[PR]

 朝日新聞社は「あすへの報道審議会」=キーワード=の第3回会合を3月21日に東京本社で開いた。4人のパブリックエディター(PE)と読者6人が、連載記事の「小さないのち」「子どもと貧困」など、子どもや子育てをめぐる報道内容について、本社編集部門と話し合った。読者が直接参加するのは初めてで、それぞれが自らの体験談などを交えて意見を述べた。

 【「子どもを見つめて」 読者と考える】

 ◇極端な例だけでは理解されぬ 内山田のぞみさん(23)=東京都・会社員

 極端な例ばかり報道されると、読者が「自分とは違う世界の出来事」と感じて、理解が得られない。「ごはんは食べられるけど、みんなと同じことができない」という貧困をもっと取り上げるべきだ。

 ◇虐待への対応、成功例紹介して 田中純子さん(56)=福岡県・保育士

 虐待事件がいつまでもなくならない。子どもを救うために、どういう方法や手段が考えられるのか。現場で取り組んでいる方や団体の成功例、誰にでもできるような具体例をぜひ紹介してほしい。

 ◇母子家庭、男性の問題も報じて 野田隆稔(たかとし)さん(74)=愛知県・元教師

 母子家庭に関する記事は数多いが、母子家庭を作った男性の問題を伝える記事は少ない。痛ましい事件を報じる時、関わった男性はどうだったのか、という視点も必要だと思う。

 ◇「助け求めていい」伝え続けて 伊藤孟(たけし)さん(30)=京都府・大学院生

 苦しい時は助けを求めていい、というメッセージを伝え続けてほしい。また最も弱い立場の子どもを出発点に、分断された人間同士が共に社会を築けるような記事を期待する。

 ◇「子どもにも人格」立ち返って 山北裕子さん(55)=東京都・主婦

 小島PEは「今の世の中では、子どもはあたかも親の所有物であるかのように扱われていると感じる」と言う。子どもも一人の人間なんだ、大人と同等の人格があるのだ、という基本に立ち返って報じてほしい。

 ◇シリーズ記事、繰り返す重要性 水本雅子さん(59)=兵庫県・会社員

 各シリーズの最初に、制度上の問題点などを示し、次から個別のケースの記事を出し、最後にフォーラム面で内容を深めている。日々繰り返して書くのは大事だ。

 ■事例は極端か

 内山田のぞみさん 私自身は貧困家庭から大学に進学し、生活困窮家庭の子どもを支援する側に回った。そんな背景から2015年11月1日付朝刊フォーラム面ほか、いくつかのメディアで子どもの貧困問題の取材に実名で協力した。ただ、よりかわいそうに描かれる場合があり、貧困を「かわいそうな物語」としてしか捉えていないのではないか、と思った。記事で極端な例を強調しすぎると、実態がきちんと伝わらず、子どもの貧困に対する社会の理解度が高まらないのではないか。

 斎藤利江子・大阪本社生活文化部長 「子どもと貧困」取材陣も悩んだが、「まずは多くの人に少しでも関心をもってほしい」と考え、より苦しい生活実例が多くなった面はある。一見そうは見えないが、ほかの子どもと同じことができないという貧困にも、さらに切り込んでいきたい。

 田中純子さん 16年10月17日付朝刊の連載「小さないのち」の「娘いなければ…思い詰め」では、母親が3歳の娘を橋から川に落とす直前に、娘がにこっと笑って「バイバイ」と言ったとある。その子の気持ちを考えるといたたまれなくなって、思い出すと涙が出る。

 野田隆稔さん テレビ報道を見ただけだと、母親を鬼としか思えなかった。記事を読んで「(母子を)助けられるところがどこかにあったのではないか」という思いを強く持った。周囲や自治体の努力でなんとか助けていけないかという視点で取り上げたのは良かった。この連載では10月16日付朝刊の「届かなかった なっちゃんのサイン」も衝撃的だった。写真を見るとあどけない4歳の子が7キロを歩くというのはすごい。どんな気持ちで歩いたのだろう。

 平栗大地・デジタル編集長 朝日新聞デジタルでは、田中さんが挙げた「バイバイ」の記事はこれまでに約987万回も読まれており、デジタルがスタートした11年5月以降で2番目に多い記録になった。特徴として20~40歳代の女性、子育てが身近な人たちに多く読まれた。新聞読者は60歳以上が主力だが、デジタルでは、この記事を読んでほしい世代に届けることができた。この世代に人気の「LINE(ライン)ニュース」への配信で広がった。「小さないのち」は、紙面に掲載した36本の記事以外にデジタル独自の連載があり、よく読まれた。

 野田さん 今年2月19日付朝刊「交通事故 小1突出」は事故データの分析があり、なるほどと思えた。私にも4月に小学1年生になる孫が2人いて、見ているとやはりヒヤッとすることがある。

 小倉直樹・特別報道部長 「小さないのち」は統計などの数字を分析するデータジャーナリズムと、訴求力のある現場の生の話の両方を組み合わせて展開している。「衝撃的」とのご感想も多いが、例えば、野田さんが挙げた「なっちゃん」の例は、おばあちゃんら親類、行政、警察などの取材を進めていくうちに、4歳の子どもが7キロも歩いたという話にたどり着いた。1人の子どもが虐待で亡くなる前には、必ずSOSを発するぎりぎりの場面がある。多面的に取材することで、実態を世の中に伝えられればと思う。

 小島慶子PE 個別の事情に寄り添うことで、生活実感をもって読者に訴えかけることができる。テレビでは実際の映像がないと伝えられないが、文字メディアでは言葉によって読者の頭の中に映像を描ける。そこが新聞が持つ強みでもあると思う。

 湯浅誠PE 「小さないのち」で取り上げた虐待問題は、死因の分析など原因を分析して対策を立てる仕組みが、社会にまだできていない。「子どもと貧困」では様々な要因が挙がっているが、まだ足りないところもあるだろう。個別事例であって普遍性をもった話にならないというリスクも伴うが、社会課題を切り開く上ではチャンスでもある。積み重ねが状況を動かしていく。個別に丁寧に拾っていってもらいたい。

 長典俊・ゼネラルマネジャー 「小さないのち」の連載は、見えない全体像を明らかにして、見えるようにしていく作業だ。すべての子どもの死因をデータ化して、子どもたちが死に至る原因を突き止める。それを社会に還元していく。個別のケースの積み重ねだが全体像が見えるという仕組みを整えていくことが目標だ。

 中村史郎・ゼネラルエディター 朝日新聞はなぜいま、子どもの問題に注目するのか。そこから何を描こうとしているのか。一つは、子どもは社会全体を映す鏡であり、社会的、経済的、政治的な矛盾、しわ寄せを受けやすい存在ということ。もう一つは、私たちの報道が問題提起となり、社会全体でどう解決したらいいのか、読者のみなさんと一緒に考えていくきっかけにしたいからだ。フォーラム面を使った双方向性も重視している。

 ■「自己責任論」

 野田さん 貧困というのは自己責任だという人たちが一方でいる。マスコミとして自己責任の問題をどう考えてきたのか。この言葉を使いすぎると、社会福祉行政の責任をあいまいにしてしまうのではないか。

 湯浅PE 「自己責任」発言は「子どもの問題は親が自分で何とかしろよ」「親の不始末を社会のせいにするな」と言っているように見える。

 伊藤孟さん 2月27日付朝刊のフォーラム面「子どもの貧困 責任は」には、読者の声として「社会の責任」と「親の責任」の両論が記されていた。親の責任だという人たちがなぜそう言うのか、背景を掘り下げてほしい。あるいは、両論の双方が対話する熟議の場を提供する。そうやって人と人をつなぐメディアのあり方を模索してほしい。

 江木慎吾・フォーラム編集長 朝日新聞が力を入れているテーマが読む人にきちんと届いているか、いわば相対化する意味で、フォーラム面は読者のみなさんと議論しながらやっている。自己責任論をめぐっては「自分は乗り越えてきた。甘えじゃないか」といった声も紹介してきた。私たちとしては、そういう意見の方々にも議論に加わってもらいたいと思っている。

 斎藤生活文化部長 「自己責任」を言う人の中には、「終戦のころはみんな大変だった」「私も母子家庭だがもっと頑張って努力した」と感じている人もいる。貧困以外で苦しんでいるのに、社会が注目してくれないと不満を持つ人もいると思う。様々な角度から、さらに理解を深めていきたい。

 山北裕子さん 私が子どもの問題に初めて注目したのは、深代惇郎さん(故人)の天声人語(1974年4月10日付)。京都で病身の母親と2人暮らしだった小学生の男児が、「家には母も死んでいます」というメモを手に病院から投身自殺した。自己責任論をふりかざす人たちに、この子はこうやって自己責任を完結させたけど、それでいいんですかと、問うてみたい。

 河野通和PE 「子どものことに税金を費やすよりも他に目を向けるところがある」という人たちにも響かないと、「社会全体としてどう支援するか」という問題意識につながりにくい。親の自己責任だと思っている世代に、どう訴えていくかが、これからの課題になる。

 長谷川玲・東京本社社会部長 問題提起の記事を載せ、フォーラムの場で読者とともに考えていく。次の課題は、議論の輪に入ってこない人や、朝日新聞というメディアを通じて議論することを望まない人たちの意見をどうくみとっていくか。そこには、まだ、壁がある。

 手紙が中心だったころは、読者の反応をつかむまでに時間がかかったし、送ってくれる読者の意見に限られた。いまは記事が載った即日にデジタル媒体で何千もの反応が得られる。そのスピード感や多様さを生かし、幅広い共感につなげられる場を作っていかなければいけない。

 ■制服価格問題

 伊藤さん 16年8月20日付朝刊「公立中制服 地域で価格差」では、制服の値段の高さが家計を圧迫している事実を示した。多くの人が何となく感じている問題を掘り起こして報道したという点で、新聞の使命を果たしていると感じた。

 野沢哲也・特別報道部次長 娘の制服代のためにヤミ金融業者から借金をして、殺人に発展した事件をきっかけに記者が調べ始めた。だが制服選びは学校と業者任せで、教育委員会や文部科学省などに統計データがない。そこで記者がツイッターやフェイスブックを通じて呼びかけると、多くの保護者から制服の領収書などの写真とともに事例が集まり、一連の報道につながった。

 水本雅子さん 今回の記事で制服の地域差や、それをなんとかしようとしているお母さん方のことを知った。自分の学生時代は服装に自由が多かった気がするが、私の子どものは教材も体操服も指定ばかりになった。

 小島PE 選択できないことで負担が大きくなる人もいる。「見えない貧困」という言葉がある。「なるべく普通に見えるようにしよう」と、見えないところですごく無理がかかっている人たちがより気づかれにくくなってしまっている。

 田中さん 私も自分の時代は体操服は白くて似たようなものならどこで買ってもよかった。自分の子どもたちは体育館シューズも体操服もメーカーが統一され、上下とも刺繍(ししゅう)の名前入りが指定された。水着もラインが1本入っていただけで「違反」と言われて子どもが傷ついた。

 湯浅PE 文科省が自治体にデータを求めていないのは「大事なことじゃない」と考えていることを意味している。政治やメディアも取り上げてこなかった。しかし、このテーマは盛り上がるし、話したくなる。このことは「話したくなるテーマを新聞が提示してきたのか」という問題提起に通じる。たしかに飲みながらの会話で、制服論議より政治・外交論議をする男性は多いが、果たして新聞が示す価値の序列は広い読者ニーズにこたえるものだったのか。それが、文科省に問い合わせてもわからないが、SNSで大反響があるというギャップに表れているのではないか。

 山北さん 最近取り上げられている制服に加え、部活でも費用がかさむものがある。塾通いも低学年化してお金がかかり、両親は遅くまで働く。その原因は同調圧力だ。メディアにお願いしたいのは、その圧力に負けない方策だ。子どもを尊重する社会についての報道の背景には当然、大人も尊重される社会を描いているはずだ。

 河野PE 岡山での私の子ども時代、制服は一律だったが割に安く、見た目でも格差が感じられず、肯定された。それが「一億総中流」といわれ自由が奨励された時代を経て、いま揺り戻しの画一的な価値観が行き過ぎている点に、制服問題の息苦しさがある。ほんの50年程度の間だが社会状況によって物事のとらえ方は変わる。おそらく正解はない。長いスパンで見てどう光をあてて落としどころを探るかは、冷静に意味を問う活字メディアの役割だろう。

 

 ■課題解決への試み、多彩な展開進める 常務取締役編集担当・西村陽一

 私たちは、「調査報道」「検証報道」などに加えて、新たに力を入れる分野として「課題解決模索型報道」を掲げている。それは社会課題を取り上げる際、調査やルポで問題点を指摘するだけに終わらせないこと、課題解決のアイデアを実践している国内外の様々な人や組織に着目し、その具体的な取り組みを伝え、解決策の実効性を点検すること、そして、フォーラムを通じて当事者、専門家、行政の担当者、読者の方々とともに解決の道筋について考えていくことだ。「小さないのち」「子どもと貧困」はその実践例だった。

 「極端な例を強調していないか」というご指摘をいただいた。事実の重みは否定できないし、ジャーナリズムには社会の関心を喚起する役目があるが、「ここまで苦しくないと声をあげてはいけないのか」という反応をもたらさないよう気をつけたい。

 今回、「新しい読者」に記事を届けるため、SNSやデータジャーナリズム、動画特集、双方向の展開などにも取り組んだが、今後もデジタルでの多彩な表現方法をさらに進化させたい。

 

 ◇パブリックエディター

河野通和(こうのみちかず)さん 「考える人」(新潮社)編集長。1953年生まれ。

     *

小島慶子(こじまけいこ)さん タレント、エッセイスト。1972年生まれ。

     *

湯浅誠(ゆあさまこと)さん 社会活動家。法政大教授。1969年生まれ。

     *

松村茂雄(まつむらしげお) 前・西部本社編集局長。社内PE。1959年生まれ。

 

 <子どもと貧困> 貧困の現場を取材し、支援のあり方、制度の課題など解決の糸口を探る連載企画。2015年10月から「空腹に耐えかねてティッシュをかみしめる姉妹」「乳歯10本が根だけになった男児」などの実例を紹介。そこから見えてきた養育費の未払いや給食費などの問題についてフォーラム面も活用して投げかけ、子ども食堂の広がりなど支援の最前線を追った。社会がどう支えられるかをテーマに市民参加のリアルフォーラムも開催した。

     *

 <小さないのち> 子どもの命について考える連載企画。過去10年間に亡くなった子どものうち約5千人の解剖記録や、重大な虐待事案の検証記録を専門家と分析したほか、遺族の証言や現場取材をもとに事故や虐待問題を取り上げた。これまでに連載「ある日 突然」(16年8~9月)、「奪われる未来」(10月)、「児相の現場で」(11月)、「道に潜む危険」(17年2月)を展開。読者とともに予防策を考えるシンポジウムも開いた。

 

 ◆キーワード

 <あすへの報道審議会> 社外の声を紙面作りや取材に生かそうと本社が2016年度に新設した。読者代表のPEが紙面モニターの声などをもとに、本社側と議論する。第1回は参院選報道や訂正・おわび記事のあり方についてメディア研究の専門家を招いて議論。第2回は犯罪被害者の実名・匿名報道について事件担当の記者を交えて議論した。

 第3回の今回は初めて読者が加わった。朝日新聞の記事を評価する公募の紙面モニターの経験者、フォーラム面に登場した方、連載「小さないのち」「子どもと貧困」に意見を寄せた方々の中から招いた。まずPEと読者が問題意識を共有し、それを本社編集部門の部長らに問いかけて、議論した。司会は松村茂雄・社内PE。

 

 ◆朝日新聞デジタルの特集ページ「あすへの報道審議会」(http://t.asahi.com/jsks別ウインドウで開きます)とウェブサイト「朝日新聞社インフォメーション」内の「パブリックエディターから」(http://www.asahi.com/shimbun/pe/)でもお読みいただけます。なお、今回の審議会の議論は、東京本社版の紙面、朝日新聞デジタルをもとに行いました。

こんなニュースも