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 近年まれにみる混沌(こんとん)とした幕開けである。

 衆院選が公示され、22日の投開票に向けた論戦が始まった。

 発端は、安倍首相による唐突な臨時国会冒頭解散だった。

 選挙準備が整わない野党の隙をつくとともに、森友学園・加計学園問題の追及の場を消し去る。憲法53条に基づく野党の臨時国会召集要求を無視した「自己都合解散」である。

 だが解散は、思わぬ野党再編の引き金をひいた。民進党の崩壊と、小池百合子・東京都知事率いる希望の党の誕生だ。

 ■「1強政治」こそ争点

 選挙戦の構図を不鮮明にしているのは、その小池氏の分かりにくい態度である。

 「安倍1強政治にNO」と言いながら、選挙後の首相指名投票への対応は「選挙結果を見て考える」。9条を含む憲法改正や安全保障政策をめぐる主張は安倍政権とほぼ重なる。

 固まったかに見えた「自民・公明」「希望・維新」「立憲民主・共産・社民」の3極構図は今やあやふやだ。

 むしろ政策面では、安保関連法を違憲だと批判し、首相が進める改憲阻止を掲げる「立憲民主・共産など」と「自民・希望など」の対立軸が見えてきた。

 野党なのか与党なのか。自民党に次ぐ規模である希望の党の姿勢があいまいでは、政権選択選挙になりようがない。戸惑う有権者も多いだろう。

 だからこそ、確認したい。

 この衆院選の最大の争点は、約5年の「安倍1強政治」への審判である。そして、それをさらに4年続けるかどうかだと。

 この5年、安倍政権が見せつけたものは何か。

 経済を前面に立てて選挙を戦い、選挙後は「安倍カラー」の政策を押し通す政治手法だ。

 景気と雇用の安定を背景に選挙に大勝する一方で、圧倒的な数の力で特定秘密保護法、安保法、「共謀罪」法など国論を二分する法律を次々と成立させてきた。

 ■一票が生む緊張感

 ことし前半の通常国会では、数の力を振り回す政権の体質がむき出しになった。

 加計学園に絡む「総理のご意向」文書、財務省と森友学園の交渉記録……。国会で存在を追及されても「記憶がない」「記録がない」で押し切る。政権にとって不都合な証言者には容赦なく人格攻撃を加える。

 国会最終盤には「共謀罪」法案の委員会審議を打ち切って採決を強行する挙に出た。1強のおごりの極みである。

 行政府とその長である首相を監視し、問題があればただす。国会の機能がないがしろにされている。三権分立が危機に瀕(ひん)しているとも言える。

 そんな1強政治を前にして、一票をどう行使すべきか。考え込む人も多いかもしれない。

 自分の一票があってもなくても政治は変わらない。政党の離合集散にはうんざりだ。だから選挙には行かない――。

 しかしそれは、政治の現状をよしとする白紙委任に等しい。

 7月の東京都議選最終盤の一場面を思い起こしたい。

 「こんな人たちに負けるわけにはいかない」。東京・秋葉原でわき上がる「辞めろ」コールに、首相は声を強めたが、自民党は歴史的敗北を喫した。

 選挙後、首相は「謙虚に、丁寧に、国民の負託にこたえる」と述べたが、その低姿勢は長くは続かなかった。内閣改造をへて内閣支持率が上向いたと見るや、国会審議を一切せずに冒頭解散に踏み切った。

 それでも、都議選で示された民意が政治に一定の緊張感をもたらしたのは間違いない。

 ■無関心が政権支える

 1強政治は、どれほどの「民意」に支えられているのか。

 首相は政権に復帰した2012年の衆院選をはじめ、国政選挙に4連勝中だ。

 最近の国政選挙は低投票率が続く。前回14年の衆院選の投票率は戦後最低の52・66%で、自民党の小選挙区での得票率は48・1%だ。つまり、有権者の4分の1程度の支持でしかない。

 そして衆院選小選挙区の自民党の得票総数は、05年の「郵政選挙」以降、減り続けている。有権者の選挙への関心の低さが1強を支えている。

 一票は、確かに一票に過ぎない。だがその一票が積み重なって民意ができる。そこに政治を変える可能性が生まれる。

 政治家は一票の重みを熟知している。だから民意の動向に神経をとがらせる。

 日本は今、岐路に立つ。

 少子高齢化への対応は。米国や近隣国とどう向き合うか。原発政策は……。各党が何を語るかに耳を澄まし、語らない本音にも目をこらしたい。

 納得できる選択肢がないという人もいるだろう。それでも緊張感ある政治を取り戻す力は、有権者の一票にこそある。

 自分のためだけではない。投票は、子どもたちや将来の世代への責任でもある。

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