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 若者が活字から離れているという。それでも毎日読んでくれる読者がいる。伝えるべき問題が、心を震わせる出来事がある。同世代へも、紙で、ネットで届くことを信じて、朝日新聞の若手記者はきょうもニュースを追う。

ドンが通うサウナへ、今夜も 岐阜総局・吉川真布(まほ)(25)

 私の一日は「サウナ」で終わることがある。仕事終わりにスッキリ?

 いや、岐阜県議会で当選12回を誇る自民党のドン、猫田孝県議(77)が毎晩のように通う場所だからだ。

 衆院解散まで自民が衆参の全議席を独占していた「保守王国」で、在職43年の猫田氏は「陰の知事」とささやかれ、その意向で県内の政局は一気に変わる。

 その権力を支えるものは何なのか――。答えを探り、記事にしたいと思った。猫田氏の本音を一対一で聞きたくて、猫田氏行きつけの地元のサウナに通い始めた。25歳で県外出身の私は、岐阜の県政史や、猫田氏を語るのに欠かせない経済界の事情に疎い。事前に過去の新聞記事を読み込んだり、猫田氏の周辺に話を聞いたりした。

 日によって猫田氏の反応は違う。サウナに入りたくてうずうずしている入浴前、会合でお酒を飲んだ後、汗を流してすっきりした後。どんなタイミングなら話してもらいやすいか、試行錯誤を続けた。

 初めてサウナで待ち伏せた夜、「今日昼に議会で話したやんか」。つれない言葉をもらった。だが、1カ月ほど毎晩のように顔を合わせるにつれ、自身の権力を語り始めた。

 「あの課長はね、県議の中で僕と一番仲良くしなきゃいけないの」。自分が作ったと誇る県の暗黙のルールから、経済界からの献金という「金脈」まで。岐阜の重鎮から浮かび上がる地方政治の今を、今日も追い続けている。

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 2015年入社。県政を担当。趣味のマラソンで自己ベスト更新のために体を絞りたいが、地元のおいしい和菓子の誘惑に負けている。

国連に届いた、ナガサキの声 長崎総局・真野啓太(27)

 「祈りのナガサキ」という言葉がある。広島と長崎の被爆者運動への姿勢から、広島は「怒り」、キリスト教が根付く長崎は「祈り」といわれる。だが、2015年に長崎に赴任した私の目に映ったのは、祈りつつも、黙っちゃいない、長崎の人たちの姿だった。

 「ナガサキを最後の被爆地に」。被爆者らは次世代の平和を願い、思い出したくないだろう被爆当時の記憶を子どもたちに語り続けている。核軍縮に対する日本政府の煮え切らぬ姿勢や、北朝鮮の核・ミサイル開発に抗議の声を上げ、高校生までが国内外で「核なき世界」を求めて訴える。

 そんな「被爆地の声」を伝えている。

 今年6月と9月に米ニューヨークへ渡った。核兵器の使用や開発を禁ずる初の「核兵器禁止条約」の成立を見届けるため、国連本部を訪れた被爆者らの思いを現地から伝えた。72年たっても訴え続ける被爆者らへの取材を通して感じるのは、原爆とは歴史の一コマではなく、今も続く「核」の問題だということだ。

 被爆者の平均年齢は81歳を超えた。だが、世界ではいまだに多くの国が核兵器を突きつけ合って「安全保障」を主張し、「唯一の戦争被爆国」を掲げる日本政府は、核兵器禁止条約で交渉のための会議にも参加しなかった。

 今のままでいいのか――。長崎に来るまで、戦争や原爆をリアルなものと感じたことはなかったが、私も、いつしか、黙っちゃいられなくなっている。

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 14年入社。平和・原爆担当。飲み会は甘味でシメる自称「スイーツ男子」。映画スター・ウォーズの公開日には休みをとって劇場へ。

B’z稲葉さんの熱い地元愛 岡山総局・国米(こくまい)あなんだ(27)

 岡山県津山市で7月、28年ぶりにライブを開いた人気ロックバンド「B’z」のボーカル、稲葉浩志さんをインタビューした。稲葉さんは津山市で生まれ、高校卒業まで過ごした。当日は県内外から多くのファンが集まり、商店街の関係者は「8月の夏祭りが先にやってきたような盛り上がりだった」と振り返った。

 私は稲葉さんが通った岡山県立津山高校の後輩。都会に憧れていた当時の私にとって、稲葉さんは「地元を出て成功した人」の代表だが、その一方で、人気スターと過疎化が進むふるさとが結びつかず、現実味が持てなかった。

 「この機会を逃すのは記者としてもったいない」。稲葉さんにインタビューを依頼し、家族や元同級生らにも取材した。

 稲葉さんの高く通った声にほれ込んでバンドに誘った同級生、受験のためバンドをやめるように説得した先生、見守る家族――。そして、文化祭のライブ本番前に声をからしてしまった稲葉さんはその後、音楽の道をめざしたことが浮かび上がった。

 稲葉さんはインタビューで「若い時は地元に帰らなきゃ、とは思わなかった。けど、最近は津山のような小さな街で何ができるのか考えるようになった」「アーティストならではのやり方で、各地を盛り上げることができる」と語った。

 一つのコンサートを機に青春ドラマのようなやりとりや、地方への熱い思いを記事にできた。やっぱり、取材はおもしろい。

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 13年入社。昨年、娘を出産し、今春、地元の岡山県で仕事復帰した。実家や保育園の手を借りながら仕事と子育ての両立を模索中。

ネットで拡散「サドル低い族」 福井総局・影山遼(25)

 言ってはなんだが、新聞にあまり親しみがない。読めば面白い記事はあるが、広げるのにひと苦労する。だけど、スマホやタブレットではニュースに接する。

 ゆとり世代の自分が取材で留意するのは、学校や仕事から帰り、ベッドに倒れ込んだ瞬間にスマホなどで読みたくなる記事を書くこと。読まれなければ、優れた記事も無意味だと思う。

 そんな中、福井の高校生の自転車のサドルに興味を持った。きっかけは、趣味のハンドボールチームの仲間が誇らしげに語った「高校時代、サドルを下げるのがはやってた」という言葉。共感して読む人が多いだろうと、JR福井駅前で手当たり次第に聞いた。

 「上げるという発想がない」「低い方がおしゃれ」――。高校生たちの「当たり前でしょ」という考えがひしひしと伝わってきた。

 福井県版に「その位置、どうして? やけに低い高校生のサドル」という記事を書き、「サドル低い族」と名付けた。ネットでも拡散し、たくさんの好意的なコメントをもらえた。

 一方、予期せぬ反響も。県内の友人が「駅前で自転車のサドルに異様に興味を示す男がいるとの悲しいうわさが流れている」と教えてくれた。ちなみに、サドルに思い入れはない。

 記者になる前、断定口調で大上段に構えた記事を書くものだと思っていた。だが、自由な視点と発想で書くこともできると知った。世間の話題に追われるだけでなく、自ら話題のタネを提供できる記者をめざす。

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 14年入社。県政担当。ファイナンシャルプランナーと小説家も夢の一つ。福井と岩手で遠距離恋愛中なので、近くに住みたい。

事件なぜ起きた、いまも自問 千葉総局・川嶋かえ(24)

 千葉県松戸市で、ベトナム国籍のレェ・ティ・ニャット・リンさん(当時9)が殺害された事件を、悩みながら取材してきた。今も自問自答している。

 「10歳くらいの女の子の遺体が見つかった」。3月26日朝、先輩からの電話ですぐにリンさん宅近くの警察署に向かった。以来、昼は通学路周辺で不審者情報などの聞き込みをし、朝と夜は捜査関係者の自宅を訪ねる日々が続いた。

 そして4月13日、事件の受け止めを聞こうと、のちに逮捕される小学校の保護者会長の男(46)の自宅を訪ねた。インターホン越しの答えは「答える気はない」。翌朝、県警は男を死体遺棄容疑などで逮捕した。事前の取材に基づき、同僚記者と自宅近くに待機。同僚が写真を撮るそばで、私も車内からその瞬間を目撃した。

 事件はなぜ起きたか、という読者の疑問に答えると同時に、二度とこんな事件を起こさせないことも大事だ。子どもの見守りや心のケアのあり方、遺族を支える一家らの姿も記事にした。5月には男が殺人罪で起訴され、「事件に一つの区切りがついた」と思った。

 だが、思い違いだった。9月末に話を聞いたリンさんの母親(31)は写真を前に「家族思いの子だった」と涙した。父親(35)は「なぜ娘が……」と問い続け、今も仕事に復帰できていない。男は調べに一貫して黙秘し、真相は分からない。事件は終わっていない。自分が何を伝えられるのか考え続けたい。

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 16年入社。千葉総局では事件事故や街ダネ取材を担当する。大阪府箕面市出身だが、最近、関西弁が抜けてきた。

新聞は毎日読む。でも、自分の記事は恥ずかしい 中学生棋士・藤井聡太四段

 今年6月、将棋界で新記録となるデビューからの公式戦29連勝を成し遂げた15歳の中学生棋士、藤井聡太四段。学校から帰宅後、新聞を開く。1面から社会面へ移り、さらに将棋欄などへ数十分かけて読み進める。わからない言葉はネットで調べる。

 テレビはあまり見ず、ニュースに接するのは、ほとんど新聞だ。「活字に落とし込むからこそ、伝わりやすいことがあると思う。見出しやレイアウトも、紙ならではの面白みがある」という。

 朝日新聞で、オピニオン面を通じて社会の問題を考え、自分なりの考えを持つこともある。若い世代の立場から、社会保障のあり方を考える連載も読んだ。「財源があれば、ベーシックインカム(政府が生活に最低限必要なお金を全国民に支給する仕組み)を考えてもいいのかなと思う」

 物事を多面的に考えるようになったのは、新聞を読んできたからこそだと考えている。「オピニオン面は最近気になったニュースについて新しい考え方を提示してくれる記事がある」

 以前から楽しみにしているのは特派員がつづる国際面の「特派員メモ」などのコラムだ。「ふだん目にするニュースとは違うというか、視点を変えて、海外を多面的に知ることができて面白い」という。

 今年、将棋の名人を破るまでに強くなった人工知能(AI)の記事もよく読んだ。AIが棋士と戦う「電王戦」がきっかけとなり、興味を持ったからだ。一方で、その進歩に伴ってなくなると言われる職業があることも知った。「これまでは将棋の強さが棋士の存在価値だったが、これからは別の価値を考えなければ」。将棋界への影響を肌で感じている。

 最近、気になるニュースとして挙げたのは、北朝鮮情勢。記事を読んで「国連の安全保障理事会の中でも各国の足並みがそろっていない。対応が難しいんだな」と感じた。

 自分の活躍を伝える記事が、毎日のように新聞の紙面を飾った。同級生から「載ってたね」と言われることも。ただ、新聞は毎日読むものの、自分の記事はあまり目を通さない。「恥ずかしいので、読むのは勇気がいりますね」

 取材を受ける立場になって、気づいたことがある。「新聞には毎日たくさんの記事が載っている。自分の時も、色々な質問があり、対局の内容もそれ以外についても綿密に取材していただいている。記事の裏には、膨大な取材の積み重ねがあると実感した」

 勝敗だけでなく、新聞を通じて将棋の面白さを伝えていく――。棋士として、その役割も担いたいと考えている。(村瀬信也)

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