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 事実は何か、真実はどこにあるのか。それを求めて私たちはきょうも歩き、聞き、調べ、そして書く。朝日新聞が掘り起こした「森友・加計学園」問題と、変容する米国を追い続ける「トランプ王国」など一連のルポを取材した記者たちが、記事の背景とそれにかけた思いを伝える

 ■「何かある」不可解な契約が明るみに 森友学園・国有地売却問題 前豊中支局長・吉村治彦

 学校法人「森友学園」(大阪市)への国有地売却問題を朝日新聞が最初に報じたのは2月9日付朝刊だった。きっかけは数カ月前、大阪府豊中市の豊中支局で、私が取材先から受けた1本の電話だった。

 「豊中市内の国有地が政治家と縁の深い学校法人に売却されたようだ。だが、財務省が売却金額を非公表にしている」。私は財務省近畿財務局のホームページ(HP)をたどり、国有地の売却先一覧を見た。過去3年で、森友学園の金額だけが空欄だった。

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 「何かありそうだ」。取材を始めると、学園は買った土地で小学校の開校をめざし、工事を進めていた。学園のHPには、安倍晋三首相の妻の昭恵氏が名誉校長としてあいさつ文を載せていた。学園の籠池泰典・前理事長は当時、首相を支持し、憲法改正運動を進める「日本会議大阪」の役員だった。

 財務局の担当者は「学校運営に影響するので非公表にした」との説明を繰り返した。しかし、旧大蔵省理財局長の通知では、公平性の観点から国有地の売却価格は公表が原則と定めている。価格を公表されていた他の法人に聞くと、「財務局から国有財産なので公表しますと言われた」と答えた。財務局に再び理由を尋ねたが、「学園側が強く望んでいる」。

 大阪社会部のデスクに「いよいよおかしいです」と報告し、国有地売却の際に開かれる有識者らの審議会の議事録や、登記簿謄本などの資料を集めた。

 すると、おかしなことが次々に浮かんだ。学園側は2015年、10年以内に売買する定期借地契約を結んだが、審議会の委員から、学校の安定運営のために用地は自己所有であるべきだと異論が出ていた。10年分割払いの売買契約への変更も異例なのに、審議会に諮られなかった。情報公開請求で開示された売買契約書の大半は黒塗りだった。

 そんな中、売却価格のヒントを見つけた。不動産登記簿に、小学校に利用されない場合は国が「1億3400万円」で買い戻す特約が注記されていた。専門家に尋ねると、特約で買い戻す代金は売却価格と同じなのが通例だという。

 一方、学園が購入する6年前、豊中市は東隣のほぼ同じ広さの国有地を14億2300万円で買った。学園が1億3400万円で買ったなら、破格の安さだ。

 今年2月6日、大阪社会部の同僚と籠池前理事長を直接訪ねた。登記簿謄本などを示すと、籠池前理事長はあっさり、1億3400万円の10年分割で買ったと認め、「価格は国が決めた。非公表も求めていない」と話した。

 必要な要素はそろい、記事化に踏みきった。すると直後、財務省は学園側が了承したとして売却価格を一転して公表。土地の鑑定価格から地下のごみ撤去費約8億円などを引いたと説明した。最深で9・9メートルまでごみがあると見積もったという。

 国会で野党の追及が始まると、財務省は「交渉記録は廃棄した」「ごみ撤去費は適切に見積もった」などと答弁を続けた。困ったことに、財務局の担当者は東京出張が続き、直接取材ができなくなった。

 それでも朝日新聞は大阪社会部、東京社会部、政治部が連携して関係者に取材し、証言や資料を集めた。他の報道機関も連日、様々な問題を取り上げた。16年3月に「新たなごみが見つかった」と学園が国に報告して以降、籠池夫妻が財務省の担当室長に会い、昭恵氏らの名前を出して対応を求めていた。さらに、ごみ撤去費の見積もり前に財務局側が学園側に「いくらまでなら買えるのか」と尋ね、「ゼロに近い金額まで努力する」と伝えていたことも、関係者の録音データなどで明らかにした。事前の価格交渉を「ない」などとした財務省の佐川宣寿(のぶひさ)・前理財局長の国会答弁には疑念が強まっている。

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 学園をめぐる疑惑は他にも広がった。同僚記者は、学園側が府の私学審議会や国に提出した資料を入手。金額が異なる建築費の契約書をつくり、府には財務状況を良く見せかけ、国には補助金を水増し申請していた疑いがあることを特報した。この疑惑は立件され、籠池夫妻は大阪地検特捜部に補助金の詐取容疑で逮捕、同罪で起訴された。

 学園は開校を断念し、土地は国に買い戻された。その一方で、財務省の佐川氏は説明責任を果たさないまま国税庁長官に転じ、安倍首相は衆院を解散した。

 しかし、私たちは問題の真相を解き明かす取材を続けていく。学園側は手がかりとなる交渉記録などを文書やメール、音声データで残している。大阪地検特捜部は、財務局担当者らが不当な値引きで国に損害を与えた背任容疑の捜査も続けている。

 ■「文書は本物」証言集め何度も裏付け 加計学園・獣医学部新設問題 文部科学省担当・水沢健一

 大きなニュースの断片は日々、私たちの前に現れ、それを「おかしい」と思うことから取材は始まる。

 学校法人「加計(かけ)学園」が運営する岡山理科大獣医学部の新設問題で、朝日新聞は、文部科学省が内閣府から「総理のご意向」「官邸の最高レベルが言っている」と言われたと記録した文書や、首相官邸側から働きかけがあったとする証言、首相秘書官が学園幹部らと面会していたことなどを特報してきた。

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 きっかけは、ふだんの取材の中にあった。

 「獣医学部の新設で政・官・業の関係がおかしい」。今年2月、教育取材を20年近く続ける氏岡真弓・編集委員に取材先の1人がこうもらした。政権に近い関係者も私に、安倍首相と学園の加計孝太郎理事長との親密さについて話し、「問題になるかもしれない」と語った。

 疑念が浮かんだ。安倍首相は加計氏を「腹心の友」と呼ぶ。学部新設で最高権力者との個人的関係が有利に働いたのではないか。首相の妻の名前が頻繁に登場した森友学園の問題と同じ構図かもしれない。

 日々の取材の傍ら、私たちは関係者に話を聞くことから始めた。学部新設の経緯を知る文科省職員は、話題を振った途端に「今は担当ではないので」とノーコメント。別の同省関係者も「政治案件だから……」と口は堅かった。

 それでも、少しずつ輪郭は見えてきた。国家戦略特区での獣医学部新設を認めるよう強く迫る内閣府に、慎重な文科省。さらに、首相官邸側が水面下で文科省に働きかけていた様子も浮かんできた。取材に応じてくれた人たちの証言は具体的で重かったが、裏付けとなる物証がほしい。「当時の記録はないか」「手帳や手書きのメモでもいい」。関係者をたどりながら、しつこく聞いた。

 そうするうち、決定的な物証がもたらされた。「総理のご意向」などと書かれた一連の文書だ。「文字が浮き上がって見えた」という氏岡の横で、私は息をのんだ。役所の内部文書とわかる書式に「本物だ」と直感した。それを確信に変えるため、さらに歩いた。貸し会議室、カラオケボックス……。取材先を守るため、慎重に場所を選びながら接触していった。

 5月16日夜。私たちは最後の詰めのため、一連の経緯を知りうる取材先に接触を試みた。相手はつかまらない。刻々と締め切りが迫る。

 17日午前0時を回ったころ、電話をかけ続けていた関係者の1人から氏岡にようやく返事があった。「文科省の文書でないなら、そう言ってください」。こう迫ると、相手は少し間を置き、「違ってないです」。別の関係者も「文科省の文書に間違いない」と明確に証言した。

 17日付朝刊の最終版。1面に「新学部『総理の意向』 文科省に記録文書」の大きな見出しが躍った。

 ところが、政府は簡単には認めなかった。

 「怪文書みたいな文書」。菅義偉官房長官は朝日新聞の報道にこう反応し、その2日後、文科省が「該当する文書の存在は確認できなかった」と発表した。

 「そんなはずはない」。記者会見での松野博一文科相(当時)や職員の説明は、何かをごまかしているように思えた。

 そもそも、文書が「なかった」ではなく、「確認できなかった」としている。私は「どの範囲を確認したのか」とただした。文科省は、調査範囲が担当課のパソコンの共有フォルダーに限られ、他の課や個人の業務用パソコンは調べていないと認めたが、それで「足りている」と繰り返した。

 声を上げたのは、前川喜平・前文科事務次官だった。単独取材に応じ、文書は「自分が昨年秋に担当課から説明を受けた際、示された」と証言。現役職員も取材に「おかしい」と語った。獣医学部の建設が進む愛媛県今治市などに何度も足を運び、特区制度の手続き面から問題点を掘り起こしてきた特別報道部の星野典久、岡崎明子両記者も加わり、報道は厚みを増した。

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 結局、文科省は再調査に追い込まれ、文書の存在を認めた。「総理のご意向」などの文言について、松野氏は「内閣府の職員から、その種の発言があったと我が省の職員が考えているということだ」と語った。

 残ったのは、あるものをないもののように扱う政府への不信感だ。加計学園問題は国会でも追及され、朝日新聞の9月の電話世論調査では、約8割の人が首相の説明は「十分でない」と答えた。安倍首相は関与を否定する一方で、衆院を解散。国会で疑念を晴らす機会は遠のいた。

 首相が約束した「丁寧な説明」はどうなったのか。「おかしい」という心の引っかかりがあるかぎり、私たちは取材を続ける。

 ■ラストベルト、通い詰め出合った本音 アメリカ・トランプ王国を追う ニューヨーク支局員・金成隆一

 2年前の秋、トランプが2016年の米大統領選に勝つとの確信は、正直なかった。でも、その頃からトランプの支持者の取材にのめり込み始めた。

 なぜ?

 どんな取材をしたの?

 よくこんな風に聞かれる。なんてことはない作業の積み重ねだが、その一端を紹介したい。

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 15年秋、おそらく世界中の人々が首をかしげていた。トランプが、なぜ世論調査で首位なのか――。移民や女性、身体障害者、イスラム教徒らへの侮蔑的な言動で注目を集めていたトランプは、主要メディアでは「泡沫(ほうまつ)候補」扱い。それなのに全米支持率は共和党候補者のなかでトップを独走していた。

 ニューヨークで支持者を探しても見つからない。それどころか「米国の恥だ」「差別主義者が支持しているだけだ」と憎悪の対象になっていた。

 しかし地方では違った。南部テキサス州の田舎町のトランプ集会に行った時のことだ。

 飛行機で乗り合わせた米大手メディアのトランプ番記者に、「お前、トランプをどう思う?」と聞かれた。私が「見ている分には面白いが、すぐに脱落すると思う」と答えると、「分かってないな」と番記者。彼は言い切った。「他の候補の集会と規模も熱気も違う。ハッキリ言う。トランプが共和党候補になる」

 会場では、支持者の熱気に圧倒された。集会後に話を聞くと、せきを切ったように不満が噴き出した。中南米からの移民が増えてスペイン語が当たり前になった社会、中流階級(ミドルクラス)から脱落する恐怖におびえる白人たち――。理屈よりも、そうした彼らの情念が沸騰していた。

 地方取材への関心が膨らんだ。とはいえ、平日は国連創設70年企画や、北朝鮮を巡る国連取材が忙しく、出張に出られそうにない。

 そこで、冬休みに旅行することにした。その年の12月下旬、マンハッタンで車を借り、ペンシルベニアとオハイオ両州を回った。ダイナー(食堂)、ガソリンスタンド、バー、食料品店で地元の人に片っ端から声をかけた。妻も同行してくれたので、あまり警戒されなかった(と思う)。

 多くの支持者に出会い、手応えを得た。継続取材の拠点は、大みそかと正月を過ごした中西部オハイオ州のヤングスタウンに決めた。製鉄業や製造業などが廃れた「ラストベルト(さび付いた工業地帯)」の代表的な街だ。(1)ニューヨークから車で約7時間と比較的近く、通いやすい(2)トランプが製造業の海外流出を批判し、この地域を狙っていた(3)同州が近年の大統領選でカギを握ってきた、ことが主な理由だ。

 よく「トランプが負けたら取材がパーだったね」と言われるが、私はそうは思っていなかった。仮に負けても、熱烈な支持を地方に広げた選挙運動のルポを書く。支持者の姿を通して米社会の今を描きたいと思っていた。

 私はもともと、社会部記者。どの任地でも労働者の取材を好んでやってきた。労働現場を支える日系ブラジル人、偽装請負の被害者、空き缶や雑誌を拾い集めて暮らすホームレス、町工場の経営者、納品時間に追われ車内でペットボトルに小便するトラック運転手……。ラストベルトで労働者の声を聞くのは、今振り返れば、その続きだった。

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 取材用ベストには七つのポケットがある。(1)ノート+カメラレンズ(2)ペン(3)録音機(4)小銭(5)たばこ(6)名刺の束、と何となく分類している。

 残りの一つは、(7)小道具用だ。会話のきっかけになるものを入れる。うけたのは日本のたばこ「ピース」と菓子「ハイチュウ」。初対面の人とバーカウンターで隣になった時や、集会で支持者がたばこを吸っている時など「日本のたばこどう?」と声を掛ける。ハイチュウは老若男女が喜ぶ。

 本音に出合うのは、飲み屋。最初は取材相手と一緒に行って経営者と顔見知りになり、自分も通う。白人ばかりの飲み屋に、突然やってきたアジア人。みんな覚えてくれる。

 取材はゆっくり。聞きたいことは我慢し、まずは相手が言いたいことを聞く。多くの人は仕事の誇りを話し、次第に「必死に働いているのに暮らしが楽にならない」「長期休暇に旅行にも出られない」「ミドルクラスから転落しそうだ」と不満や不安を語った。

 必ずと言っていいほど、酒はおごられる。ありがたく、うまそうに飲み干す。次回はおごり返す。私が常連客をまねして「カウンターの全員におごる」とポケットから20ドル紙幣を出すと、みんな大喜び。そんな人たちだ。

 知り合った人にはなるべく連絡を入れる。自宅にもお邪魔し、家族と仲良くなる。交際相手を紹介され、後で「あの男でいいと思うか」と聞かれれば、何時間でも相談に乗った。

 誕生日会、自宅バーベキューはもちろん、20年ぶりの高校同窓会や、娘さんの卒業式、友人の裁判にも同行した。やっと彼らの日常が見えてきた。映画やドラマの舞台になる大都会ニューヨークやロサンゼルスとは違う、もう一つのアメリカが広がっていた。

 米国での取材はどうしても運転時間が長くなる。暇なので録音した彼らの言葉を聞き直す。やがて、その言葉が、日本での取材で聞いてきた言葉と似ていることに気付いた。グローバル化と技術革新が進む世界で、先進国に生きるミドルクラス。そう捉えたとき、いろんなものが日米で陸続きに見えるようになった。

 この原稿を書いているとオハイオの支持者から電話が入った。ハリケーン被害を受けた南部テキサス州まで大型トラックで支援物資を届けに行くので「お前も一緒に来い」と。

 自分たちの暮らしも楽ではないのに仕事を休んで行くという。トランプは、そんな支持者の期待に応えられるのだろうか。「トランプ王国」の今後への興味は尽きない。=敬称略

 ◇森友学園をめぐる報道は日本外国特派員協会の「報道の自由推進賞」を、森友・加計学園問題の報道は日本ジャーナリスト会議(JCJ)のJCJ大賞を受賞した。また、金成記者の長期間にわたるルポルタージュは「ルポ トランプ王国――もう一つのアメリカを行く」(岩波新書)として出版された

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