[PR]

 全国の公立図書館で、所蔵するさまざまな「学校史」のページが刃物で切り取られたり、引きちぎられたりしている例が相次いで見つかった。日本図書館協会の調査では、27都道府県の65館で、356冊、約2500ページが被害を受けていた。

 残念だが図書館の本が傷つけられることは珍しくない。今回は、親しみやすい学校史だったので注目されたが、資料価値の高いものはほかにもある。郷土の歩みを記録した文献の収集・保存のあり方を考え直すきっかけにしたい。

 貴重な本や雑誌は閲覧にとどめ、館外利用を認めないのが通例だ。だが、貸し出したものについては返却時に点検の機会があるが、自由閲覧後、開架式の棚に戻されたらチェックは後回しになる。異状に気づくのが遅れ、結果として大切な本が適切に扱われてこなかった。

 最多の10館で被害が確認された愛知県内の学校史をひもとくと、各時代を生きた人びとの息づかいが感じ取れる。

 高等女学校でも日露戦争後、髪の真ん中を高くした「二百三高地まげ」が流行したこと。第2次大戦末期、空襲がいつ、どこにあるかを、女子生徒が「こっくりさん」で占っていたこと。1959年の伊勢湾台風のとき、遺体収容作業への協力を求められた高校が、生徒たちの精神的負担を心配して断ったというエピソードもあった。

 制服や校則、授業料、進路の変遷がたどれ、卒業生の回想を多く掲載した学校史もある。教育史などの研究にとどまらず、近年ブームの自分史づくりにも活用されているという。

 被害を受けた多くの館は閲覧を申込制にした。一方、群馬県や滋賀県など以前から閲覧用と保存用の複数収集に取り組み、自由なアクセスと保管とを両立させているところもある。

 学校史の価値が再確認されたことで、思わぬ効果も生まれている。愛知県図書館は、任意の寄贈に頼ってきた姿勢をあらため、これからは貴重な郷土史料として体系的に収集・保存していく方針を打ち出した。

 地域の核となる小中学校は、少子化に伴う統廃合で減っている。この60年で小学校は全国で6千校以上、中学校は3千校以上閉鎖された。平成の大合併で姿を消した自治体の資料も、同じく地域のかけがえのない財産だが、散逸が心配されながら、十分な手当てができていないケースが少なくない。

 先人の歩みを後世に伝える。それは、いまを生きる私たち世代の大切な使命だ。

こんなニュースも