[PR]

あけましておめでとうございます。2016年が始まりました。

本年も引き続き「認知行動療法」をご紹介していきます。認知行動療法は、自分の心のマネジメントとしても、部下や子どもや家族と実り多い関係を築くためにも、とても役立つものです。

なるべく身近な例をたくさん用いて紹介していきたいと思いますので、今年もどうぞよろしくお願いいたします。

認知行動療法には源流となるふたつの流れがあり、そのうちのひとつが「行動療法」と呼ばれるものです。その行動療法のベースとなった学習理論のうち、前回(http://www.asahi.com/articles/SDI201512246024.html)は「オペラント条件づけ」をご紹介しました。

今回も「子どもがスーパーのお菓子売り場の前でだだをこねる」という例を取り上げながら、この「オペラント条件づけ」がどのように医療や教育の現場で用いられているかをご紹介します。

オペラント条件づけの例として、前回は以下の例を挙げました。

 

スーパーで「あれ買ってよ、買って~」とだだをこねて泣いている子どもに対して、母親が一時しのぎでお菓子を買い与えると、その後お菓子売り場で決まってだだをこねるようになる行動を促進する

 

子どもはこのとき、だだをこねるとお菓子を買ってもらえるということを学習したといえます。それを図にすると、以下のようになるのでしたね。

写真・図版

 

そうです。この図でいけば、

 

・また別の日にその子どもが母親とスーパーに買い物に来て

・また欲しいお菓子があって

・また母親に「だめ」と言われた

 

ときには、子どもはきっとだだをこねることでしょう。「よし、まただだをこねたら、お菓子を買ってもらえる!」と本人がはっきり意識しなくても、です。

なぜなら、過去にだだをこねることで、お菓子を無事に手にすることができているからです。あまり意識しなくても身体が自然に覚えているかんじです。

 

それではこのとき、母親はどのように対応したらよいのでしょう。

私も子育て真っただ中。子どもの教育ほどいろんな価値観が多く存在し、結果が長期的で見えにくいものはありませんね。(そもそも、何を「結果」とするかもさまざまですし)

私にそんな壮大なテーマは語れませんので、ここでは「だだをこねてお菓子をねだる」という困った行動を減らすことを目標にします。

というのも、大人になっても同じパターンの行動を繰り返していては、子どもはいつまでたっても「適応」することができません。どこかで子どもに「だだをこねるより得策がある」と別の行動を学ばせる機会が必要です。

「どうすればよいかなんて、子どもは自然に学ぶものだ」という意見もあるでしょう。けれど、そのまま大きくなってしまった大人も案外いるものです。そういう大人は「だだをこねる」かわりに

 

・どうなるかわからないぞ、などと脅してみる

・暴力をふるう

・要求が通るまでひたすら相手を無視する

 

などの行動を取りがちです。自分の子どもにはこういった「うまく人と接することのできない大人」にはなってほしくないですよね。子どものうちに適切な行動ができるように教えておけば、そうはならずにすむはずです 。

 

また短期的な視点にたつと、わずか数年とはいえ、子どもが小さいうちはこの母子にとって買い物は常に「お菓子を買うか買わないかの攻防戦」となります。それは母親にとって、負担の大きいものになってしまうでしょう。

ただでさえやることの多い主婦にとって、買い物という毎日の家事が苦痛に満ちたものになってしまえば、イライラが慢性化し、楽しい時間が減ってしまいます。

本来であれば、親子で買い物に行くのは、もう少し楽しい活動のはずなのです。スーパーじゅうに広がる我が子のわめき声におたおたしたり、駆け回る子どもを怒鳴りながら追いかけ回したりするかわりに、「今日のご飯は何にしようか。ほら、ニンジンがおいしそう!」なんて会話が親子でできればいいと思いませんか。

「小さい子どもだから泣いても仕方ない」「数年なのだから、買い物はあきらめて宅配になさい」などいろんな声も聞こえてきそうですが、あきらめる前に一度は試してみてほしい方法をご紹介します。

 

まず、スタートする場面によって対応が異なります。1<2<3の順で実行は難しくなります。特に3は、こちらに覚悟が必要です。病気でも掃除でもなんでもそうですが、未然に防ぐことが最も省エネですね。

 

・【1】だだこね防止編 : 初めてお菓子コーナーでお菓子を欲しいとねだられ、今日は買う予定がない場合

・【2】初めてだだこね編 : お菓子コーナーで今日は買わないことを伝えたときに、初めてだだをこねだした場合

・【3】習慣的だだこね編 : すでにお菓子コーナーにいくとだだこねが習慣化している場合

 

さて、【1】だだこね防止編からです。

 

【1】だだこね防止編 : 初めてお菓子コーナーでお菓子を欲しいとねだられ、今日は買う予定がない場合

これの対処は、そもそもオペラント条件づけが働かないようにしておくことが鍵です。

つまり、「だだをこねる」という行動の代わりに先手を打って「今日はお菓子を買うことはできないよ。でも、今“まあ、いっか”って我慢してママと一緒に野菜買ってくれたら、あさってはお菓子が買えるよ」と言います。

子どもにしてみれば、「“まあいっか”と言って我慢=お菓子を買ってもらえる」という新たな図式を提示されるわけです。そして、その図式に乗っかって我慢して無事にお菓子を手に入れるもよし、図式を無視してお菓子を見逃すのもよし、という具合に本人の選択にまかされているわけです。

この「あなたが望めばこうして手に入れることができますよ。のりますか? どうしますか?」というスタンスが大事です。

反対に望ましくない提示の仕方は、「今泣いたら、もう次からここでお菓子は買ってあげないよ」というようなかんじのものです。

子どもからすると、泣くことが禁止されたうえになんだか脅されているかんじです。しかも、泣かない代わりにどんな行動をすればよいのかわかりません。大人で言えば、例えば仕事中に「私語をするな」と注意されたものの、肝心の仕事の内容を教えてもらっていないようなかんじです。

やるべきことがはっきりしないと、ついつい感情に任せた反応に終始しがちです。そうではなくて、代わりにしてほしい行動を具体的に教えることが大切です。

「我慢する」というのは動きがないので、子どもにはわかりづらい行動になります。それよりは代わりに「気が紛れる活動」「子どもの好きな活動」を具体的に指示した方が成功率を高めることができます。

 

「代わりにカートを押してみようよ」

「いちばん大きいニンジンをみつける競争しようか」

「"か"のつく野菜を探しにいこう」

「レジにつくまで赤いものたくさん見つけた方が勝ちね!」

「あ、早く家に帰ったら面白いテレビがあるんだったよね!」

 

その子なりのツボもあるでしょうから、工夫してみる必要がありますね。

次回は【1】でうまくいかなかった場合を想定した【2】、そしてもっとも難しい【3】について、ご紹介します。

 

<アピタル:上手に悩むとラクになる>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/nayamu/

(アピタル・中島美鈴)

アピタル・中島美鈴

アピタル・中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。

こんなニュースも