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 1980年12月19日は学校のあと午後7時までベビーシッターのアルバイトをした。翌年の同日、私は灰色のセーターを着ていた。翌々年の同日は……。米国のジル・プライスさんは、8歳の頃からの毎日の生活を鮮明に思い出すことができるという▼「超記憶症候群」という症状だそうだ。楽しいことばかりならいいが、侮辱された記憶や悲しみまで再生される。「胸がえぐられるような思いを何度も繰り返すのはほんとうにつらい」と、著書『忘れられない脳』にある▼想像もできない世界である。私たちは多くの出来事を忘れてしまい、気付かないうちに記憶を書き換えることもある。そんな不確かな記憶を堂々と主張していたのが、この方である▼国有地売却の問題で揺れる森友学園との関係を国会で問われ、稲田朋美防衛相は、「籠池泰典(かごいけやすのり)理事長夫妻から法律相談を受けたことはない」「裁判を行ったこともない」と断言していた。ほどなく学園の代理人弁護士として出廷していたことが判明した▼驚くのは、その後の発言だ。「私の記憶に基づいた答弁であって、虚偽の答弁をしたという認識はない」。ロッキード事件以来、国会でのごまかし発言といえば「記憶にありません」だが、その上を行く開き直りである▼勘違いで取引先に迷惑をかけた社員が「記憶に基づいた行動であって問題はない」と言い訳すれば、上司から大目玉を食らうだろう。忘却に基づく言動が不問に付される内閣とは、不思議な空間である。

 <訂正して、おわびします>

 ▼16日付1面「天声人語」で、米国のジル・プライスさんの著書『忘れられない脳』を紹介した中で、「翌年の同日に会った人は灰色のセーターを着ていた」とあるのは、「翌年の同日、私は灰色のセーターを着ていた」の誤りでした。日本語訳の著書の中で省略されていた主語を誤って解釈しました。

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