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 第1次大戦の際、英国の外相がユダヤ人の民族的郷土づくりを支持する書簡を出した。バルフォア宣言と呼ばれ、それがイスラエル建国につながった。

 宣言から先月で100年。今度は米国の大統領が、宗教都市エルサレムをイスラエルの首都と認め、宣言文書に署名した。

 20世紀以来続くのは、大国によるイスラエルへの肩入れであり、その裏で堆積(たいせき)するパレスチナの失望である。欧米の思惑に翻弄(ほんろう)され、居住地や聖地を占領され続けた怒りは大きい。

 トランプ米大統領は、そんな歴史にどれほど思いをはせたのか。歴代の米政権が避けてきた一線を踏み越え、聖地の帰属を宣言した意味は重い。米国は、公正な仲介人として中東和平に取りくむ立場を失った。

 イスラエルはすでにエルサレムを「首都」として支配している。だとしても、パレスチナの人々も東エルサレムを首都とする国造りをめざしている。

 長年の紛争を解決するには、「2国家共存」しかない。その構想をいつか実現するためにも国際社会はエルサレムの扱いを先送りし、各国とも大使館を商都テルアビブに置いてきた。

 だがトランプ氏は、大使館の移転も指示した。手詰まりの和平構想をさらに遠のかせる無分別な決定というほかない。

 ここにも透けて見えるのは、トランプ流の自国第一主義である。自由貿易協定の見直しなどと同様に、中東政策も選挙公約どおり転換する実行力を誇示する狙いがあるようだ。だが、その対価となる米外交の信頼性の損失は計り知れない。

 500万人以上のパレスチナ難民は今も世代を超えて劣悪な生活を強いられている。パレスチナ自治区の中でも貧困と荒廃が続いている。その理不尽な問題の放置が過激思想の温床となり、イスラエルと世界を苦しめるテロの脅威を広めてきた。

 エルサレムは、ユダヤ教とキリスト教とともにイスラム教の聖地でもある。その地位を一方的に変えれば、世界のイスラム圏で反発を招きかねない。

 その底知れない影響を理解しないトランプ氏の暴走を、国際社会は看過してはなるまい。

 歴史上の責任をもつ英国やフランスなどは、国連などで米国の過ちをただし、エルサレム問題の棚上げと和平交渉の再開に向けて力を尽くすべきだ。

 日本政府もかねて中東安定への貢献を約束してきた。菅官房長官はこの問題について「米国を含む関係国と緊密に連携」するというが、今は米国との連携ではなく、直言を考える時だ。

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