[PR]

 言論の府から言論が消えた。悪(あ)しき例が歴史に刻まれた。

 安倍首相が臨時国会の冒頭、衆院解散に踏み切った。

 首相の所信表明演説も代表質問や予算委員会もなく、北朝鮮に非難の意思を示すはずだった国会決議も見送られた。

 首相は8月の内閣改造後、本会議での演説に臨んでいない。そんな状況での解散は戦後初めてのことだ。国民に解散理由などを説明する恒例の記者会見も、きのうはなかった。

 ■政党政治の危機

 そもそも臨時国会は、野党の憲法53条に基づく召集要求を、3カ月余も放置した末にようやく開いたものだ。なのに議論を一切しないまま解散する。憲法を踏みにじり、主権者である国民に背を向ける行為だ。

 首相の狙いは明白である。

 森友学園・加計学園の問題をめぐる野党の追及の場を消し去り、選挙準備が整っていない野党の隙を突く。

 今なら勝てる。勝てば官軍の「権力ゲーム」が先に立つ「自己都合解散」である。

 民意を政治に直接反映させる民主主義の重要な場である選挙を、権力維持の道具としか見ない「私物化解散」でもある。

 政党政治の危機を思わせる事態は、野党陣営でも起きた。

 政権与党に代わりうる「受け皿」をめざしていたはずの民進党が、発足直後でまだ具体的な政策もない「小池新党」にのみ込まれたのだ。

 東京都の小池百合子知事の人気に頼る新党「希望の党」は、政党として何をめざすのかも統治能力も未知数だ。

 新党には右派色の強い議員が目立つ。憲法改正や歴史認識などで、自民党よりさらに「右」に位置する可能性もある。リベラルな議員も多い民進党とは明らかに立ち位置が違うのに、議論の場もほとんどないまま合流に雪崩を打つ。

 基本政策にも違いがある。

 小池氏は消費増税に否定的だが、民進党は、税率引き上げの増収分を教育無償化などに充てると主張した前原誠司氏を代表に選んだばかりだ。

 安全保障関連法についても、前原氏は「憲法違反」だと指摘し、小池氏は自民党議員として法案に賛成した。

 ■政策は二の次か

 このままでは、政策を二の次にした選挙目当ての互助会という批判は避けられまい。

 確かに、小選挙区制が中心の衆院選挙制度のもとでは、野党がばらばらに候補を立てれば、がっちり手を組む自公両党に勝つのは難しい。政権交代をめざすなら、野党各党の連携が欠かせないのはその通りだ。

 旧民主党政権の挫折から5年たっても、失われた国民の信頼を取り戻せない。そんな民進党の焦りも理解できなくもない。

 それでも民進党には、もう一つの道があったはずだ。

 ここ数年、地道に積み上げてきた野党共闘をさらに進め、共産党を含む他の野党との候補者調整を実現し、そこに新党も加えて、自公と1対1の対決構図をつくり上げる――。

 だが前原代表はその道を模索する努力をせず、小池人気にすがる道を選んだ。

 これもまた、「権力ゲーム」ではないのか。

 政権運営に一度失敗した政党が、その教訓を生かし、次はよりましな政権運営をする。政権交代可能な政治がめざすサイクルが、今回の民進党の選択によって無に帰したことが残念でならない。

 ■「1強政治」への審判

 今回の衆院選の最大の争点は、数におごり、緩んだ5年近い「安倍1強」の政治への審判と、それがさらに4年続くことを許すかどうかだ。

 小池新党が、そして民進党から新党に移る議員たちが「安倍政治」にNOを突きつけるというなら、新党は政治をどう変えるのか、理念・政策や党運営のやり方も含め、明確な形で国民に示す必要がある。

 時間が限られているのは確かだが、最低限、公約は議員による徹底した議論を経てつくる必要がある。都議会で小池氏が事実上率いる「都民ファースト」のような、上意下達の政党であっていいはずがない。

 小池氏にも問いたい。

 昨夏に知事に就任した後も、今夏まで自民党に籍を置いていた。なぜいま「打倒安倍政権」なのか。

 新党をさらに勢いづけたいと本人の衆院選立候補を求める声は大きい。そうなれば、就いて1年余の知事職をなげうつことになる。どうするのか。

 憲法改正については、自民党内に、安倍首相主導の改憲に協力する補完勢力として期待する声がある。小池氏は「9条の一点だけに絞った議論でいいのか」と語るが、より詳しい考えを示すべきだ。

 選挙はゲームではない。

 有権者に正確な情報を示す。政党政治の基本を踏み外してはならない。

こんなニュースも