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 文化の日。深まる秋の一日、時間を見つけ、スマホを脇に置いて、本の世界にゆっくり浸ってみてはどうだろう。

 近年、古典や名著と呼ばれる作品が、装いを一新して再登場している。思い切った現代語訳に人気作家が個性を競う新訳、カバーや字体の変更。古くさくて読みにくいという印象をぬぐい、新しい読者に届けようという試みが広がり、ずいぶん手に取りやすくなっている。

 中でも一番の話題は、岩波書店の雑誌「世界」の初代編集長だった吉野源三郎がのこした「君たちはどう生きるか」だ。

 初版は日中戦争が始まった1937年。コペルニクスにちなんで「コペル君」と呼ばれる中学生が、自己と社会の関わりをみつめていく岩波文庫のロングセラーを、若者の流行をリードしてきた出版社マガジンハウスが漫画化した。発行部数は2カ月余で43万部に達する。

 「原作には、いじめや貧困など、現代にも通じる問題が描かれている。それらにどう向き合い、まさに自分ならどう生きるかをまじめに考えてみたい、という時代の機運を感じる」と担当者は話す。

 読み継がれてきた作品は、人をとらえて離さない面白さに富み、読み直しに堪える奥行きをもつ。人間の可能性も、卑小さも浮き彫りにして、生きる手がかりを提示する。そんな本が待たれていることを、名著の復活は教えているのではないか。

 気になるのは、こうした読者の期待を出版界全体がどれだけ真摯(しんし)に受け止めているか、だ。

 年8万点近い新刊の7割が、翌年には店頭から消える。現場からは、二匹目のドジョウを狙った企画の多さを嘆き、時間をかけた仕事ができなくなっているのを憂える声が聞こえる。

 書籍と雑誌の推定販売総額は約20年で4割以上落ち込んだ。「公共図書館は文庫本を貸し出さないでほしい」。図書館関係者が集まる会合での文芸春秋社長の発言は、出版事情の厳しさを物語るとともに、文化の担い手の責務とは何か、人びとの間に論議を巻きおこした。

 苦しい台所でも、志をもって地道な努力を続けている出版社は少なくない。利益をあげる大切さは言うまでもないが、目先の利益を追うだけでは、出版文化はますますやせ細る。

 なぜいま、古典や名著が呼び戻され、読者にひとときの幸福をもたらしているのか。その意義を出版関係者はもちろん、社会全体で考え、受け継いだこの財産をさらに豊かにして、次代にしっかり手渡したい。

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