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寝る前に布団の中でいつまでもスマホを触り続けていることが、深刻な睡眠障害を引き起こしているといいます。今回はこの問題に認知行動療法の立場から介入していきます。

 

前回は、パブロフの犬に代表されるような、「古典的条件づけ」について解説いたしました。これが、今日の認知行動療法の生まれる大きな2つの流れのうちのひとつの源流なのです。

今回は、この「古典的条件づけ」が実際の治療や日常場面でどのように活用できるかについて、ご紹介いたします。

前回の記事(http://www.asahi.com/articles/SDI201512104725.html)をちょっと復習します。古典的条件づけは、次の図のように学習されることを指します。

餌の時間に必ずベルを鳴らすようにしていたところ、犬はベルと餌を結びつけて学習し、餌が目の前になくてもベルの音を聞いただけで唾液を分泌するようになったというのが、有名な「パブロフの犬」です。

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このように、本来もっている生理的な反応ではない(犬がベルの音を聞いて唾液を分泌することは普通ない)のに、新たに結びつきが学習されることを「古典的条件づけ」といいます。

前回は、古典的条件づけでメカニズムを説明することができる日常的な困りごととして「泣き上戸」と「スマホで睡眠障害」の例をご紹介しました。

これらを解消するには、

 

・「泣き上戸」も「スマホで睡眠障害」も、間違った学習がなされた結果であることを知る

・「酒と悲しい出来事」「スマホと布団」という、それぞれの間違った結びつき(学習)を断ち切る

 

ことがポイントです。

 

●「泣き上戸」を解消する

例えば、「悲しい出来事があったときには、酒を飲まない」とか、新たに「酒と楽しい出来事」を結びつけて学習するために「楽しいときに酒を飲む」習慣に置き換える、というのもいいでしょう。

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●寝る前スマホが寝付きを悪くする一因

一日の活動が終わり、寝る為の支度を終え、就寝時間が近づくと自然に眠くなります。このとき布団に入る習慣があれば、小さい頃からだいたい就寝時間に近づいて布団に横になると、条件反射的にすっと眠りにつくことができるようになります。これが正常な睡眠です。

しかし、スマホが普及して、布団で寝る前にスマホを触るのが習慣化してくると、次のような新しい学習が始まります。長年かけて築いてきた布団で寝るという古典的条件づけにとってかわってしまっているのです。

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このときには、布団とスマホの結びつきを断ち切る必要があります。具体的な介入としては「布団にスマホを持ち込まない」とか「どうしてもスマホをしたいときには、布団から出る」などが挙げられます。

実際、睡眠障害の認知行動療法の治療場面においては「布団では寝る事以外の活動をしない」ように指導されます。これも、布団と他の何か覚醒するような活動を組み合わせた「間違った学習」を繰り返さないためです。

 

もう少し臨床的な例でいけば、この古典的条件づけは不安障害の治療でもよく用いられます。

例えば、踏切が降りて、電車の通過を待っているときに、電車と車がぶつかる悲惨な交通事故を目撃してしまったとしましょう。

このとき、悲惨な事故と踏切を結びつけて学習してしまう古典的条件づけが成立してしまったとします。すると、踏切を見ると、恐怖感に襲われて、近づけなくなってしまうかもしれません。いわゆる「踏切恐怖症」となってしまうわけです。

この時にも、治療法は「誤った学習を断ち切る」ことを目指して行われます。つまり、踏切に近づいたとしてもいつも交通事故が起こっているわけではないこと、安全である事が多いことを体感し、「踏切」と「恐怖」の結びつきを弱めていくわけです。

具体的には、初日には踏切から離れたところに立ってみて、事故が起きていないこと、安全であることを確かめていきます。

安全であることを体感したら、翌日には前日よりも10歩ほど踏切に近づいてみます。ここでまた、事故が起こらない事や安全であることを体感します。

こうして、少しずつ踏切に近づいていき、最終的には踏切を渡っても安全であることを確かめるのです。この実験は積み重ねれば積み重ねるほど、古い間違った条件づけを断ち切ることができます。

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いかがでしたか? 他にも例はあります。

 

・昔いじめにあって以来、人を信用できなくなった。それで人付き合いに消極的になった。(「人付き合い=いじめ」という間違った学習を断ち切る)

・ひどい男性とつきあったのがトラウマになり、もう恋なんてしたくない。こわい。(「男性=ひどいことをしてくる」という間違った学習を断ち切る)

 

古典的条件づけの概念は、「恐れなくていいって頭ではわかっているのに、理屈抜きに怖い」というタイプの悩み事の解決に特に役立ちます。

 

<アピタル:上手に悩むとラクになる>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/nayamu/

(アピタル・中島美鈴)

アピタル・中島美鈴

アピタル・中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部などを経て、現在は福岡県職員相談室に勤務。福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪加害者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。趣味はカフェ巡りと創作活動。

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