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 ピーテル・ブリューゲル1世の傑作「バベルの塔」をはじめ、16世紀ネーデルラント美術を紹介する「ボイマンス美術館所蔵 ブリューゲル『バベルの塔』展」が、東京・上野の東京都美術館で開かれている。24年ぶりの来日となった「バベルの塔」のほか、世界に25点ほどしか現存しないといわれる、ヒエロニムス・ボスの貴重な油彩画を間近に見ることができる。

巧みな仕掛け…動画で鮮明に 東京芸大が立体CG・拡大複製画

 芸術と科学技術を融合させた新たな表現をめざす東京芸術大学COI拠点が、「バベルの塔」の魅力により迫るべく、3次元のコンピューターグラフィックス(3DCG)映像および拡大複製画を制作、「バベルの塔」展で展示している。制作にはボイマンス美術館と朝日新聞社が作品調査や画像提供に協力。その過程で、ブリューゲルが絵画で表現した巧みな仕掛けも、見えてきた。

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 「バベルの塔」は縦60センチ、横75センチほどの作品だが、描かれた塔の存在感と細部の表現は目を見張るものがある。一説には約1400人もの人が描き込まれているという。

 東京芸大COI拠点研究リーダーで画家の宮廻正明教授(66)は、ブリューゲルが画家として傑出している点として、「筆の先でちょん、と突いただけのようなごく小さな描写でも、人や物のその前後の動作をきちんと感じさせられるところ」と話す。

 同拠点は3DCGを用い、絵画の塔を立体化。さらに絵の中の滑車やクレーン、働く人々が動きだす映像を制作し、本展会場内のシアターで上映している。

 映像制作過程で新たな発見があった。原画ではゴマ粒ほどの大きさに描かれている人間の身長を170センチと想定すると、絵の中の塔の地面から上層部までは510メートルほどになる。建設が進んで頂上まで完成すると、1500メートルもの高さのとがった塔になるだろうという計算もできた。

 塔の立体モデル制作を手がけたデジタルアーティストの中原修一さん(39)によると、「塔は前面がぐっと前にせり出した構図」という。2次元の絵画を立体化するには、塔の背後の構造や奥行きなども想定して造形しなければならない。原画のイメージを保ちつつ、絵の中のらせん状回廊をたどるなどして立体化を試みると、「はと胸の姿勢をとるときのように、(手前側に)見えている面は膨張し、背中側は縮んだような形になる。きれいな円筒にはならない」。中原さんは、これをブリューゲルの「塔をより壮大に見せるための工夫」とみる。

 中原さんが造形した立体モデルに、塔の側面に開くおびただしい数の窓をつける作業を担当したのは同拠点の特任研究員で彫刻家の大石雪野さん(28)。一つ一つ異なる形状に描かれているものを、内部の奥行きや側面の様子を想像しながらつけていくのは、大変な作業だったが、「パターン化したくなかったのだろうな、というブリューゲルの引き出しの多さを追体験した」と振り返っている。

縦横3倍に拡大、質感も再現

 「バベルの塔」が展示された空間では、同作品の縦横を約3倍に拡大して制作された縦162センチ、横201センチの複製画を見ることもできる。

 東京芸大が「クローン文化財」と呼ぶ精巧な複製は、図柄が正確なだけでなく、質感や絵の具の凹凸まで再現。同大が従来研究してきた保存修復技術なども駆使して開発した手法は、特許を取得している。今回はブリューゲルが描いたのと同じオーク材の板を用いた油彩画の複製を、初めて試みた。

 まず「バベルの塔」を拡大した絵を、淡い色調でプリント。その上の全面に手描きで油絵の具の筆跡をつけていく。同大COI拠点特任研究員で画家の野依幸治さん(38)は、昨年6月にオランダのボイマンス美術館に足を運び作品を観察、絵画に残る筆のタッチをつかんだ。制作中は実物を撮影した超高精細画像も見ながら、2人で約4カ月をかけて筆跡を再現した。「拡大しても細いところは1ミリくらいの線にしかならないほど、実物は細密。人の描いた線をなぞるのは実は難しく、手が震えるほどだった」という。逆に雲の部分は「絵の具が厚く、勢いある筆跡から、おどろおどろしさを表すねらいを感じた。ブリューゲルはここを最後に描いたのでは」。

 こうして付けた絵の具の盛り上がりに重ねる形で、色調を調えたデジタルデータをプリントし、色をのせる。印刷技術と芸大出身の画家や修復家の手、両方を用いた制作方法で、細部まで忠実に拡大しながら、画家が描いた板絵の息づかいも併せ持つ拡大複製画が完成した。

7月2日まで東京都美術館で

 ◆7月2日[日]まで、東京・上野の東京都美術館企画展示室。午前9時30分~午後5時30分(金曜は午後8時まで)。入室は閉室の30分前まで。月曜休室(5月1日は開室)

 ◆当日一般1600円、大学生・専門学校生1300円、高校生800円、65歳以上1千円

 ◆公式サイト http://babel2017.jp別ウインドウで開きます

 ◆問い合わせ

 ハローダイヤル(03・5777・8600)

 <主催> 東京都美術館(公益財団法人東京都歴史文化財団)、朝日新聞社、TBS、BS朝日

 <後援> オランダ王国大使館、オランダ政府観光局、ベルギー・フランダース政府観光局

 <協賛> ダイキン工業、大日本印刷、トヨタ自動車、みずほ銀行、三井物産、損保ジャパン日本興亜

 <特別協力> 東京芸術大学COI拠点

 <協力> KLMオランダ航空、日本貨物航空

 ※7月18日[火]~10月15日[日]、大阪・中之島の国立国際美術館に巡回

別会場で関連企画も

 東京芸大COI(Center of Innovation)拠点は、オランダのデルフト工科大との共同調査による科学分析結果まで反映した、さらに高精度の複製画や、バベルの塔の昼と夜を表現したプロジェクション映像作品も制作。東京都美術館から徒歩約3分の、東京芸大Arts & Science LAB.で関連企画「Study of BABEL」として公開中。入場無料。開館日・時間は、「バベルの塔」展に準じる。

 ◇本展の図録(2500円)は、通販サービス「朝日新聞ショップ」(https://shop.asahi.com/別ウインドウで開きます)でも販売します。

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