[PR]

 北朝鮮の核開発は東アジア共通の危機のはずだが、日中韓3カ国で受け止め方が微妙に違う。その背景に関する国民間の理解も深まっているとはいえない。いま、メディアやシンクタンクが問われているものは何か。そんな問題意識から3日、北京で「国民相互理解の促進」をテーマに本社共催シンポジウムが開かれた。

 ■危機前に、歴史認識の克服を

 日本、中国、韓国。3カ国の間でたびたび生じる国民感情の摩擦について、中国側と韓国側の研究者は「歴史認識の違い」を大きな要因としてあげた。

 中国の金景一氏は、近代以降における、日本の中国や朝鮮半島への侵略や植民地支配を挙げ「3カ国で歴史の記憶は異なる。こうした歴史問題は相互理解の最も大きな障害になっている」と現状を分析。韓国の尹徳敏(ユンドンミン)氏も「戦後70年以上たつが、歴史的な和解がまだなされておらず、3カ国の国民の相互理解は後退している」と危機感を示した。

 一方、阿古智子氏は、アジア地域で広がる「反日」「嫌中」「嫌韓」といった国民感情を「ポピュリズム」の観点から分析。英国の欧州連合(EU)離脱決定や米大統領選でのトランプ氏の勝利も例に「世界各地でポピュリズムの嵐が吹き荒れている」とし、ポピュリズムが台頭する要因として、経済的格差や世代間の歴史認識の違いといった、社会に横たわる様々な「分断」を指摘した。

 現状認識を踏まえ、今後どのような関係が必要なのか。出てきたのは「共同体」という言葉だった。

 尹氏は、東アジア地域が直面する共通の「危機」として、北朝鮮の脅威▽高齢化と人口減少社会▽経済成長の停滞――を挙げた。「自国利益だけに執着していては東アジアの発展はない。日中韓は運命共同体。東アジア共同体の構築が必要だ」と呼びかけ、例としてEUを挙げた。

 金氏は「3カ国の相互理解は、東アジアで冷戦体制を維持したい米国によって阻害されている」と持論を展開し「運命共同体にするためには、米国の影響力を最小限にする必要がある」とした。

 阿古氏は「分断」を乗り越えるため、異なる考えや価値観を持った人たちが交流する「接触空間」をどう作り出すかが重要だと指摘した。「国を超えた民意による世論の形成が、東アジアの平和と安定につながる」と語った。

 参加者からは「各国で異なる歴史記憶を互いの国民が理解するために、メディアやシンクタンクの果たす役割は大きい」といった意見が出た。

 ■糾弾ありきの報道、負の連鎖に メディアの課題

 ポピュリズムの危うさや歴史認識の違いについて意見を述べ合った後は「互いの好感度を上げ、理解を深めるためのメディアやシンクタンクの役割」に議論が移った。ネット情報が行き交う時代の課題も指摘された。

 小針進氏は「日本人が中韓に親しみを感じないのは、外交摩擦と否定的な報道の影響が大きい」とし、「『糾弾ありき』で近隣国への批判に前のめりになる姿勢が新聞、テレビ、ネットを問わず3カ国のジャーナリズムに見られる」と語った。

 また、慰安婦問題などで関係改善に向けた日本の政策を韓国メディアが「生ぬるい」として評価せず、それが日本で「嫌韓感情」の拡散につながるなど「負のスパイラル(連鎖的悪循環)に陥った」とも。さらに、例えば韓国メディアは日本語訳版をネット配信しているが「その文言がかえって反感の材料になっている」と語り、「読者は自国民だけではない」という地域的な広がりを日中韓のメディアは自覚すべきだと述べた。

 中国共産党の機関紙傘下にある環球時報の趙強氏は「我々が常々、民族主義的と言われることを弁解はしない」としつつ「どのメディアもナショナリズムから自由にはなれない。我々はちゅうちょなく国益を優先し、国際関係の大局はその次だ」と話した。同時に「国益優先の報道が紋切り型の印象を与え、国民間に警戒や敵意を生むこともある」とも述べた。

 しかし、韓国の金漢権(キムハングォン)氏は「国益とは誰が決めるのか。簡単ではない」と問題提起。「私たちは、国益とは『政府と国民が合意した実現可能な目標』と考える。だから政府と国民の論争もあり、時にはマスコミが立ち上がる」と、国益の捉え方も吟味する必要性があることを主張した。

 ネットニュースやスマホの台頭による既成媒体の影響力低下も議論に。趙氏は「今や若者にとって新聞を買いに行くのは滑稽なことで、なぜ時間と金をかけるのか理解しない。ネットが与える影響は日韓より中国の方が大きいだろう」といらだちを交えて語った。

 一方で「重大な事件は人民日報や新華社、環球時報で確認する。その意味で伝統的メディアの信用力は失われていない。我々も報道が政治に偏る印象を解消するため、他国の流行や本の紹介など、多様な面を伝えていきたい」とも述べた。

 ■THAAD配備、熱く議論 「関係改善」の中韓参加者

 米軍の高高度迎撃ミサイルシステム(THAAD〈サード〉)の韓国配備を巡り、冷え込んでいた中韓だが、10月31日、関係改善の共同文書を発表した。シンポジウムでは両国の参加者による議論が白熱する場面もあった。

 「共同文書の発表は歓迎するべきことだが、中国は今もTHAAD配備に反対している」。自由討論で、韓国の金漢権(キムハングォン)氏はこう述べ、韓国の立場を中国は理解すべきだと訴えた。

 申錫昊(シンソクホ)氏も「中国はTHAAD配備が北東アジアの(安全保障上の力の)均衡を崩すと言うが、北朝鮮と米国の対立の根源は朝鮮戦争にあり、中国の毛沢東主席も戦争に同意した。中国に責任はないのか?」と、中国側に問いかけた。

 中国の趙強氏は「朝鮮戦争を中国が推し進めたとは私は思わない」。さらに「THAAD問題には様々な見方がある。中国は地域平和のために最大限の努力をし、対価も多く払っている。より広い視点で中国の動きを見てほしい」と切り返した。

 ■国民感情好転へ、芽育てたい

 「私たちは今、分かれ道に立っている。各国が自国の利益に固執し、別々の夢を見ていたら、冷酷な現実が待っているだろう」

 韓国の尹徳敏氏の言葉が、現在の東アジアの危機を言い当てている。

 領土をめぐる対立や歴史認識、あるいは最近は米軍のTHAAD配備で日中韓のきしみが激しくなる間に、北朝鮮の核開発は進んだ。中国の政治・経済的な存在感の高まりが脅威と映るようになった。国民間の好感度は低いままだ。

 15回を数えるシンポを何度か取材してきたが、北朝鮮の核問題や対米関係が懸案に挙がるたびに「ああ、またか」と既視感に包まれる。外交上の対立、国民の嫌悪感情、メディア状況が「ニワトリと卵」のように因果関係を持って迫ってくる。当事者の一員として、もどかしさも感じる。

 それでもシンポで討論を長年重ねてきた意味は小さくない。国益やナショナリズムの捉え方について、政治体制も文化も異なる3カ国のメディアやシンクタンクが、相違点をほぼ理解したと感じる。

 お互いに「おかしい、改善すべきだ」と批判し合う時期はとうに過ぎた。制約の中で東アジア共通の課題にどう取り組むか、進むべき方向は見えているのではないか。

 3カ国とも今年、政権を仕切り直した。安倍晋三首相は総選挙で大勝し、習近平(シーチンピン)指導部2期目の体制を固めた中国との対話を呼びかけている。韓国の文在寅(ムンジェイン)新政権と中国は先月末、THAAD問題を棚上げして関係改善を目指すことで合意した。折しもトランプ米大統領が今月5日からアジア歴訪を始め、北朝鮮問題への関与を強めていく構えだ。

 閉塞(へいそく)感の中の若干の期待感。その芽を見つけ、育てて、政治・外交と国民感情を好循環に転じることができれば。それがメディアやシンクタンクに求められる役割だろう。

 (編集委員・市川速水)

 ■主な参加者(敬称略)

 【日本】

 小針進(静岡県立大教授)

 阿古智子(東京大准教授)

 箱田哲也(朝日新聞論説委員)

 村上太輝夫(同論説委員)

 桜井泉(同オピニオン編集部)

 【中国】

 季志業(中国現代国際関係研究院院長)

 胡継平(同日本研究所所長)

 金景一(北京大教授)

 趙強(環球時報副編集長)

 李拯宇(新華社通信国際部主任)

 樊小菊(中国現代国際関係研究院日本研究所副所長)

 【韓国】

 南時旭(東亜日報化汀平和財団21世紀平和研究所理事長)

 韓起興(同所長)

 尹徳敏(元国立外交院院長)

 河宗大(東亜日報論説委員)

 申錫昊(同国際部部長)

 金漢権(国立外交院教授)

 <共催> 朝日新聞、中国現代国際関係研究院、環球時報、東亜日報化汀平和財団

こんなニュースも