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 安倍晋三首相の5年間の政権運営を問う戦いが始まった。経済政策の実績を強調し、こだわり政策は封印する。首相の第一声は過去の国政選挙で大勝したパターンとほぼ同じだった。支持率低下をもたらした問題に触れないまま。野党はそこに照準を合わせて批判を展開した。▼1面参照

 安倍首相は公示初日、自らが自民党総裁として臨んだ過去4回の国政選挙と同じく福島に入った。「(民主党政権では)なかなか復興が進まなかった。一日も早く政権を奪還すべきだ。これが私たちの原点。この原点を忘れてはならない」

 緑の山々と刈り取り前の黄金色の稲穂。広がる田園地帯に約300人が集まった。公示前に首都圏で行った街頭演説で見られた首相批判のプラカードはなく、ヤジもなかった。

 「政権奪還後、経済を成長させていこう、デフレを脱却し、生活を豊かにし、賃金を上げる。一つ一つ成果を上げてきた」

 首相は北朝鮮対応に触れた後、国内総生産(GDP)や最低賃金などの経済指標について民主党政権時代と比較しながら、アベノミクスの「成果」を列挙。野党批判を挟み、最後もアベノミクスのアピールで締めくくった。21分余りの演説には、5年間の政権運営のパターンが凝縮されている。

 民主党政権時代を振り返りながら「失政」を指摘し、アベノミクスを前面に押し出す。そこで得た議席を元に、選挙で訴えなかった特定秘密保護法、集団的自衛権の行使を認める憲法解釈の変更、安全保障法制、「共謀罪」法といった「安倍カラー」の強い政策を進める。この日の第一声でも、首相が選挙に勝利した後に見据えている憲法9条の改正には、一切言及しなかった。

 こうした首相の姿勢に、共に歩んできた公明党の山口那津男代表は一体感を強調。第一声では、北朝鮮問題を引き合いに「国際経験豊かな安倍首相に問題を解決していただく」と述べ、自公連立政権の継続を訴えた。参院で統一会派を組む日本のこころの中野正志代表も「この危機を克服する能力、持っているのは安倍さん以外ない」と持ち上げ、政権運営を高く評価した。

 政権運営に協力的な姿勢を取ってきた日本維新の会の松井一郎代表は、首相の個別政策で注文をつけた。首相が消費増税を予定通り行う考えを示していることを念頭に「国会議員が優遇・厚遇されている生ぬるい状態で消費増税をよしとすると国民生活はしんどくなるばかり」と訴えた。

 これに対し、他の野党は、首相の政権運営を厳しく批判し、争点化を図っている。立憲民主党の枝野幸男代表は、世論を二分した安保法制など「安倍カラー」の法律を採決強行で成立させた経過に触れ、「国民の大きな反対の声があっても、ろくな説明もしようとせず、『いま数を持っているから何をしてもいいのだ』と。これが本当の民主主義か」と声を張り上げた。

 さらに森友・加計(かけ)学園については、首相が第一声でひと言も触れなかったのに対し、多くの野党党首が長期政権の「ゆがみ」と位置づけて、演説でも一定の時間を割いている。

 希望の党の小池百合子代表は「お友達だ、忖度(そんたく)だって。お友達であれば何か良いことがある。そんな政治に信頼が持てるのか。一番大事なところ」と強調。共産党の志位和夫委員長も「最大の争点は、安倍暴走政治を続けて良いのか、にある。こんな国政私物化疑惑にまみれた政権は戦後かつてない」と指摘した。社民党の吉田忠智党首は、野党が憲法に基づいて国会の召集要求をしたのに対し、臨時国会冒頭で解散した首相の姿勢を批判。「安倍政治を許すのか、許さないのかが問われる選挙だ」と訴えた。

 ■自民議席、減り幅焦点 首相続投・改憲議論に影響も

 今回の衆院選は、自民党の議席数が焦点だ。東京都議選の惨敗から3カ月。森友・加計学園問題などで自民党への逆風はやんでおらず、自民党が強い地域を中心に定数も減る。安倍晋三首相自身も議席減を覚悟しており、その減り幅によって政界が流動化する可能性がある。

 安倍首相は10日、第一声に選んだ福島市、続く岩手県一関市の演説で、「厳しい、本当に厳しい戦いだ」などと繰り返した。過去4回の国政選挙は、いずれも追い風を受けるか、野党が自滅する中での選挙戦。野党は今回も混乱しているが、自らが赴く演説会場で抗議行動を受けることを警戒せざるを得ない選挙戦であり、危機感は強い。

 勝敗ラインは、「与党で過半数維持」と低いハードルを設定。自民、公明両党の議席が公示前勢力から計85議席減っても続投できる計算になる。大幅減の場合の「安倍おろし」を警戒し、10日夜に出演したNHK番組では「自民党が内輪もめするようではいけない」と牽制(けんせい)した。

 しかし、そう単純な話ではない。衆院17の常任委員長を独占し、委員の数でも過半数を確保する「絶対安定多数」の261、委員の数が半数となる「安定多数」の244をそれぞれ割り込めば、首相が続投したとしても連立を組む公明党の発言力が相対的に高まり、憲法9条の改正議論にも影響が出そうだ。

 自民党内の見方も一様ではない。自民の公示前勢力は284議席。30議席程度の減り幅で踏みとどまれば来秋の自民党総裁選3選も再び有力になるとの見方が出る一方で、閣僚経験者の一人は「50議席程度減れば退陣話になる」と指摘する。50減になれば、233の単独過半数を自民で維持できるか微妙となり政界が流動化。公明党の動揺や自民党内の非主流派の動きに注目が集まるのは避けられない。

 そうした展開を狙っているのが希望の党の小池百合子代表だ。10日の街頭演説では「安倍1強政治をここでやめておきたい」と強調。自らは立候補をせず、首相候補も明言していないままだ。安倍首相を退陣に追い込んだうえで、安倍氏以外の自民党議員を推す可能性を残すことで、首相選びに介入できる余地を残そうという狙いが透ける。

 今回の選挙で、憲法改正をめぐる勢力図も一変した。希望の党は、憲法9条についての議論に積極的に臨む姿勢を示す。安倍政権での改憲議論に反対していた民進党が事実上解党し、多くの前職が希望の党の候補者になったことで、9条改正に明確に反対姿勢を打ち出すのは立憲民主党と共産党、社民党、無所属の一部という構図となった。候補者数だけ見れば、改憲への積極派が多数だ。

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