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ここまで5回にわたり、大人のADHDの人が同じ失敗を繰り返してしまう理由を「実行機能」の観点から解説し、それを改善する方法についてご紹介してきました。

今回は「結局、どうやったら大人のADHDの人は同じ失敗を繰り返さずにすむか」について、まとめておきたいと思います。

以前にも挙げましたが、次のような例で説明していきたいと思います。

【課題】

今から3時間後に来客です。それまでに掃除と、おもてなしする食事の準備をお願いします

これまで述べてきた対処法をフル活用してこの課題をクリアしてみましょう。

【STEP1 : 前もって、自分を知っておく】

自分が得意なのはどの実行機能で、苦手なのはどれでしょう。

時間までに掃除できなかったとか、料理が間に合わなかったとか、お客さんのおもてなしで過去に失敗した経験はありますか。もしあれば、その失敗経験から敗因を分析してみるのがいちばんうまくいきます。

・とりあえず目についたところから掃除を始めたり、おもてなしメニューも決めないまま衝動的に動き出したりせずに、立ち止まって3時間後までの計画を立てる。(立ち止まるという実行機能)

・今からスーパーに買い物にいくとおよそ30分かかって、料理には1時間、部屋の掃除には2時間かかる。すべてやり遂げようとすると間に合わないな……などと先々を見通すことができる。(先のことを見通すという実行機能)

・上の2つで挙げたような失敗を過去にしていたなぁと思い出し、自己理解に役立てている。(過去の経験の再生という実行機能)

・来客の準備が大変そうで面倒に感じたときに、ちょうど面白そうなテレビ番組が流れていた。見たい! という衝動に駆られたが、「ビデオに撮ってあとからみよう」というふうにご褒美を先延ばしにすることができる。(ご褒美を先延ばしにするという実行機能)

実行機能はこのように、ある目標に向かって一歩立ち止まり、ゴールを思い描いて、計画立てて行動を決定する一連の機能をいいます。上の4つのうち、どれが欠けても、おもてなし準備を完成させることはできません。

また、自分が受け入れやすい刺激についても知っておくことが大事です。非言語的作業記憶が得意な人もいれば、言語的作業記憶が得意な人もいます。

おおざっぱに言い換えると、

「感覚」が優位(非言語的作業記憶が優位)なタイプ

・絵や図や箇条書きなど「目で見てぱっとわかる(視覚:ニンジンをぶらさげられて初めてがんばれる!)こと」が大事な人

・「こんな状況で騒ぎすぎちゃだめ」と自分を抑えるために、胸の辺りを掌でトントンたたく(触覚)ことなどが有効な人

「言語」が優位(言語的作業記憶が優位)なタイプ

・心の中で天使と悪魔を戦わせることができるような人

・「まてよ、前にも同じ失敗をしたじゃないか。それでいいのか、自分!」と、文章によって自分をひきとめることができる人

そこを把握しておくことが大切です。「感覚」か「ことば」か、どちらの刺激を自分に与えれば、上の4つの実行機能をうまく機能させることができるかを知っておくことが必要なのです。

たとえば、「感覚派」の私は、「立ち止まる」ことを思い出すためにこんな工夫をしています。

このコラムの執筆にあたり、気持ちのおもむくまま書き進めたとしたら、私はまとまりのない一貫性のない文章をだらだらと書いてしまいます。というのも、これまで友人に宛てて書いた手紙はどれも、テーマの定まらない日記のようなだらだら文章ばかりだからです。

そこで、このコラムを書くときにはあらかじめ、テーマと項目を決めてから書くようにしています。

「執筆計画を立てる」ためには、いきなり衝動的に書き進めるのではなく、「いったん立ち止まる」ことがまず大切です。「いったん立ち止まる」ことを思い出すために、私はスケジュール帳のto-doリストにはこう書いています。

写真・図版

なかなかの走り書き、汚い字ですみません……。

上から3番目が本コラムの仕事です。そこに赤ペンで「!」が書かれていますね。私はこの仕事にとりかかるときに、このスケジュール帳を見てから始めます。そのときに「!」のマーク(非言語的な刺激ですね)が目に飛び込んでくると、「お! そうだそうだ。まずは項目を書き出してから、ね」と立ち止まることができます。

このように、自分に入りやすい刺激(非言語的/言語的)と、苦手な実行機能(「立ち止まる」「先の事を見通す」「過去の経験の再生」「ご褒美の先延ばし」)についてあらかじめ理解しておけば、それに見合った対策が立てられるというわけです。

【STEP2 : 自分に合った方法で計画を立てる】

《言語的作業記憶が優位な方の場合》

言語的な刺激の入りやすい(=言語的作業記憶が優位な)方は、比較的苦労がありません。立ち止まることさえできれば、計画の立案は頭の中だけですむかもしれません。

立ち止まるための工夫としては、STEP1の強化です。つまり、「自分はこれまで人を家に呼ぶときに、わりと失敗してきた。前もって計画を立てなかったからだ」などと過去の経験を十分に踏まえて、「前もって計画を立てることが大切」と言葉で唱えておけばよいのです。

そして、次のように計画を立てます。心の中でつぶやいてください。

1.掃除場所の決定

3時間後だから、とりあえず招き入れる玄関先、トイレ、リビングを掃除。

2.食事メニューとドリンク、デザートの決定

おもてなしメニューはカレーでいこう。圧力鍋でやれば、煮込んでる間に掃除もできるし間に合うわ。ちょうど、家にタマネギとニンジンとカレールーがあるし。あと牛肉とジャガイモを買い足せばOKね。来客は子連れだから、好きそうだし。

ドリングは大人用はビールで、子どもはジュースね。サラダには、キャベツとレタスとトマトか。食後にはケーキ。

3.その他欲しいものを想定

部屋に花も飾りたい。

4.効率のよい買い物場所の決定

花も売ってて、家までの道にケーキ屋もあるスーパーにまとめて買いに行こう!

《非言語的作業記憶が優位な方の場合》

めんどくさいけど、頭の中だけで考えずに描いてみましょう。視覚刺激は、最も手っ取り早くて効果も絶大な刺激です。

おもてなしメニューを描いてみます。「おもてなしするのがわくわく! たのしみ!」という感情を引き出すことができれば、たとえ準備中に面白そうなテレビがあったとしても、この絵を見ながらご褒美を先延ばしにすることができそうです。

まあ、もっとも、ADHDの方は、準備中にテレビやラジオなど注意力が散漫になるような別のことをしないに限りますが。

写真・図版

準備物を箇条書きにするのもいいですね。これだと絵が苦手な人でもできそうです。

わくわくする作業とはいえませんが、「あ、これだけ買えば大丈夫なのね。いつもスーパーで買い忘れが多いのよね」という過去の失敗から来る不安(過去の経験の再生 : 不安はつらい感情ですが、ADHDの方が失敗を未然に防止できるようになるために有益な感情ともいえます)を払拭できるという点で優れものです。

写真・図版

タイムスケジュールを組み立てれば、他の家族と共同して準備を進めやすくなるでしょう。

写真・図版

いかがでしたか?

STEP3 : 失敗してもいいのだ。そこから学ぼう

ここまで、失敗しないための対策をあれこれとお伝えしましたが、それでも失敗はつきもの。失敗経験には、どこで失敗したのか、次はどういう方法でやればうまくいくのかのヒントが豊富に隠されています。

くれぐれも「次こそは気をつけよう」「気合いで」などと精神論で対策を立てないでください。

× 「もっと急いで買い物すれば間に合ったはずなのに」

○ 「買い物には1時間かかるのね。貴重な時間の記録ができた。次の計画では1時間ということで見積もろう」

× 「カレーがこげちゃった。私には料理なんて無理なのよ。家でおもてなしするなんてハードル高すぎる! もういやだ」

○ 「そうか、カレーは無理があったわね。次は昼ご飯を済ませてから来てもらおう。そしてお茶とケーキだけにしよう。そこで自信がついたら、またカレーに挑戦しよう」

× 「部屋の掃除がどうしてもやる気になれなくて、結局友達との約束をドタキャンしてしまった。私はどうしようもないだらしない性格だ。信頼も失った。もう友達から嫌われてしまった」

○ 「友達に悪い事をした。そのことについては全力で謝ろう。何もキャンセルする必要はなかったはず。外食にだっていけただろうし、多少散らかった部屋に呼んでもよかったのかもしれない。部屋の片付けを終わらせた自分へのご褒美を設定したらよかったのだろうか……?」

ぜひ効果的な反省会をしましょうね! 次への課題がみつかったら、さっさと気持ちを切り替えることです。

【参考文献】

・『大人のADHDワークブック』 (ラッセル・A・バークレー著、山藤奈穂子訳、星和書店)

写真・図版

ADHDの診断を受けたり、その傾向があるのではないかと思っている方向けのワークブック。

5つのステップからなり、ADHDについて、「衝動への向き合い方(自己コントロール)」「薬物療法」「日々の生活をうまくやるための8つのルール」「環境の整え方(教育、仕事、お金、人との関係、危険な運転、不健康なライフスタイル、精神疾患の合併、薬物と犯罪)」などについて学ぶことができます。

本書の大きな特徴は、科学的なデータが示されながら、知識や対処法を身につけることができる点です。その点で、安心して読み進めることができます。かといって、専門用語だらけの堅苦しい本ではなく、わかりやすいレイアウトに、豊富な具体例のおかげで、読むのが面白い本でもあります。

もう一歩詳しく大人のADHDを学ばれたいという方へ。

◇                ◇

翻訳にかかわった本が、8月31日発売されました。

『成人ADHDの認知行動療法~実行機能障害の治療のために』 

(メアリー・V・ソラント著、 中島美鈴・佐藤美奈子翻訳、星和書店)

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専門書であり、一般書でもある。前半は、大人のADHDの特徴や診断、理論、併存症に治療法、事例などが書かれている。

後半は、大人のADHDの集団認知行動療法用のテキストとリーダーズマニュアルになっている。

トレーニングできるスキルは、系統立てスキル、随伴性マネジメント、補完的方略、自己強化などで、時間管理や整理整頓や計画立てが行えるようになることが目的。

私が翻訳に関わった本ですが、読んでいて本当に興味深く、面白かったです!

こちら(http://www.amazon.co.jp/dp/4791109090/別ウインドウで開きます)からお求めいただけます。

また、4月に出版させていただきました、認知行動療法のテクニックを用いて日常の悩みを解決する読み物「くよくよ悩んでいるあなたにおくる幸せのストーリー」(http://www.amazon.co.jp/dp/4791108981/別ウインドウで開きます)も、おかげさまで大変好評いただいております。引き続きよろしくお願いいたします。

<アピタル:上手に悩むとラクになる・もっと知りたい「大人のADHD」>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/nayamu/(アピタル・中島美鈴)

アピタル・中島美鈴

アピタル・中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。

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