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 日米の株式市場は、楽観と不安が交錯する中で年を越した。

 米国の次期大統領にトランプ氏が当選して以来、減税やインフラ投資で景気が刺激されるとの期待が高まる。だがそれで、昨年の世界を揺るがせた経済システムへの人々の不信が消えるとは考えにくい。米国や英国で噴き出た「自国中心主義」は、経済のグローバル化への反発に深く根ざしているからだ。

 冷戦終結後、あくなき利潤の追求を推進力に、ヒト・モノ・カネの国境を越える往来を広げてきた資本主義。問われているのは、その未来の姿である。

 ■曲折を重ねた歴史

 資本主義はこれまでも挫折を経験し、曲折を重ねてきた。

 100年前の1917年には、ロシア革命で世界初の社会主義政権が樹立。第2次世界大戦後の資本主義陣営は社会主義に対抗しつつ、雇用や社会保障を重視する福祉国家を築いた。

 だが、財政負担の拡大やインフレが進み、米国や英国は「小さな政府」を掲げたレーガン・サッチャー路線に転じる。金融も自由化され、活力が戻ったかに見えた半面、貧富の差が再び拡大し、リーマン・ショックに至る暴走の素地も生まれた。

 ただ、前世紀の経験は、ソ連などでの社会主義の失敗も白日の下にさらした。岩井克人・東大名誉教授は、チャーチルの民主主義論をもじって言う。「資本主義は最悪の経済システムだ。これまでに存在したすべての経済システムを除いては」

 たとえブレーキの利きが悪い中古車であっても、当面は資本主義を使い続けるしかない――。だとすれば、少しでも良くするために何をなすべきか。

 ■不平等の現実、直視を

 「貿易と技術がもたらす利益が平等ではないという現実を、経済学者は認めるべきだ」。英国の中央銀行、イングランド銀行のカーニー総裁は、昨年末の講演でこう述べている。

 国全体にはプラスの変化であっても、一部には職や所得を失う人々が生まれる。その人たちへのセーフティーネット(安全網)が不十分であれば、変化そのものが敵視されてしまう。

 貿易の拡大や技術の進歩に伴って生じる格差は、再分配による修正を徹底すべきだ。それは税制の活用など、一義的には国ごとに課された仕事である。

 グローバル化そのものに背を向ける保護主義的な主張も見られるが、現実的ではないだろう。情報や技術、生産体制などの基盤は、既に国境を越えて広がっている。貿易を通じた新興国の成長は、世界的な格差解消を考えれば前進といっていい。

 国際的な課題にも、市場任せでは解決できないものがある。

 多国籍企業が制度の隙間をついて税負担を逃れようとする動きに対抗するには、国同士の協力が必要だ。金融機関の過剰な投資や劣悪な労働条件、環境への悪影響を防ぐための規制にも、国際協調が欠かせない。

 トランプ氏当選の前までは、金融危機後の経済の長期停滞が注目されていた。技術進歩の停滞や人口構造の変化が背景にあるとすれば、難題である。

 そもそも、先進国での成長がまだ必要なのかという疑問もあるだろう。余暇や健康などGDPに計上されない豊かさや安定が大事なのも確かだ。

 それでも、全体のパイが増えなければ分配の調整も難しくなる。日本の「失われた20年」は、その事実を突きつけた。経済成長を自己目的化するのは誤りだが、敵視したり不要視したりしても展望は開けない。

 ■「利益追求」を超えて

 将来を見渡せば、人工知能の発展など「第4次産業革命」とも呼ばれる動きがある。進み方次第では、新しい成長や豊かさをもたらすかもしれない。

 だがその際、資本主義の「影」も、繰り返し表れるはずだ。大企業による独占など「市場の失敗」への対処、バブルに翻弄(ほんろう)される景気の安定化、成功者への富の集中の抑制――。政府の役割は引き続き重要だ。

 一方で、資本主義そのものの中に、単なる利益追求を超えた可能性を見る指摘もある。

 長期投資を手がける「コモンズ投信」会長の渋沢健氏は、日本資本主義の父と言われた渋沢栄一の玄孫だ。「栄一は『論語か算盤(そろばん)か』ではなく『論語と算盤』と述べていた。社会貢献と営利は、ともに事業の長期的な持続に欠かせない」と話し、社会起業家の支援を続ける。

 先にあげた岩井氏は、資本主義の中にも本来、「倫理」が求められている領域があると指摘している。例えば、経営者は自分の利益でなく、会社の利益に忠実でなければならない。それが、経営者の野放図な高額報酬などへの歯止めになるという。

 こうした要素がどこまで発展するかは未知数だ。だが、現実経済の中でもNPOの存在感は増し、金融機関に顧客本位を求める声も強まっている。

 より良いシステムを探る地道な努力が、今こそ必要だ。

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