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 憲法改正の是非が衆院選の焦点のひとつになっている。

 自民党、希望の党などが公約に具体的な改憲項目を盛り込んだ。報道各社の情勢調査では、改憲に前向きな政党が、改憲の発議に必要な3分の2以上の議席を占める可能性がある。

 政党レベル、国会議員レベルの改憲志向は高まっている。

 同時に、忘れてはならないことがある。主権者である国民の意識とは、大きなズレがあることだ。

 ■政党と民意の落差

 民意は割れている。

 朝日新聞の今春の世論調査では、憲法を変える必要が「ない」と答えた人は50%、「ある」というのは41%だった。

 自民党は公約に、自衛隊の明記▽教育の無償化・充実強化▽緊急事態対応▽参議院の合区解消の4項目を記した。

 なかでも首相が意欲を見せるのが自衛隊の明記だ。5月の憲法記念日に構想を示し、「2020年を新しい憲法が施行される年にしたい」と語った。メディアの党首討論で問われれば、多くの憲法学者に残る自衛隊違憲論を拭いたいと語る。

 一方で首相は、街頭演説では改憲を口にしない。訴えるのはもっぱら北朝鮮情勢やアベノミクスの「成果」である。

 首相はこれまでの選挙でも経済を前面に掲げ、そこで得た数の力で、選挙戦で強く訴えなかった特定秘密保護法や安全保障関連法、「共謀罪」法など民意を二分する政策を進めてきた。

 同じ手法で首相が次に狙うのは9条改正だろう。

 だが、改憲には前向きな政党も、首相の狙いに協力するかどうかは分からない。

 希望の党は「9条を含め憲法改正論議を進める」と公約に掲げたが、小池百合子代表は自衛隊明記には「もともと合憲と言ってきた。大いに疑問がある」と距離を置く。

 連立パートナーの公明党は「多くの国民は自衛隊の活動を支持し、憲法違反の存在とは考えていない」と慎重姿勢だ。

 ■必要性と優先順位と

 時代の変化にあわせて、憲法のあり方を問い直す議論は必要だろう。

 ただ、それには前提がある。

 憲法は国家権力の行使を規制し、国民の人権を保障するための規範だ。だからこそ、その改正には普通の法律以上に厳しい手続きが定められている。他の措置ではどうしても対処できない現実があって初めて、改正すべきものだ。

 自衛隊については、安倍内閣を含む歴代内閣が「合憲」と位置づけてきた。教育無償化も、予算措置や立法で対応可能だろう。自民党の公約に並ぶ4項目には、改憲しないと対応できないものは見当たらない。

 少子高齢化をはじめ喫緊の課題が山積するなか、改憲にどの程度の政治エネルギーを割くべきかも重要な論点だ。

 朝日新聞の5月の世論調査で首相に一番力を入れてほしい政策を聞くと、「憲法改正」は5%。29%の「社会保障」や22%の「景気・雇用」に比べて国民の期待は低かった。

 公約全体で改憲にどの程度の優先順位をおくか。各党は立場を明確にすべきだ。

 安倍首相は、なぜ改憲にこだわるのか。

 首相はかつて憲法を「みっともない」と表現した。背景には占領期に米国に押しつけられたとの歴史観がある。

 「われわれの手で新しい憲法をつくっていこう」という精神こそが新しい時代を切り開いていく、と述べたこともある。

 ■最後は国民が決める

 そこには必要性や優先順位の議論はない。首相個人の情念に由来する改憲論だろう。

 憲法を軽んじる首相のふるまいは、そうした持論の反映のように見える。

 象徴的なのは、歴代内閣が「違憲」としてきた集団的自衛権を、一内閣の閣議決定で「合憲」と一変させたことだ。

 今回の解散も、憲法53条に基づいて野党が要求した臨時国会召集要求を3カ月もたなざらしにしたあげく、一切の審議を拒んだまま踏み切った。

 憲法をないがしろにする首相が、変える必要のない条文を変えようとする。しかも自らの首相在任中の施行を視野に、2020年と期限を区切って。改憲を自己目的化する議論に与(くみ)することはできない。

 憲法改正は権力の強化が目的であってはならない。

 必要なのは、国民主権や人権の尊重、民主主義など憲法の原則をより深化させるための議論である。

 その意味で、立憲民主党が公約に、首相による衆院解散権の制約や「知る権利」の論議を掲げたことに注目する。権力を縛るこうした方向性こそ大切にすべきだ。

 改憲は政権の都合や、政党の数合わせでは実現できない。

 その是非に最後に判断を下すのは、私たち国民なのだから。

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