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 救いの手が正しく差し伸べられていたら、若者たちは命を落とさずにすんだのではないか。そう思わずにいられない。

 神奈川県座間市のアパートで9人の遺体が見つかった。高校生を含む若い男女とみられる。この部屋に住む27歳の男が死体遺棄の容疑で逮捕された。

 ツイッターに自殺願望を書き込んだ人を狙い、「一緒に死にますか」などと言葉たくみに誘い出した疑いがある。調べに対し、男は「本当に死にたい人はいなかった」「金銭目的だった」と話しているという。

 全体像の解明は捜査や裁判を待つ必要がある。だが立ち止まってはいられない。事件があぶり出した現代社会の病理に目を向け、できることから対策を打っていかなければならない。

 ネット空間には「死にたい」という声があふれる。匿名で思いをはき出せるためで、実際には迷っている人が多いと専門家は見る。「死にたい」は「助けて」の裏返しでもある。

 そうした人を支援するしくみを社会全体で整えたい。

 自殺の手段や場所の提供を持ちかける記載があれば、サイトの運営会社に情報が集まるようにして、削除をふくめて早めに対応する。あわせて、「死にたい」という人と接点をもち、考えを変えるきっかけを与えるような働きかけも求められよう。

 先駆的な活動例がある。

 東京のNPO法人「OVA(オーヴァ)」は、グーグルの検索連動型広告を活用している。検索窓に「死にたい」などと打ち込むと、目立つ位置にOVAの広告が出るようにした。クリックすると、資格を持つ専門家にメールを送れる画面が現れる。

 スタッフや予算の制約から対象地域は東京都新宿区などに限られるが、4年間で600人の相談に乗った。3割に前向きな変化があり、医療機関や自治体の福祉部門に橋渡しできたケースもあるという。

 自殺対策基本法が制定されて今年で11年になる。自殺者の数は3万人台から2万人台になった。しかし中高年に比べると、若年層の減り方は鈍い。

 スマホに慣れた若い世代は、電話よりも文字によるコミュニケーションを好む。その特性を踏まえたサポートのできる、OVAのような組織を各地に増やしていけないだろうか。行政が音頭をとって、悩みを受けとめる専門家の育成や、活動資金の助成を進めてもらいたい。

 生きづらさを感じる人にひとりでも多く向き合い、支えになる。この痛ましい事件を経験した社会が、今なすべきことだ。

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