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 万葉集の歌を題材に自由な発想で表現した作文や絵画を募集した第9回万葉こども賞コンクール(奈良県立万葉文化館、朝日新聞社主催、奈良県教育委員会、朝日学生新聞社後援)。1833点の応募作の中から作文46点、絵画15点が入選し、このうち作文、絵画各5点が入賞しました。みずみずしい感性や豊かな想像力を伝える入賞作品を紹介します。

 

 【作文の部】

 ◇作文の部 最優秀賞 工藤颯莉(そより)さん

 色深く背なが衣は染めましを御坂(みさか)たばらばま清(さや)かに見む(物部刀自売〈もののべのとじめ〉)

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 三十一音――それは狭い鳥籠のように感じられる。自由を制限されたかのようだ。だが、実はその狭い鳥籠の中で小鳥は何者にもなれるのだ。私たちは三十一音でどんな物語も語れる。三十一音の可能性は無限大なのだ。今日は、そんな三十一音の中で、ある愛の物語へと姿を変えた小鳥を紹介したいと思う。

 この歌はある防人の妻が詠んだものである。防人とは北九州の防衛にあたった兵士たちのことで、当時は義務の一つであり兵役として課されていた。任期は三年とされていたが、実際には三年が過ぎても国に帰してもらえなかったり、帰る途中で行き倒れになったりすることがほとんどで、厳しく辛(つら)い任務であった。歌では、防人に出る夫の姿に、衣をもっと濃い色に染めておけば、御坂を越えるときにはっきりと見ることができたのに、と悔やむ妻の辛い想(おも)いが描かれている。

 二度と帰ってこないかもしれない夫の姿を一秒でも長く瞳に焼きつけておこうと、その姿が見えなくなるまで眺めていたのであろう。その小さくなっていく背中にどれだけ大きな想いを馳(は)せたのだろうか。そんな妻の惜別の辛さをさらにくっきりと浮きあがらせる。しかも、この歌には、その辛さを物語るようなさらなる秘密が隠されているのである。実はこの夫婦の家から御坂は見えないのである。この夫婦の家は今で言う埼玉県行田あたりに在り、足柄の御坂である箱根の峠は見えるはずがない。妻も絶対に見えないと分かっているはずだ。だが、見えると信じたい。どんなに遠く離れても夫を感じていたい。そんな複雑な想いもあったことが、三十一音の見えない裏側から分かる。どの辛い想いも全て、二人の深い愛が生んだのだ。深く深く愛しあっていたからこそ生まれた辛さなのだと思う。

 今の日本には兵役という制度がない。なので、国のためではあるが、帰りの切符があるとは言いきれないような場所に大切な人を送り出さなければならない、という葛藤は未(いま)だかつて経験したことがない。この歌はそんな私に、大切な人と過ごせる日常がどれほど特別で幸せなものかということを教えてくれた。

 色深く背なが衣は染めましを御坂たばらばま清かに見む――胸が張り裂けるような、辛い辛い愛の物語……そんな三十一音であった。(東京学芸大学付属国際中等教育学校2年)

 ◇優秀賞 金子朋奈(ともな)さん

 あをによし寧楽(なら)の京師(みやこ)は咲く花の薫(にお)ふがごとく今盛(さか)りなり(小野老〈おののおゆ〉)

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 「ならのみやこ」はどんなところなのかな。きっときれいなうめや、やえざくらのはながいっぱいさいて、いいにおいがして、人もいっぱいいて、町のあちこちでわらいごえがきこえるような町なんだろうな。わたしがすんでいるきたきゅうしゅうもにぎやかだけど、でも、「ならのみやこ」はもっときれいで、たのしい町だったようなきがします。いってみたいな……ならのみやこ。(北九州市立中井小1年)

 ◇優秀賞 多那瀬実結(たなせみゆ)さん

 来(こ)むといふも来(こ)ぬ時あるを来(こ)じといふを来(こ)むとは待たじ来(こ)じといふものを(大伴坂上郎女〈おおとものさかのうえのいらつめ〉)

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 この歌の特徴はラップです。「来」という言葉と、それぞれの句の終わりの音(第四句を除く)をオ段音にすることによって韻を踏んでいます。とてもユニークです。郎女の歌から、「昔も今も人が考えることって同じだな」と感じました。千三百年も前の人と共感することができるのです。堅い印象しかなかったけれど、万葉集って、案外やわらかい!(同志社中3年)

 ◇万葉文化館賞 近藤麻友さん

 春過ぎて夏来(きた)るらし白栲(しろたえ)の衣乾(ほ)したり天(あま)の香具山(持統天皇)

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 「春過ぎて夏来るらし」とわたしが思う時。それは二つある。一つ目は、六月一日の衣がえ。それまで紺色だった制服が、真っ青のワンピースにかわる。二つ目は、六月に入り、夕方たいことかねの音が聞こえて来た時。阿波おどりの練習が近所のあちこちで始まると、ゆかたを着せてもらって出かけることを想像して気分が高まる。初夏を感じる色や音は人それぞれで面白い。(徳島文理小4年)

 ◇朝日新聞社賞 平木優里(ゆうり)さん

 天(あめ)の海に雲の波立ち月の船星の林に漕(こ)ぎ隠る見ゆ(柿本人麻呂〈かきのもとのひとまろ〉の歌集の歌)

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 「なんてロマンティックな歌だろう」。この歌をよみ、一番に私はこう思った。比喩が面白いこの歌は、大きく広がる夜空を海とし、月は舟、雲は波になっている。美しい夜空の様子を、海の景色とかさねあわせることで、より美しく、より鮮明に思い描くことができる。私も、作者のように言葉をたくみに使って、思うことや感じ方をみんなに伝わるようにかきたいと思う。(高松市立古高松中3年)

 

 【絵画の部】

 ◇絵画の部 最優秀賞 増田優希(ゆうき)さん(神奈川・つきみ野幼稚園年少)

 春の野にすみれ摘みにと来(こ)しわれそ野をなつかしみ一夜(ひとよ)寝にける(山部赤人〈やまべのあかひと〉)

 ◇優秀賞 吉瀬茉城(ましろ)さん(大阪・関西創価小6年)

 あしひきの山桜花日並(けなら)べてかく咲きたらばいと恋(こ)ひめやも(山部赤人〈やまべのあかひと〉)

 ◇優秀賞 小宮山舞子さん(名古屋市立志段味〈しだみ〉中2年)

 斑鳩(いかるが)の因可(よるか)の池の宜(よろ)しくも君を言はねば思ひそわがする(作者不明)

 ◇万葉文化館賞 田中咲綾(さあや)さん(名古屋市立下志段味〈しもしだみ〉小5年)

 神山(かむやま)にたなびく雲の青雲の星離れ行き月を離れて(持統天皇)

 ◇朝日新聞社賞 渋谷知憲(しぶたにとものり)さん(大阪・上宮中3年)

 天(あめ)の海に雲の波立ち月の船星の林に漕(こ)ぎ隠る見ゆ(柿本人麻呂〈かきのもとのひとまろ〉の歌集の歌)

 

 ■入選・学校賞(敬称略)

 【作文の部】小学生=齋藤優渚、沖津悠奈(徳島)▽橋本和樹(愛知)▽吉瀬茉城(大阪)

中学生=江村希実(埼玉)▽江口佳奈、高原彩芽、田中野乃香、八田夕貴乃(千葉)▽坂本美桜、佐々木海羽、外岡遥、高井愛奈、田口詩織、豊泉慶佳、松井優芽、山田愛梨(東京)▽森知怜香(神奈川)▽海沼知里、小林萌(長野)▽岩佐璃光、尾形寧音、高橋佳泰、山田陸駆(岐阜)▽篠崎奏、村手翔一(静岡)▽筒井理沙子(愛知)▽新子紗矢(滋賀)▽清水綾乃、高宮由佳(京都)▽江河日向乃、柏原晴(大阪)▽喜夛瑛陸(和歌山)▽石川華乃、氣仙あおい、住田紗梨(広島)▽内海風香、谷川さくら、濱田桜、藤田尚希(香川)▽下田愛子(長崎)

 【絵画の部】小学生=粟津日香理(東京)▽森山果央里(愛知)

中学生=吉川柊子、内野希、尾木洸太、志々田朝陽、杉田咲弥、渡邉彩葵(東京)▽野田将吾(愛知)▽金沢桃夏(大阪)

 【学校賞】千葉市立大椎中(千葉)▽武蔵村山市立第一中、東京学芸大学付属国際中等教育学校(東京)▽日本女子大学付属中(神奈川)▽岐阜市立境川中(岐阜)▽静岡北中(静岡)▽同志社中(京都)▽広島市立東原中(広島)▽徳島文理小(徳島)▽高松市立古高松中(香川)▽諫早市立喜々津中(長崎)

 ◆最優秀賞を除く作文は一部を抜粋。絵画の入賞・入選作品は5月28日まで奈良県明日香村の万葉文化館(0744・54・1850)で展示。観覧無料。月曜と5月9、10、18、19日は休館。

 ◆2008年度から毎年開催してきた「万葉こども賞コンクール」は、今回で終了させていただくことになりました。これまで多くの方々に応募いただき誠にありがとうございました。ご協力をいただいたすべての関係者、ご愛顧くださいました読者のみなさまに厚くお礼申し上げます。朝日新聞社

 〈+d〉デジタル版に入賞作文の全文と講評

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