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 今回、身体拘束された人や家族の思いに触れて、初めて目の当たりにしたときの気持ちがよみがえったというメールが届きました。どういうことなのでしょう。アンケートに寄せられた声とともに紹介します。精神科病院での身体拘束を調査している専門家に、拘束が急増している背景や、どうしたら減らしていけるのかを尋ねました。

介護者の勉強不足も

 不必要な身体拘束をどうしたらなくせるか。アンケートから一部の回答を紹介します。

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●「私は介護の仕事をしています。認知症の方が安全を確保の目的で拘束されているのを何度もみております。周囲の人は安全のための一点張りですが、その結果入居者が生きる意欲を失っていく姿を見るにつけ、やってはならないことだと思います。介護の現場は一部の職員を除いて勉強不足だと思います。研修でごまかすのではなく、実技試験を実施するなど資格の厳格化が必要ではないでしょうか?」(千葉県・50代男性)

●「皆さんは『精神科特例』をご存じですか。医師、看護師のみならず薬剤師ですら精神科の人員配置は少ないのです。その上認知症治療病棟などは周辺症状を治療目的とする割に20:1と人員も少なく、また精神科では合併症を抱えても、精神疾患を理由に転院できないケースも多々あります。15:1で胃ろうや終末期の患者、また処置を拒否する患者を見ている所もあります。また療養病棟では60人の患者を夜間資格者、看護助手各1人でみています。それと同時に地域移行など精神科医療の多くの課題を抱えています。急性期の拘束のあり方を見直すと同時に慢性期、認知症を含む人員について考えるべきかと思います」(東京都・40代男性)

●「本当に『緊急でやむを得ない場合』なのかどうかは医者側で判断するのが少し問題だと思う。医者側がやむを得ない場合であることをきちんと説明して、納得してもらう工夫が必要だ」(大分県・10代男性)

●「医療療養型病棟で理学療法士をしています。ある日、身体拘束をしている認知症患者様の歩行訓練を行っていると、他の医療従事者から『この人、たくさん歩けるようになって、体力がついてきたね。これじゃあ身体拘束を外せないね』と言われたことがあります。マンパワーが足りないため、やむを得ない身体拘束は仕方ないことだと思いますが、まずは医療・福祉職の意識を変えていかなければ、本来は身体拘束を必要としない人まで、身体拘束されてしまう結果になってしまうと思います」(静岡県・20代男性)

●「福祉関係の仕事です。人手が増えても職員の意識が変わらないと拘束は続くと思います。広い意味の拘束であるセンサーマットなどは仕方ないとしても職員が認知症患者の対応を深く学び、信頼関係を構築しないと徘徊(はいかい)や乱暴は続きます。身体拘束などで力で抑えつけてしまうと、余計に認知症は進行してしまいます。荒立った気持ちを静めるには、言葉がけやマッサージなどスキンシップ、徘徊するときには一緒に歩くなど、利用者の気持ちに寄り添わないといけないと思います。そう思い日々仕事に取り組んでいます」(大阪府・50代女性)

●「私が勤務している施設では、現在、拘束はゼロですが、利用者の尊厳や基本的人権がどれだけ保障されているかと問われると自信を持って答えられない。スピーチロックやドラッグロックの問題もあるから。管理者、職員、家族の意識ももちろんですが社会全体の人権に関する思想や価値観そのものにまで論及して考えていく必要があると思います」(長崎県・60代男性)

●「24時間片時も目を離さず家族かそれに代わる人が監視してくれればいいが、ちょっと目を離したら点滴抜かれてましたとか……家族は役に立たないことが多い。治療上必要なもの点滴や呼吸器などを抜いたりされて、それが命に関わることもある。抜いたりされて怒られて始末書書くのも看護師、訴えられることもあるのに圧倒的な人手不足の中、疲弊しながら働いている身にもなってほしい。高齢化がすごく認知症の患者も多く治療上必要なことを守ってくれない指示が入らない人も多い。安全を守るためならやむを得ない。何でもかんでも身体拘束=悪いことと言わないでほしい」(滋賀県・30代女性)

●「場面によっては自傷他傷を防ぐために必要だが、そこにはしっかりとした根拠や説明が必要だと考える。かわいそうだからと拘束せず、さらに事故を招いては本末転倒。ただしもちろん最小限にさせるべきだし、複数人でのアセスメントが行われた上で実施されるべき」(兵庫県・40代女性)

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注)スピーチロック=強い口調で指図して心身の動きを封じる。ドラッグロック=薬でおとなしくさせる。

「当たり前」と思考停止しないよう メールをくれた京都府の作業療法士

 日々、病院で身体拘束に関わっている40代の作業療法士の女性から「記事を読み、改めて拘束されている患者や家族の気持ちを考えながら仕事をしたいと思うようになりました」とメールが届きました。話を聞くと、葛藤や心がけを語ってくれました。

 5年前から、京都府の急性期病院でリハビリテーションの仕事に関わっていると言います。病院で、半数以上の患者が縛られているのを初めて見た時はびっくりしたそうです。

 しかし、次第に慣れ、「当たり前の風景として受け止めていた」。時には「なんで縛るの?」と怒ったり、嫌がったりする人がいますが、点滴やおむつを外してしまうから仕方がない、と看護師が説明しているそうです。

 今回の記事で、家族や自分自身がされて嫌な思いをした人や、拘束に関わっている看護師の意見を読むうち、病院に勤めだしたころの違和感を思い出したそうです。

 四六時中、誰かが患者のそばにいることができない以上、やむを得ない。それでも、理由を丁寧に説明し、相手の気持ちを考えながら仕事をしたいと思うようになったそうです。

 本来、手にはたくさんの感覚があるのに、それをミトンで覆うことや、手足を縛って動けないようにすることは、リハビリの観点から見てもよくないことだと言います。リハビリの間は、拘束されていた部分を特に動かすように心がけます。家族には、手を握ってあげるように伝えるそうです。

 記事を通して、病院で働く側としては当たり前のことでも、それ以外の人にとってはショックが大きいということを改めて思ったと言います。「病院で働いている人と、そうではない人とのギャップが大きいと思う」と話しました。(三輪さち子)

治療やケアの在り方を見直せ 長谷川利夫・杏林大教授

 杏林大教授(精神医療)で「精神科医療の身体拘束を考える会」代表の長谷川利夫さんに身体拘束が行われる背景や、不必要な拘束を減らすにはどうすればいいか聞きました。

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 厚生労働省の調査(2015年6月末時点)では、精神科の病院で体をベッドに縛るなどの身体拘束を受けている患者は1万人を超え、10年で約2倍に急増しています。精神科救急病棟の整備に伴い緊急性の高い患者が多くなったことや、認知症になった方の増加が背景にあると指摘されていますが、法的に対象ではないと思われる人まで身体拘束している例が少なくありません。例えば、大声を上げる患者がいたとして、行動の背景や環境要因などを考えず精神症状としてとらえ、治療の一環として身体を拘束するような考えがあると思います。

 私が15年に11の精神科病院に行った調査では、身体拘束の平均日数は96日。欧米諸国の、数時間~数十時間という報告と比べても、不必要な拘束が多いことがうかがえます。

 精神保健福祉法では、「自殺企図または自傷行為が著しく切迫」「多動または不穏が顕著」「放置すれば患者の生命にまで危険が及ぶおそれ」、のいずれかの場合、精神保健指定医が認めれば拘束できます。

 しかし、ある男性のように、家で妻に暴力をふるい、自ら医師の診察を受け落ち着きを取り戻しているのにベッドで体を縛られたという例もあります。7月、精神科医や弁護士らと立ち上げた「考える会」にも強引な拘束の相談が相次いでいます。

 身体拘束は、尊厳を奪い、心の傷を負わせ、エコノミー症候群や誤嚥性(ごえんせい)肺炎など身体にも影響を及ぼす可能性があるともいわれます。今年、精神科病院でニュージーランド国籍の男性(27)が身体拘束された10日後に心肺停止の状態で発見され、その1週間後の5月半ばに死亡しました。11月には障害者施設で男性(28)が拘束されている状態で亡くなっていました。

 頻繁に動き回るなど、多動や不穏に見える人も、慣れない環境のストレスから自分を落ち着かせようとしている場合もあります。転倒を防ぐなら、ベッドの高さを調整するなど環境を整えることもできます。「入院したらまず拘束」といった対応をなくすことが急務です。そのためには、患者が不安になる背景にあるものをたぐり寄せ、治療やケアの在り方を見直すことが必要です。身体拘束の過程を録画・公表し、検証できる仕組みを作ることも不可欠です。

 人手不足のためやむを得ないという声もありますが、様々な工夫により身体拘束を減らしている病院もあります。ある病院では、胃ろうのチューブを抜こうとする患者の腹部に帯を巻いて患者の目に触れないようにし、作業療法士が患者の好きな手工芸品を一緒に作り落ち着かせています。

 患者と信頼関係を築きながら、自分たちの関わる力や開かれた対話で、患者をより良い状態にするのが本来の医療のはずです。身体拘束が原則禁止とされている介護施設や障害者施設と連携し、改善策を共有していくことも必要だと思います。(聞き手・森本美紀)

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アンケート「横断歩道、止まらない?」をhttp://t.asahi.com/forum別ウインドウで開きますで実施中です。ご意見はasahi_forum@asahi.comメールするでも募集しています。

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