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 「希望者が入所予定者数を超える為(ため)、または希望園に空きがない為」。説明はそれだけ。とても納得できなかった。

 東京都大田区の佐々木麗さんは3月末、昨年生まれた長女を預けられる保育園はないという区からの通知を受け取り、不服を申し立てる審査請求をした。

 幸い申し込んでいた保育園の一つに空きが出て、仕事に復帰できたが、請求は取り下げていない。「自分が良ければそれでいい、という話ではないので」。声をあげず、納得したと思われたら、同じことが毎年繰り返される。そう感じている。

 「保育園落ちた 日本死ね!!!」のブログが大きな反響を呼んでから1年余。政府は緊急対策を打ち出したが、「2017年度末までに待機児童ゼロ」の目標にはなお遠い。

 そんな現状を変えようと、行動する人たちが増えている。

地域と世代を超えて

 「子ども子育て予算に1・4兆円を追加して、待機児童の解消を」。東京都武蔵野市の天野妙さんは4月、署名サイト「Change.org(チェンジ・ドット・オーグ)」で集めた1万7千人あまりの署名を自民党本部に提出した。

 個々の「私」の怒りやため息を束にして、「公」の提案に変える取り組みだ。

 3児の母で、女性も働きやすい職場作りのコンサルティングを仕事にしている。自身も昨年、地元の市議会に保育園新設を陳情した。採択はされたが、保育園は周辺住民の反対運動で頓挫。地域や世代を超えて世論を作る大切さを痛感した。

 「保育園落ちた」は、泣き寝入りせず声を上げていいんだと気づかせてくれた。ただ、後ろ向きな語感は引っかかった。自分たちのキーワードは「#保育園に入りたい」にした。

 イベントを催すと、お年寄りや子どものいない人も来てくれた。ネットでは地方都市に住む人の書き込みも多かった。広がりに手ごたえはある。

 政府や国会への働きかけにも力を入れた。自治体以外に国の予算や制度も大きいからだ。

 国会議員に面会し、訴えを繰り返すと、3月には衆院の厚生労働委員会に参考人として招かれた。「行動すれば、国に物申したり、影響を与えたりできる」。天野さんの実感だ。

 政府が、初めて子育て支援総合計画「エンゼルプラン」を打ち出したのは1994年。2001年には小泉内閣が「待機児童ゼロ作戦」を掲げた。

 だが、子育て支援の予算は先進諸国の中で最低レベルのまま大きくは増えなかった。少子化は進み、05年には出生率が過去最低の1・26を記録した。

めどが立たない財源

 その反省に立ち、民主(現・民進)、自民、公明の3党が12年にまとめた税・社会保障一体改革では、消費増税に合わせて年に1兆円超を確保し、支援策を強化する方針が示された。

 だが、肝心の消費増税を安倍首相は2度にわたって延期した。今、進んでいる保育所の整備は、いわば増税分の「先食い」だ。消費税以外で確保する約束の3千億円も、全くめどが立っていない。

 政府は6月にも新たな待機児童対策を打ち出すというが、消費税率が10%になってもその使い道はすでに決まっている。保育サービスを今の計画以上に増やすなら、新たな財源が必要だ。政府に覚悟はあるのか。

 一石を投じる動きも出てきた。自民党の小泉進次郎氏ら若手議員が提言する「こども保険」だ。現役世代が納める年金保険料に上乗せしてお金を集め、児童手当の拡充などに活用するという。消費増税を待っていたら子育て支援が進まない。そんな切迫感もにじむ。

「負担」から「投資」へ

 提言には、「なぜ現役世代だけがお金を出すのか」「そもそも保険になじむのか」との異論があり、税金でまかなうべきだとの意見も根強い。それでも、子育て支援の財源問題に向き合おうとする意味は大きい。これを契機に、具体案を出し合い、議論を深めてほしい。

 「子育て支援が日本を救う」の著者で、「子育てを社会全体で支えよう」と説く柴田悠(はるか)・京都大准教授は、「保育サービスの拡充は女性の就業率を高め、経済成長率の上昇にもつながる」と語る。社会保障=負担ではなく、社会に必要な投資ととらえる発想が重要との指摘だ。

 相続税の拡大、高所得者層への課税強化、事業主の拠出金など様々な方策を組み合わせれば財源も生み出せると提案する。「どんな政策と財源を選択し、どんな未来を作っていくのか。私たちは岐路に立っています」

 子どもを産み、育てたいと願う、すべての人たちの希望をかなえる。社会全体で将来の社会の担い手を育み、それが年金や医療、介護の制度を支えることにもつながる。

 合意作りを急ぎ、今度こそ実行に移したい。

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