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 ◇小さな蔵の酒 カジュアルに 「百年後も飲んでいる」文化の伝え手に

 日本酒の人気がじわじわと盛り返している。そのおいしさ、味の幅広さ……。若い世代が、新しい形で魅力を発信し、ファン層を広げている。

 ◆日本酒専門のウェブメディア

 東京から新幹線で約2時間、新潟市にある今代司(いま・よ・つかさ)酒造。

 日本酒専門のウェブメディア「サケタイムズ」(渋谷区)の高良翔さん(29)とライターの佐々木ののかさん(26)は白壁に瓦屋根、風情ある建物に感嘆の声を上げた。

 「かっこいい」

 2月末、「寒造(かん・づく)り」の終盤を迎えた蔵の中へ。発酵途中のタンク内を見せてもらうと、甘い香りが鼻をくすぐる。「口べた」と照れる杜氏(とう・じ)に話を聞き、酒造りへの思いを引き出す。

 田中洋介社長(37)へのインタビューでは、2度の廃業危機を乗り越えた経緯や、グッドデザイン賞に輝いた瓶のデザイン改革などを聞いた。

 案内した営業部長の佐藤嘉久さん(33)は「深く本質を見極めて伝えていただける。ありがたい」。

 サケタイムズは2014年6月に「創刊」した。代表の生駒龍史さん(31)はサラリーマンを経て日本酒のネット通販を起業。2年余りで事業譲渡し、サケタイムズを立ち上げた。

 「飲んでみようと思うには、日本酒がおいしいらしい、楽しいらしい、はやりらしい、と情報を知ることが何より必要ではないか」

 起業を考えていた時、出会った日本酒への感激が原点という。酒屋の友人に勧められた熊本の「香露」を飲み、見方が変わった。「百年後も人間は飲んでいると思う。恒常的に続く文化に貢献したかった」

 日本酒好きを集めた10人のスタッフと外部ライターが35人ほど。タイアップする酒蔵との契約料が主な収入源だ。連載記事を書き、ウェブを使った販売戦略の助言もする。閲覧数と反応の多さが売りで、契約先も増えてきた。

 「SAKE文化」の伝え手に――。サケタイムズのサイトにある宣言だ。

 □100種が自由に飲める店

 池袋駅西口徒歩数分の雑居ビルにある「クランドサケマーケット池袋店」。ガラス張りの冷蔵庫に、約100種の日本酒が並ぶ。

 約60席がほぼ埋まった午後8時、法被姿の男性が現れた。広島市にある「梅田酒造場」の後継ぎ梅田啓史さん(32)が、自蔵の銘柄「本洲(ほん・しゅう)一」の一升瓶を抱えている。マイクを手にした店員が叫んだ。

 「本洲一で乾杯しましょう!」。空いた杯を手に並ぶ客に梅田さんが注ぐ。全員で乾杯後、景品付きのクイズで盛り上がった。

 この店のオープンは2年前の春。足立区の老舗業務用酒卸が2013年に設立した子会社「リカー・イノベーション」が運営する。「お酒の新しい価値を」を掲げ、20代社員が中心となり日本酒になじみがない層の開拓を試みている。

 ネットで情報発信や消費者向けの通販を始めたが、「これはおすすめと言っても、実際に飲まないと分からない」と同社の辻本翔さん(28)。新たなスタイルの店舗を模索し、埼玉県深谷市の蔵元で聞いた言葉が出発点となった。「全国に1千以上ある蔵で広く飲まれているのはごく一部」。各地の小さな蔵の酒を飲み比べできる店。それがコンセプトとなった。

 各地を訪ねてそろえた約100種を、税込み3240円で自由に飲める。時間制限無しで、食べ物は持ち込み制にした。客層は狙い通り、酒を飲まないと言われる20代が中心で6割が女性という。渋谷、新宿など都心に4店、埼玉・大宮にも出店した。

 蔵元が来店する「蔵元飲み比べの会」は、客の反応がわかると蔵元にも好評だ。ワニや深海魚など「珍肉」「珍怪魚」と合わせる斬新なイベントも始めた。辻本さんは言う。「日本酒はこういうものと凝り固まらず、カジュアルに楽しめる酒と知ってもらいたい」

 (井上恵一朗)

 ■「こだわりの酒」は増加傾向

 日本酒の出荷量が減り続ける中、純米や吟醸酒など「こだわりの酒」は増加傾向にある。国税庁は、製法など一定の条件を満たした吟醸、純米、本醸造酒(細かくは8分類)を「特定名称の日本酒」として集計している。2014年度の出荷量(17万4516キロリットル)は10年度と比べて約8700キロリットル増えた。日本酒全体の出荷量はその間、約4万9千キロリットル減っており、特定名称の日本酒が全体に占める割合は3割を超えた。