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 自由であるべき学問の営みに検察が介入し、裁判所が有罪判決を出す。韓国の民主主義にとって不幸というほかない。

 朴裕河(パクユハ)・世宗大学教授の著書「帝国の慰安婦」をめぐる刑事裁判で、ソウル高裁が有罪の判決を出した。

 著書には多くの虚偽が記されていると認定し、元慰安婦らの名誉が傷つけられたと結論づけた。朴教授には罰金約100万円を言い渡した。

 虚偽とされたのは、戦時中の元慰安婦の集め方に関する記述などだ。研究の対象である史実をめぐり公権力が独自に真否を断じるのは尋常ではない。

 一審は、大半の記述について著者の意見にすぎないとして、無罪としていた。高裁は一転、有罪としながら、学問や表現の自由は萎縮させてはならないと指摘したが、筋が通らない。

 学問の自由が守られるべき研究の領域に踏み込んで刑事罰を決める司法を前に、学者や市民が萎縮しないはずがない。

 韓国では、植民地時代に関する問題はデリケートで、メディアの報道や司法判断にも国民感情が影響すると言われる。

 そんな中で朴教授は、日本の官憲が幼い少女らを暴力的に連れ去った、といった韓国内の根強いイメージに疑問を呈した。物理的な連行の必要すらなかった構造的な問題を指摘した。

 社会に浸透した「記憶」であっても、学問上の「正しさ」とは必ずしも一致しない。あえて事実の多様さに光を当てることで、植民地支配のゆがみを追及しようとしたのである。

 朝鮮半島では暴力的な連行は一般的ではなかったという見方は、最近の韓国側の研究成果にも出ている。そうした事実にも考慮を加えず、虚偽と断じた司法判断は理解に苦しむ。

 韓国では、民意重視を看板に掲げる文在寅(ムンジェイン)政権が発足して、もうすぐ半年になる。政権は、歴史問題で日本に責任を問うべきだと唱える団体にも支えられている。もし高裁がそれに影響されたのなら論外だろう。

 日韓の近年の歩みを振り返れば、歴史問題の政治利用は厳禁だ。和解のための交流と理解の深化をすすめ、自由な研究や調査活動による史実の探求を促すことが大切である。

 その意味で日本政府は、旧軍の関与の下で、つらい体験を強いられた女性たちの存在を隠してはならず、情報を不断に公開していく必要がある。

 日韓の関係改善のためにも、息苦しく固定化された歴史観をできるだけ払拭(ふっしょく)し、自由な研究を尊ぶ価値観を強めたい。

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