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 「期待に働きかける」と言いながら、逆に期待を裏切り続けているのではないか。

 日本銀行が、物価の2%上昇という目標を達成する時期の見通しを、18年度から19年度に先送りした。4年前の「異次元緩和」開始から6回目の修正だ。

 これだけ前言撤回が続くと、今後の見通しにも信頼が置けなくなるのが普通だろう。先送りが続けば、緩和策を終える出口で日銀が被るコストも膨らむ。それだけに、安易な見通しが続くのは見過ごせない。

 今回の先送りの理由は「賃金・物価が上がりにくいことを前提とした考え方や慣行が企業や家計に根強く残っている」「労働需給の着実な引き締まりや高水準の企業収益に比べ、企業の賃金・価格設定スタンスはなお慎重」といったことだという。

 そうした要因があるのは確かだ。だがそれは、前回の見通しを示した4月時点でも分かっていた。実際、民間のエコノミストは、日銀よりかなり低い水準の物価上昇を予測していた。なぜこうしたことが繰り返されてしまうのか。

 黒田東彦総裁は先月の講演で、「中央銀行が物価安定に向けた強い意志を示すことが、人々の期待に働きかけ、金融政策の効果を高める」というのが今の政策の要点だと説明した。バブル崩壊後の経済低迷の中で人々に根付いた「物価は上がらない」というデフレ心理を、払拭(ふっしょく)するのが狙いだ。

 そうだとしても、これまでのような先送りを繰り返せば、日銀の物価安定目標に対する信認はむしろ低下し、インフレ期待の形成にもマイナスに働くのではないか。

 黒田総裁は、今回の先送り決定後の会見で、賃金や物価が上がらない状況が「ずっと続くということはありえない」と述べた。好況が続き、失業率も低下する中で、いずれは物価上昇が強まるとの見方だ。

 一般論としては正しいかもしれない。だが、人手不足なのに賃金が上がらないという「謎」については、専門家の間でも多くの仮説がある。家計の消費動向も、様々な要因の影響を受ける。現実の経済の中で家計や企業の意思決定に影響を与えたいのであれば、より緻密(ちみつ)で丁寧な分析と説明が必要だ。

 先行き見通しは、政策目標とは切り離して、現実的、客観的に立てる。期待に働きかけるためには、国民に納得のいく言葉で説明を尽くす。そうした姿勢に徹しなければ、政策効果は上がらず、中央銀行への信頼も失われていく。

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