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 NHKが、テレビ番組を放送と同時にそのままインターネットで流す「同時配信」の準備を本格化させている。技術の進展に応じ、視聴者の利便性を高めること自体に異論はない。

 しかしNHK会長の諮問機関が、想定されるさまざまな問題の中から「費用負担のあり方」だけを切り出し、答申をまとめたのは性急にすぎる。

 ネット利用者にもテレビ受信料と同程度の負担を求めるのが妥当だとする内容で、上田良一会長はさっそく、これに沿って行動していく考えを示した。自らの収入の確保を優先させる姿勢は、組織のさらなる肥大化を招き、自己点検の機会を失うことにもつながりかねない。

 社説でくり返し指摘してきたように、NHKにいま求められるのは業務内容や組織のあり方を見直し、公共放送の果たすべき役割を再定義することだ。

 職員による不祥事は後を絶たず、報道機関として政治との距離をどう保つかという、籾井(もみい)勝人前会長の時に改めて突きつけられた課題も解決していない。この根本をなおざりにしたまま社会に新たな負担を求めても、理解を得るのは難しい。

 NHKが同時配信を急ぐ背景には、スマートフォンで動画を楽しむ若い世代のテレビ離れ現象がある。テレビを持たない世帯は全体の約5%といわれ、さらに増える見通しだ。

 危機感を抱くのはわかる。だがNHK自身が昨年行った実証実験でも、同時配信の利用率は6%にとどまった。従来の放送局の発想でサービスを展開しても、ネット利用者に受け入れられるかは未知数だ。どこに、どんなニーズがあるのか。綿密な調査と分析が必要だろう。

 民放や、すでにあるネットメディア、動画コンテンツ企業との共存も大きな課題だ。

 NHKの昨年度の受信料収入は6769億円で、広告収入の低下に苦しむ民放各局を圧倒する。民放にとって同時配信の設備投資や運営コストは、経営をゆさぶる重い負担だ。

 「NHK一人勝ち」となって民放との二元体制が崩れれば、世の中から表現や言論の多様性が失われ、国民の利益を損なう事態になる。そんな視点からの議論も欠かせない。

 高市早苗総務相も拙速をいましめ、同時配信の需要を示すことや業務の見直しをNHKに求めた。もっともな注文だ。

 新たな領域に踏み出す前に、NHKの存在意義は何か、それをどう番組づくりや組織整備に反映させていくのか、丁寧な検討と説明が求められる。

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