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 (19面から続く)

 木材価格の低迷や働き手の高齢化など、国内の林業を取り巻く環境は厳しい。そんな中、林業の新しい可能性を切り開こうと若者たちが取り組んでいる。

 9月中旬、富山県。20~30代を中心に、40人ほどが集まる「若手林業ビジネスサミット」が開かれた。きこりや県庁職員、住宅メーカーの研究職に、学生や農家など顔ぶれは様々だ。

 サミットは2011年に始まり、今年で7回目になる。井上有加さん(30)が「ここから日本の林業を変えたい」と企画した。

 京都大で森林科学を学び、林業サークルにも所属した。「地域発のベンチャー企業がいろいろ増えていて、若い人で集まったら面白いことができるかも」とサミットを思いついた。年に1回、木材加工現場の視察やワークショップ、懇親会などをして交流を深めてきた。

 00年ごろから、IターンやUターンで林業に携わる若い人が増えつつある。

 岡山県できこりをしている佐藤靖兪紀(やすゆき)さん(37)もその一人だ。きっかけは東日本大震災。ボランティアでまき割りや道をつくる手伝いをしているうちに自然を相手にする仕事の魅力を感じた。

 普段は朝7時ごろに集まって山へ向かい、8時に作業を始める。何度か休憩をはさみ、夕方5時ごろまで木を切る。会社に戻り、チェーンソーなど機材のメンテナンスをすませると帰りは遅くなる。「山の仕事は厳しいけど、こういう場で横のつながりをつくって林業全体を盛り上げていきたい」と意気込む。

 同じ会社の後輩の国本峻さん(28)は「森はきちんと手入れをしないと荒れてしまう。ただ木を切るだけじゃなく、森林の整備をしている仕事です」とやりがいを語る。

 一方、サミットでは悩みや不安の声も聞かれた。

 「給料が安い。ほかの仕事と同じだけの収入は厳しい」「危険と隣り合わせ」「若い人も来るけど、どんどん辞めてしまう」

 林業は、季節や天候の影響を受けやすいために収入が安定しにくく、切った木の下敷きになるなど労災発生率も高い。

 こうした現実を踏まえた上で、2泊3日の合宿形式のサミット最終日は、林業の魅力を知ってもらったり、新たなビジネスを仕掛けたりするにはどうすればいいか意見を出し合うワークショップもあった。

 SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を活用した情報発信や、木を切るだけでなくどうやって売っていくかの戦略づくりなど、思い思いの提案があった。「とにかくやってみることが大事。やってダメなら次を考えよう」。参加者からはそんな声があった。

 「いつかここから、大きなビジネスが生まれる日が来れば」

 井上さんはそう願っている。

 ◆キーワード

 <林業従事者の現状> 最新の森林・林業白書によると、森林組合の雇用労働者の支払い形態の約8割が日給制か出来高制。月給制は約2割だが、近年は増えている。労働者1千人あたりの労災による年間死傷者数(2015年)は27人で、全産業平均の約12倍。

 従事者数は1980年の約14万6千人から2015年には約4万8千人に減少。上昇していた高齢化率は00年の30%から下降に転じ、10年は21%。35歳未満の若年者率は増加傾向で、10年は18%。

 ■国産スギから「夢の新素材」 スマホや車材料、実用化へ着々

 日本の森林から、自動車やスマホなどの材料に使える価値の高い新素材を生み出す――そんな技術開発が今、注目されている。

 政府が6月に閣議決定した「未来投資戦略2017」の中で、2種類の木由来の新素材が挙げられた。ひとつは「リグニン」だ。

 「日本の森林に眠っている『黒いダイヤモンド』。高い強度を持ち、熱にも強い材料です」

 森林総合研究所(茨城県つくば市)の山田竜彦・新素材研究拠点長は言う。

 リグニンは樹木に含まれる成分の約3割を占める。ただ、天然のリグニンは木の種類や木が育った場所によって性質がバラバラで、工業利用が難しかった。

 注目したのは国産スギに含まれるリグニン。性質が均一で、工業応用が期待できるとわかり、簡単に取り出せる新技術を開発した。

 安全性の高いポリエチレングリコールを、スギの粉末にしみこませて約140度に加熱すると、木材からリグニンを抽出すると同時に加工しやすく改質できた。石油由来のプラスチックと比べても性能に遜色がない。植物由来では、車の内装に使われる生分解性プラスチックもあるが、それより耐熱性が高く、エンジンカバーなどにも使える可能性があるという。

 リグニンは製材過程で出るおがくずや端材、余った間伐材からも取り出せる。山田さんによれば、製材工場に小規模な設備をつくり、端材からリグニンを取り出せば、年間の売上額が50%上がるという試算もある。「中山間地域の新産業になる」と期待する。

 もうひとつの新素材は、「夢の素材」と呼ばれるセルロースナノファイバー(CNF)。木材に含まれる成分のセルロースを、髪の毛の太さの1万分の1まで細くした極細の繊維だ。

 重さが鉄の5分の1、強さは鉄の5倍と、軽くて丈夫な性質で、プラスチックやゴムなどに混ぜて複合材料として使うことなどが考えられる。すでに、CNFを使ったかすれにくいボールペンインクや、消臭効果の高い紙おむつなどを、国内企業が商品化しており、今後は自動車や電子部品への応用が期待される。

 国産のスギからとれるCNFを研究する能木雅也・大阪大教授(材料学)は「使い捨てしても自然にかえる生分解性センサーなど、今までなかった使い道も考えられる」と話す。

 ◆この特集は、神田明美、戸田政考、小堀龍之、グラフィック・福宮千秋が担当しました。

 <訂正して、おわびします>

 ▼24日付特集面「国産木材 復活めざして」にある「世界の森林面積の増減」のグラフィックで、年あたりの増減面積で「微増減」を示す範囲が50万ヘクタール未満とあるのは、5万ヘクタール未満の誤りでした。資料との照合が不十分でした。

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