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 公立中学の制服価格について報じた昨年8月の記事をきっかけに、地元の学校について調べた人がいます。フォーラム面「中学校の制服」の議論なども踏まえ、地方議会でも価格の公表や、価格差の解消を求める動きが出ています。そうした動きを紹介するとともに、見えてきた課題を専門家に整理してもらいました。

 ■情報公開で170校把握

 北海道の公立中学の制服価格を1人で調べている。帯広市の図書館司書、大平亮介さん(28)からそんな連絡がありました。昨年8月20日付の朝日新聞に載った「制服価格の地域差」の記事を読んだのがきっかけだと言います。

 昨年末、帯広市の状況を把握、年明けから札幌市を除く道内34市にメールを送り、制服、体操着、副教材費などの費用が載った入学説明会資料の提供を依頼しました。

 ほとんどの市から「保有していない」と通知され、途方に暮れたそうです。そこで情報公開制度の利用を思いたち、30市に手紙で開示請求しました。「『保有していない』と答えた市の多くで開示請求には対応してくれた」と言います。

 3月末までに27市約170校分の情報が集まりました。各校のデータを入力するうち、腑(ふ)に落ちない点も出てきました。「同じ詰め襟制服でも、学校によって1万円もの差がある。1万円あれば1年分の副教材費が賄える。行政は把握しているのだろうか」。小樽市の、ある中学校では制服と体操着代(シャツ代を除く)で約7万円かかっていました。

 苦労して集めたデータですが、自分のフェイスブックで一部を知人に紹介するにとどまっています。もっといい活用方法がないか考えています。「困窮世帯向けの就学援助の支給額と照らし合わせ、どれだけ足りないのかを調べ、この分野に関心がある各市の議員に送り、議会で議論して欲しい。また、地元住民からの問い合わせにも答えたい」と話しています。(錦光山雅子)

 ■価格公表、消極的な自治体も

 制服の購入先や価格についての保護者への案内は各校の判断で実施しているため、保護者の負担の実態を調べることに消極的な自治体も少なくありません。

 高松市では、71校の市立小中学校すべてに制服または標準服があります。太田安由美市議は昨年秋、各校の制服や体操服の価格を教育委員会に尋ねましたが、「把握していない」との回答だったそうです。自ら量販店をまわり、学校ごとの制服や体操服(サイズは小学校130センチ、中学校160センチ)の価格31校分を集めました。

 その結果、制服は学校間の価格差があまりないことが分かりました。一方で、体操服は長袖・長ズボン、半袖・半ズボンの合計額が、最も安い小学校で8964円、最も高い小学校で1万4904円と、約6千円の差がありました。中学校は、1万3554円から1万7498円までで、約4千円の差でした。

 太田市議は昨年12月の市議会で、「同じ市立の学校に義務教育で通うにもかかわらず、学校によって体操服の額にこれだけの差が生じているということは、公平性が保たれているとは思えない」と質問。大西秀人市長は「保護者の金銭的負担を考慮すると、体操服の価格は合理的な範囲で、できるだけ低廉で、価格差については学校間の差があまり大きくならないことが望ましい」と答弁しました。

 太田市議は中学生の娘を育てるシングルマザー。経済的に苦しい思いもしてきたといいます。「各校の標準服や体操服の価格や、必ずしも同じものを着なくて良いということについて、もっと情報を出し、周知することが必要。お下がりをもらうなど、うまくやりくりできる人もいるが、孤立している人ほど苦しい状況から抜け出せない」と話します。

 東京都小金井市の片山薫市議も昨年12月の市議会で、5校ある市立中の制服価格を明らかにするよう求めました。

 これに対して、市側は「制服については各学校で定めているもので、取扱業者を通して保護者が購入している。教育委員会としては、各学校の制服について把握している内容はない」と答弁しました。片山市議は、同市が就学援助の対象者の見直しをしていることから、「就学援助の入学準備金の算定の根拠としても(入学準備にいくらかかるかは)必要なデータではないか」と指摘しましたが、市側は「保護者負担については各学校の管理運営方法によっても差がある。行政として調査して、施策に反映する、しないということはない」と応じました。(三島あずさ)

 ■妥当性、話し合う場を 福嶋尚子・千葉工業大学助教

 各校の制服価格や学校指定の物品に関する調査と公表にどんな意味があるのか。福嶋尚子・千葉工業大学助教(教育行政学)に尋ねました。

     ◇

 学校運営は文部科学省や教育委員会から独立し、各校で決めて行うもの。こうした「学校自治」の考えを下敷きに、制服や指定物品も各校が決めてきました。物品の指定や価格に差があるのはこのためです。制服や体操着の価格公表に消極的な教委は、学校自治の侵害を懸念しているのかもしれません。

 もちろん、特色ある教育を展開する自治は認めるべきです。ですが、ヒト、モノ、カネという「教育条件」については学校にゆだねるだけでなく、教委もある程度関与した方がいいと思います。

 学校関連の費用を簡単に分類すると、(1)税金で購入する設備や教材(2)ドリルなど親が払う副教材(3)制服などの学校指定品(4)指定までしていないが、学校あっせんで事実上皆が買う物品、があります。

 (1)は一般的に学校に決定権がありますが、(2)は地方教育行政法で学校が教委に届け出る、もしくは承認を受けるよう定めています。旧文部省は「教育的価値、または父兄の負担等の見地から軽々に取り扱うものではない」と理由を通知で述べています。その趣旨を踏まえると、(3)と(4)も保護者の負担を知る意味から把握する必要はあると思います。各校の状況を教委が把握することによって、学校の意識も変わってくると思います。

 ここ数年、「子どもの貧困」への認識が学校現場にも広がっています。一方で、教員は質の良い授業をすることが仕事だと育てられてきたので、授業で使う物品の値段や購入理由にまで気配りできない面もあるのでは。「ずっとこの制服だから」と前例踏襲が続き、制服の意義や価格の理由を説明できなければ、保護者は当然、不満を抱くでしょう。生徒が入れ替わる3年を目安に、各校で副教材や制服など指定物品の妥当性を話し合う委員会を設けるなどの対応が求められると思います。(聞き手・錦光山雅子)

 ■困窮家庭向けの援助、倍増へ

 制服や学用品について議論する中で、価格差への不公平感とともに、家計への圧迫を感じる人が多くいることがわかりました。そんななか、生活困窮家庭の学用品費などを自治体が支給する就学援助制度で、制服代などにあてる入学準備金の額が2017年度以降、倍増される見通しです。国が自治体に補助する入学準備金の単価(補助単価)が今年度予算から引き上げられたためです。

 小学生への補助単価(2万470円)は4万600円に、中学生(2万3550円)は4万7400円にそれぞれ引き上げられます。文部科学省は倍増した単価に基づいた補助額を今年度予算に盛り込んでいます。

 この引き上げは生活保護世帯への補助単価です。就学援助の大半は「準要保護世帯」に向けたものです。こちらは、自治体が独自に決めた額を支給していますが、多くは国の補助単価を参考に支給額を決めています。今年度入学者から支給を国の補助単価並みに増やすと決めた自治体もあります。

 ■「指定品は必要なものだけに」 福岡県で通知

 制服価格を調査、公表する自治体の動きもあります。相模原市は市議の求めに応じて制服の価格を公表、最高額と最低額に約2万円の差があることが分かりました。

 また、高校が中心ですが、指定品見直しにつながった例もあります。福岡県は昨年10月、県立学校の制服などの指定品価格を県議会で公表。11月末には指定品は「必要性を生徒や保護者に説明できるものにし、効果が低下したものは指定を取りやめたり推奨にとどめたりする」よう求める教育長名の通知を出しました。

 ◇公立中学の制服価格に各地でかなりの差があることを記事で報じ、そのことについてみなさんと議論しました。そして、今回のように価格の公表や学校による差の解消を求めるいくつかの動きが出てきました。これまで学校任せだっただけに、議会や行政がいまどう向き合ったらいいのか、模索は始まったばかりです。データに基づいた議論が不可欠で、それにはまず価格の公表が必要だと感じます。今後も、制服を巡る動きを見ていきます。(錦光山雅子)

 ◇来週10日はお休みし、17日は「学生たちのSDGs」を掲載します。

 ◇ご意見はasahi_forum@asahi.comメールするか、ファクス03・5541・8259、〒104・8011(所在地不要)朝日新聞オピニオン編集部「フォーラム面」へ。

 

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