病児のママを支えたい~女子カラダ元気塾・光原ゆきさん《スマホで視聴の方はここをクリックして下さい》
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■12粒のブドウ(1)

 光が差し込むダイニングに接したオープンキッチンで、女性も男性も一緒になって、ファミリーハウスを利用する病児のママやパパのために夕食をつくる。その中心にいるのが、NPO法人女子カラダ元気塾の理事長、光原ゆきさん(41)だ。「病児を抱える母親を支援したい」という思いから、同世代の心許せる仲間たちとNPOを立ち上げた。

 その思いはどこから来るのか。

 それは、35歳のとき、娘を出産したときの経験にさかのぼる。

 「私自身が娘を出産したときに、自分の子どもが病気で生まれてくることは想像していなかった」

 自分は退院できても、子どもはNICU、小児病棟に入院し、手術もしなければならなかった。心の準備のないまま、付き添い入院やファミリーハウスに宿泊して毎日通う生活に突入した。

 おっぱいをあげたいけど、毎日搾乳して病院に届ける日々。「何で私なんだろうと一番思った」

 「お母さんのサポートって一切ないんですよね。ずっと一緒に病院にいるんだけど、もちろんご飯は出てこないし、ベッドがあっても簡易ベッドだったり、泊まれなかったり。ご飯はどうするのか、なかなか食べる時間がない。食べ損なったり、子どもが寝たときにコンビニ行って買ってきたり。過酷な日々だったんですよね」

 そういう生活も、残念ながら「子どもがお空に帰ってしまう」ということで終わりを迎えた。

 「この子が私のところに来てくれた意味は何なんだろうな、というところが一番つらかったというか、一番私の中で大きな問いとなっていた」

 しかし、そこはなかなか消化できなかった。

 「普通に出産して健康な子に育てていたら経験できなかったことも含めて、彼女が私のところに来てくれたからこそ経験できたのであって、これを何かの形にすることが彼女が私のところに産まれてきてくれた意味なんじゃないかと思わないといられなかった」

 だからこそ、1年も経たずに動き出した。

 「たくさんの病院で付き添い入院をした日々、そのときに知り合いになった病気を持つ子どものお母さんたちをたくさん見ていましたし、そのお母さんたちの環境の改善、役立つことができればそれがこの子が私のところに産まれてきた意味なんじゃないか、その思いで活動を始めた」

 現在は、国立成育医療研究センターに隣接しているファミリーハウス「ドナルド・マクドナルド・ハウスせたがや」などで、月1回程度、無料の夕食を提供する「ミールプログラム」を始めた。

 プログラムは、三ツ星レストラン「ジャン・ジョルジュ東京」料理長の米澤文雄さんから、調理のアドバイスを受けながら夕食をつくる有料プログラムと、市井の人たちだけで料理をつくって夕食を提供する無料プログラムがある。

 ファミリーハウスを利用するママたちとをつなぐメッセージカードが、その必要性を物語っている。

 「お料理とてもおいしかったです。優しい味に癒やされました。また明日から、頑張れそうです。ごちそう様でした」

 「ごちそうさまでした。普段、炭水化物ばっかりの食事になりがちですが、お野菜たっぷりとれて、あったかいシチューに癒やされました~!」

 「久しぶりに家庭料理をいただきとてもおいしかったです。この様な事はとても大へんでしょうがあるとうれしいです」

 「とってもおいしかったです。夜までかんご頑張れます。ありがとうございました」

 どれもファミリーハウスを通じて、光原さんたちに寄せられたママからのメッセージカードだ。

 NPOのホームページには「自らの経験をもとに、医療の隙間に落ちている課題を痛感したアラフォー女子が集まり、その課題を解決するべく設立されました」とある。この活動を持続させるためには幅広い参加者や食材の確保が必要だ。持続させ、回数を増やし、提供できるファミリーハウスを少しでも増やしていくためには、支援の輪の広がりも欠かせない。

 NPOは、「ミールプログラム」以外にも、子どもが欲しいけど授からない人を支援するプログラムを始めた。

 種はまかれたばかり。NPOの理事たちも仕事を持つアラフォー女性たちだ。光原さんたちは今、調理スタッフだけでなく、プラットフォームを支えるプロボノ(自分が持つ専門知識や技能を使って参加する社会貢献活動)、これらを支える人のつながりを求めている。

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 病名を問わず、患者や家族のみなさんは、大小様々な悩みを抱えながら日常生活を送っていることと思います。アピタル編集部では、患者や家族のみなさんの「小さな願い」を、インタビュー動画でつないでいく、特集を始めます。

 タイトルは『12粒のブドウ』。スペインの大晦日、鐘の音に合わせて12粒のブドウを食べます。願いがかなうように。

 同じコンセプトで同名の企画は、2008年11月~2009年4月、ブドウの郷にある朝日新聞甲府総局が、アサヒコム(現・朝日新聞デジタル)と新聞紙面を連動させて行いました。国内外1582人から「願い」が寄せられました。今回は、患者、家族、それを支える人たちのところに、アピタル編集部の記者が出向き、「小さな願い」をビデオを使ってインタビュー取材していきたいと思います。

<アピタル:動画ニュース・12粒のブドウ>

http://www.asahi.com/apital/channel/movienews/(岩崎賢一)

岩崎賢一

岩崎賢一(いわさき・けんいち) 朝日新聞記者

1990年朝日新聞社入社。くらし編集部、政治部、社会部、生活部、医療グループ、科学医療部などで、医療を中心に様々なテーマを生活者の視点から取材。テレビ局ディレクター、アピタル編集者を経て、現在は連載「患者を生きる」担当。『プロメテウスの罠~病院、奮戦す』、『地域医療ビジョン/地域医療計画ガイドライン』(分担執筆)