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 犯罪を行わなくても、計画の段階で処罰する「共謀罪」を広範囲に導入するための法案の審議が、衆院で始まった。性犯罪の厳罰化を柱とする刑法改正案を優先するべきだという声を、政府・与党が押しきった。

 「魂の殺人」といわれる性犯罪に国はもっと厳しく臨むべきだ――。被害者だけでなく、裁判員裁判の判決などを通して明らかになっている大方の声だ。

 それを後回しにして、人権を大きく制約しかねない法律の制定に突き進む。人々の思いと政権との間にあるギャップを象徴する国会運営となった。

 これまで政府は、重い刑が定められている600超の犯罪すべてに共謀罪を設けなければ、組織犯罪対策のための条約に加盟できないと主張してきた。ところが審議入りした法案では277になっている。

 これについて岸田外相は「今回は取り締まる対象団体を『組織的犯罪集団』に限ると明記し、犯罪の類型も、そうした集団の関与が現実的に想定されるものに絞った」と答弁した。

 明らかなまやかしだ。

 過去に3度廃案になった共謀罪法案でも、政府は「対象となるのは組織的犯罪集団に限られる」と説明してきた。外相や首相が知らないはずがない。

 団体の要件を厳格化したと事実と異なる説明をし、過去の見解との間に食い違いがないように装いながら、国民を誤った理解に導く。あざとい答弁だ。

 条約をその時々で都合よく解釈し、目的のためならば積み上げてきたものを無視する。長年の憲法解釈を一片の閣議決定で覆し、安保法制を制定した際にみせた政権の体質が、ここにも表れている。今後の答弁をどうやって信頼せよというのか。

 277という数にも疑問符がつく。処罰範囲が広すぎるとの批判を受け、07年に自民党内で対象を150前後に抑える考えがまとまった。正式決定には至らなかったが、法務、外務両省の幹部も交えて検討した案だ。

 当時の議論と今回の法案には大きな溝がある。対象犯罪をこれからの修正協議の材料に使おうという思いが潜むとすれば、誠実な態度とは言えまい。

 多くの国民が危惧をおぼえるのは、法案自体がかかえる問題に加え、白を黒と言いくるめる政権、そして捜査や治安のためと称し、違法・脱法行為をくり返してきた捜査当局に対する根深い不信があるからだ。

 「成案を得てから」として、この2カ月余、質問から逃げ続けてきた政府、とりわけ金田法相の姿勢と能力が問われる。

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