、別の部屋で衣服を脱がされ縛られた男性が「病院のすることか」と叫ぶ姿も目の当たりにしていました。「話をまともに聞いてくれそうにない」「素直でいい患者として振る舞わなければ退院できない」という思いから、病院はこういうところと自分に思い込ませ従うしかなかったと振り返ります。

 一番つらかったのは、目がさめている時。「手足を縛られたままベッドで尿びんやポータブルトイレで用を足した屈辱感は忘れられません。ダメージが大きくて退院して2年ほどは仕事に復帰できなかった」

 身体拘束を受けたことは「忘れたい」。家族や友人に話すこともありませんでした。でも今年5月、改めて考えさせられる出来事がありました。ニュージーランド国籍の男性が神奈川県の精神科病院で身体拘束された後に死亡したことです。これを受け、コンボは9月、身体拘束に関するアンケートを行いました。

 回答した精神疾患のある200人のうち入院中に身体拘束を受けたことがあるのは80人。このうち「事前に納得していたので、その時は必要だった」は4%、「納得していない」は51%でした(https://www.comhbo.net別ウインドウで開きます)。

 「医療従事者の説明不足で納得しない身体拘束が行われ、まともな医療がなされていないことが問題です。患者の立場に立ち、精神疾患がある人も医療者と同じ人間だという意識を持ち納得するまで説明してほしい。たとえ納得して拘束されても、常に私を見守ってくださいという、助けを求める無言の訴えであることも多いのです」(森本美紀)

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アンケート「どうする? 身体拘束」をhttp://t.asahi.com/forum別ウインドウで開きますで28日まで実施中です。ご意見はasahi_forum@asahi.comメールするでも募集しています。

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