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 ノーベル文学賞を受賞する日系英国人の作家カズオ・イシグロさんが、7日夕(日本時間8日未明)、ストックホルムのスウェーデンアカデミーで「My Twentieth Century Evening - and Other Small Breakthroughs(私の20世紀の夕べ――そして、その他のささやかな発見たち)」と題して記念講演をした。市民ら約500人が、50分間の演説に耳を傾けた。

 講演では、生い立ちや作家人生を音楽や映画から受けた影響と共に振り返り、現代における文学の役割を語った。

 長崎で生まれ、5歳で英国に移住したが、外では英国の中産階級のマナーを学び、家では日本から届く漫画や雑誌を読んでいた。ロックスターになるのが夢だったが、大学院生の時に短編を書いて、自分の文学的野心に気がついたという。

 1980年前後、最初の長編「遠い山なみの光」を書き始めた。「切迫した激しさで、第2次世界大戦末期の日本について、私の生まれた都市について書いた」と話し、その日々がなかったら「作家になっていなかった」と語った。

 99年にアウシュビッツを訪れた際、我々は何を覚えておき、何を忘れるべきかという問いが浮かび上がってきた。「第2次世界大戦は両親の世代のものだと思っていたが、その記憶や教訓を伝える義務があるのだろうか?」

 講演の最後に、ジャンルや形式にとらわれず新しい才能を発見しようと呼びかけ、「私はいまだに文学は重要であると信じている。分裂の危機が増加している時代に、私たちは耳を傾ける必要がある。良い作品と良い読書は障壁を打ち破ります」と、文学が社会の対立を乗り越える力となることを訴えた。授賞式は10日にストックホルムで開かれる。(ストックホルム=吉村千彰