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 被害救済にむけて歩を進めた部分と、やや後退した部分と。注目された初の高裁判決は、双方の顔をもつものとなった。

 建材に含まれるアスベスト(石綿)の粉じんを吸って中皮腫や肺がんなどを患った建設労働者と遺族が起こした裁判で、東京高裁は国と建材メーカー4社に賠償を命じた。

 地裁レベルでは「国は適切な規制をしなかった責任がある」との見解がほぼ定着している。高裁も追認したが、責任があるとされた期間は、いくつかの地裁判決よりも絞りこまれた。

 諸外国に比べて規制に乗りだした時期が大幅に遅れた労働行政に対し、もっと厳しい姿勢でのぞむべきではなかったか。疑問が残る判断である。

 一方、地裁段階では難しいとされた企業の責任については、踏みこんだ考えを示した。

 建設労働者の多くは、長期にわたり、さまざまな現場で作業するため、どのメーカーの建材が病気の原因となったか、特定するのは難しい。この点、高裁は、製造期間や市場の占有率などから、各社の責任の割合を推定できると述べ、慰謝料支払いを命じる対象とした。

 また、個人事業主として扱われ、労働法令の保護が及ばない「一人親方」についても、働き方の実態を踏まえ、労働者と扱うことなどによって救いの手を差し伸べている。今回の判決の注目すべき点といえる。

 改めて浮かびあがるのは、アスベスト問題の深刻さだ。

 70~90年代に大量に輸入されたアスベストは、吹き付け材や屋根などの建材に使われ、日本の経済成長を支えた。

 そしていま、当時粉じんを吸いこんだ建設労働者が、重い病にかかり、苦しみながら亡くなっている。潜伏期間が数十年と長く、被害はこれからさらに広がると予想されている。

 10年以上前につくられた救済制度はあるが、国の法的責任を前提としたものではなく、支払われる金額も低い。今回、高裁でも責任が認められた重みを真摯(しんし)に受けとめ、国と関連企業は本格救済に動くべきだ。

 患者らは、アスベストによって利益をあげた関連企業と国による新たな補償基金の創設を訴えている。大気汚染の被害救済のために、原因物質を出した企業に負担を求めた「公害健康被害補償制度」の例もある。一人親方の問題も含め、幅広い枠組みを検討してほしい。

 病気の性質上、被害に気づいていない人も少なくない。医療機関と連携し、発見・治療・補償を実現する工夫も必要だ。

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