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 世界は深い霧の中で新年を迎えた。未来を見通せない、不確実性という霧である。

 国際秩序は、経済や軍事というパワーを背景に競い合う弱肉強食の世界になるのか。国と国の関係は、ルールや原則よりも損得に基づく取引と化すのか。

 曲折はあったとはいえ、戦後の国際社会は国を超えた協力関係や相互依存を深めることで安定と繁栄を追求してきた。

 その土台を築いた米国で、自国中心主義を掲げるトランプ氏がまもなく大統領に就く。孤立を選択した英国の欧州連合(EU)離脱交渉も春に始まる。

 分断時代の到来が予感される一方、一国だけでは解決できない問題が増えている厳然たる現実も直視する必要がある。

 テロ、難民、地球温暖化、核拡散、サイバー犯罪。国境の壁をいくら高くしたところで、国同士の連携を欠いた危機対応が意味をなさないのは明白だ。

 信頼と対話に基づく国際協調の灯を絶やしてはならない。そこで守るべきは、目先の国益にとどまらない、法の支配、自由や人権の重視といった民主社会の原則と価値観だ。その意志と知恵が問われる一年となる。

 ■欧州の実験は岐路に

 欧州の主要国で相次ぐ選挙が試金石になるだろう。

 今年前半に大統領選が行われるフランス、総選挙があるオランダでは、「反イスラム」「反EU」「反移民」を公言し、排外的なナショナリズムをあおる右翼政党が左右の主流派政党をしのぐ支持を集めつつある。

 欧州統合に深くかかわってきた両国で右翼政党が政権を握れば、平和のために主権を分かち合う地域協力の壮大な実験は頓挫の危機に立つ。人権尊重などの規範作りで世界を主導してきた欧州の影響力は、決定的に損なわれるだろう。

 さらに目が離せないのは、メルケル首相が政権4期目を目指す秋のドイツ総選挙だ。

 メルケル氏はユーロ危機で指導力を発揮し、ウクライナ危機ではロシアのプーチン大統領とも渡り合ってきた。トランプ氏にも「民主主義や自由、法の支配の尊重」を説いた。

 そうした価値観の「最後の守り手」と形容されるまでに至ったメルケル氏だが、その足元にも排外主義が忍び寄る。

 与党が議席を大きく減らし、難民受け入れに反対する右派政党が国政初進出を果たして一定議席を獲得すれば、メルケル氏の求心力は低下するだろう。国際社会における民主主義の退潮につながりかねない事態だ。

 ■反乱する中間層

 懸念すべきは、欧州の排外主義政党が英国のEU離脱やトランプ氏当選で勢いづいていることだ。その原因を見極めるためにも、二つの出来事が可視化した「没落する中間層」の反乱に目をこらす必要がある。

 グローバル化がもたらす産業構造の変化や技術革新に乗り遅れた彼らをさいなむのが、貧困層に転落するかもしれない不安や、親の世代よりも豊かな将来を望めない現実への不満だ。

 中間層が主に担ってきた共感や連帯の絆は細り、怒りの矛先は自分たちの境遇への目配りに乏しい大政党や、彼らが「手厚く遇されている」とみなす移民や難民たちへと向かう。

 「エリート」や「移民」を敵に仕立てて彼らを囲い込んだのが排外主義の政治家たちだ。

 グローバル化に押しつぶされそうな声を真剣にすくい上げず、具体的な解決策を示す地道な努力を怠ってきた既存の政治こそ、この事態の責任を認識すべきだろう。

 ■国際協調支える責任

 不確実な未来に、ただひるんでいるわけにはいかない。

 米国も欧州諸国も成熟した民主国家であり、政治が一方に傾いても、振り子のように復元する歴史を繰り返してきた。過度の悲観は禁物だ。

 穏健で民主的な価値観の担い手になってきた中間層を守り育てる必要がある。彼らを「没落」から救うのはトランプ氏の掲げる富裕層減税や保護貿易ではない。職業訓練の充実をはじめ、グローバル化の激変を生き抜くためのきめ細かい政策だ。

 分断を克服する努力も欠かせまい。ソーシャルメディアは個人の発信機会を広げた半面、同じ考えの者同士が固まる思想の分断も生んだ。異論が混じり合い、理解し合う言論空間を構築しなければならない。既存メディアの信頼回復も急務だろう。

 ギリシャの島では、命をかけて海を渡ってきた難民に島民たちが手を差し伸べた。ドイツでは今も多くの市民がホストファミリーとして難民を迎え入れている。強靱(きょうじん)な善意が息づく市民社会が国を超えたネットワークを築けば、自国中心主義への歯止めになりうる。

 民主社会の価値観の防波堤として、日本が果たすべき役割は重い。狭い国益に閉じこもらず、いかに国際協調を支える責任を果たすか。問われているのはその自覚である。

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